『魔法炸裂』
「……見えた! 魔力が見えたよ、リッタ! 確かに僕の中で何かが蠢いてるよ!」
全神経を身体の中心に集中させて無心になっていると、突然その感覚が僕の中に現れた。気体のような流体のようなその何かが僕の胸の内側で動いている。そんな感覚だ。
この時、僕は確かに感じた。僕の中にも魔力が流れている事を。
そしてリッタが僕に言う。
「心葉、そのまま呪文を唱えてみて! 『バーニングブラスト』だよ!」
「うん、いくよ! 『バーニングブラスト』」
本に載っていた火属性中級魔法、『バーニングブラスト』を唱える。
この呪文を唱えて、何かが起これば……あれ? 起こればいいんだよね? なんか光るとかそれぐらいの……。
「ちょっ、リッタ? なんか出てきたんだけど……」
「え? なんで⁉︎ 魔法陣だよ!」
リッタの言う通り、それは魔方陣だった。円形の中に星があり、ところどころに何かの文字が浮かんでいる。僕の知っている魔法陣だ。
「なんで出来ちゃうの⁉︎ 普通なら練習しなきゃ中級魔法なんて使えないのに!」
「いや僕にも分からないけど……これってどうなるの?」
「私にも分からないよ!」
その魔法陣はどんどん輝きを増している。輝きが増しきったその中から現れたのは、本に書いてある通りの巨大な火の玉だった。メラメラと燃えている巨大な火の玉は、僕の右手の前にずっと浮遊している。
えっと……なんか出来ちゃったけど、どうやって消すんだろ?
僕は魔法の事なんて何も分からないんだ。当然消し方なんて知らない。
「リッタ、これどうやって消そう?」
「と、とにかくどこかに投げちゃえ! そうすれば消えるよ、きっと」
「きっとって……。まぁやってみるよ!」
「とりゃあああぁぁ‼︎」
僕は右腕を大きく上に挙げて、野球の要領で思いっきり前に振り下ろした。
それと同時に火の玉が僕から離れ、少し遠くの木の下に飛んで行く。ゆっくりと綺麗な軌道を描いて、やがて木にぶつかると、ドゴオォォンという爆音と共に火の玉は消滅したのだった。
ただ消滅しただけではない。木の付近の大地が大きく抉れて地形が変わっていた。
そして、煙が立つその大きな穴を、僕らは口をポカンと開けたまま見ているしかなかった。
あれから少しだけ時間がたって、現在時は(日本時間だと)2時くらいだ。
朝家を出たのが10時だとして……もう4時間も経ってるよ。どんだけ図書館にいたんだか。
ちなみにお昼はミレナさんが作ってくれたお弁当だった。サンドイッチがとても美味しい。
僕らは草原の上にシートを広げて、お昼を食べている。
あの後も何故かは分からないが、全ての属性の中級魔法が高出力で放たれ、さっきまでの広々とした草原が穴だらけになっていた。それぞれ燃えていたり、光っていたり、水浸しになっていたりと魔法の被害が残ったままだ。
最初の火属性魔法『バーニングブラスト』は、少し離れたところで大爆発を起こして大穴を開け、その次にやった水属性魔法『アクアブラスト』もまた、大量の水を爆発させて地形を破壊、その他の魔法も全てが同じような結果だ。あまりのことに、あのリッタでさえも最初から最後まで無言で立っているだけだったと言えば、その場の状況が良く分かるだろう。
リッタは僕の適正調べの後も、何事も無かったかのように「じゃあそろそろお昼ご飯にしよっか!」とシートを広げていた。正直言って僕も頭がこんがらがっている。
何をどう話せばいいものか……。いや僕から話せる事なんてほとんどないけどね?
結局無言でご飯を食べていると、やっとリッタがさっきの事について話しだす。
「心葉はほんとに魔法を知らなかったんだよね? 今日が初めてなんだよね?」
「え、えっと……それはそうだけど……」
「あのね、疑ってる訳じゃないんだけどさ。その……やっぱりさっきのって……全部出来ちゃってるんだよね?」
「そんな気はするけど……どうなんだろ?」
話しだしたはいいものの、どちらも本題に入れないでいた。やっぱりさっきの衝撃はかなりでかいのだろう。全く頭がまわっていない。
「あのさ、もっと落ち着いてから話そっか。何て言うか……今はちょっと頭が混乱しちゃって」
「うん、そうしよう。僕もかなり混乱してる。早く帰っていったんお風呂に入りたいかな」
「私もそんな感じ」
「じゃあ早く食べちゃおっか」
「うん……」
結局何も話す事なく、僕らはミナヅキへと帰るのだった。
そろそろ第一章が終わりそうです。
お読み下さった方々、ありがとうございます!
ちなみに、第二章からは本格的に旅が始まります!




