『適正と見えかけた事実』
朝食をおえると、僕とリッタはすぐに家を出た。
今日は、リッタと一緒に魔法の勉強だ。
ルナミア……ルナがさっき教えてくれたのは僕が魔法を使えるかどうかってだけだから、残念ながらまだ僕は魔法の使い方すら知らない。リッタは知っているようだったけど、教え方が分からないと言われた。
だからこれから図書館へ行くことにしたのだ。
図書館で学べるとはあまり思えなかったけど、もしかしたら神教材なるものがあるかもしれないし、とりあえず行こうと言う事になったのだ。それに僕も図書館には興味があったからね。
この世界にもパソコンとかスマホとかがあればいいのにな。ま、あっちの世界じゃ魔法みたいなものがなかったから科学技術が進歩していったんだと思うけど。きっとこっちでも魔法のお陰で進歩しているところがあるのだろう。
おっと、もう図書館に着きそうだ。
流石リッタはこの街の近道という近道をマスターしている。普通の道を通れば15分のところが、だいたい5分くらいでついてしまった。
「『普通魔法の極意』に『火の魔法〈上級編〉』、『魔力辞典』。どれも違うねー」
「確かにあまりないなぁ。もう少し探してみよ?」
「うん、そうだね。初心者向けの本なら絶対あるはずだし」
図書館についてからずっと2人で魔法の本を探している。
実は、魔法の本を探すために必要そうな言葉を文字にしてリスト化してもらっていたのだ。
話しが出来るから必要な単語を言ってリッタに文字を書いてもらう。極々単純な作業だし、少しの文字を覚えるだけだったからけっこう簡単だった。
だから少しの文字だと思っていたものが大分多くの文字の読み書きを覚えてしまった。
英語や日本語よりもはるかにルールが簡単で、一度そのルールさえ掴めれば、日本語50音分の読みは簡単に出来る。
ただ一つ問題があるとすれば、対象物のこの世界での呼び方を知らないといけないということだった。まぁそれはその都度なんとかすれば良いだけだから大したことでもないのだけど。
ある程度の文字は読めるようになったから、あとは頑張って探すだけだ。だけなんだけど……多い、多すぎる!
なんでこんなに本があるんだよ! いや本があるのは当たり前か。でもここは違う。童話とか小説がとても少なく、一万冊ほどある本のおよそ8割を魔法の本が占めている。しかも種類分けはされていない。見つけようと思っても見つかるわけがない。これじゃあ1日丸々潰れてしまう。
リッタに言って他の方法をさがそう。
そう思い、リッタに話しかけようとした時、彼女は言った。
「あった! あったよ、心葉。『初めての魔法』これだよ!」
「ほんとだ! やっと見つかったね! じゃあそれを借りて行こう!」
「そうだね、早く魔法覚えようね‼︎」
リッタの目がキラキラとしている。まるで真夏の日差しのように輝いてるよ。そんなに魔法を使ってみたかったのか。僕と同じでなんだか少し嬉しいな。
僕も早く覚えたいし、はやく行こう!
無事本を借りて、今度は街から少し出たところにある草原に来た。ここは僕が最初に目を覚ましたところのすぐ近くだ。街の中で魔法は使わない方がいい、そう考えてここまで来た。みんなに迷惑がかかるからな。主に初心者だと。
2人で地面に座って、さっきの本を開く。
一番最初のページに書いてあったのは、魔法の適正の調べ方だった。
そういや、ルナミア……じゃなくてルナだったっけ。まだ慣れないな……。
僕の魔法適正はルナがもう調べてくれてある。あの時はルナが手をかざしてただけだったんだけど、ここに載ってるのが本当の調べ方なのかな?
「えっと、なになに?
『まず最初は、目をつぶって無心になります。その次に、胸のあたりに意識を集中させ、魔力を感じ取ります。感じ取れたら、それぞれの属性の中級魔法を唱えて、少しでも光ったり、変化が起こった魔法の属性が適正です』っと。なんだかいやに簡単だね。それじゃあやろっか!」
「やりたい! 私からやる‼︎」
凄い勢いでリッタが手をあげる。
まるで無邪気な子供だな。昨日の映像の小学校入学の時の自分を思い出す。いつからだっただろう? あんな風に誰かとはしゃぐこともなく、1人でいることが好きになったのは。もう覚えてないや。
リッタがひと通りの作業を終えて、地面に突っ伏している。どうやらとても疲れたらしい。それはそうだよね。今まで全く使ったことがないのに急にたくさん使ったから。って言っても僕のこのアニメの知識が合ってるのかはわからないけど。
「うわ〜、疲れたぁ。魔法って思ったよりも疲れるんだね。急にたくさん使うと疲れるってよく言うけど、まさかここまでとは……」
やっぱりだいたいあってたよ。僕のアニメ知識はいろんなところで役に立ちそうだな。
だけど……なんか引っかかるなぁ……。
地球のアニメの世界がこの世界と被りすぎちゃいないか? ここまで同じになる事があるのかな?
僕は自分で考えられるだけの事を考えてみた。思考と分析は僕の得意分野だ。
もしかしたら僕が初めてじゃないとか? 僕よりも前にこの世界に来ていた人がいる? いや、そうじゃないな。この世界の人が昔に地球に来ていた?
そうだ! それだ!!
何故そう思うのかと言うと、魔法の形態だったり、世界観だけでなくて、この世界の言葉も地球でのそれと似ていたからだ。
だいたい魔法のない地球で『魔法』と言う言葉を使っていて、この世界でも、通訳の魔法で『魔法』って言う言葉が伝わるんだ。
おかしいだろ! もっと早く気付くべきだった。
もしもこの世界の人が昔に魔法で地球に行って、魔法や言葉を教えたとすれば、もしくは地球人がこっちに来て魔法とかを覚えて帰ったとすれば、いろんなことに納得がいく。
どれも今の僕に関係のある話ではないんだけど、面白そうだから調べられるものは調べてみようかな。
おっと、それよりも今はリッタだ。
「大丈夫、リッタ?」
「うん、大丈夫だよ……多分……」
「多分って……」
「疲れたけどね、結果は良かったんだよ。なんと私は水と聖の属性の魔法が使えるの! どお? 凄いでしょ?」
「確かに凄いね! 僕もいちおうやってみようかな」
「いちおう?」
「あ、いや、なんでもないよ……」
あー、そういや話してないっけなぁ、ルナのこと。話すべきか話さぬべきか……悩むな。
そういう人に会ったって話だけはしとこうかな。
僕が他の世界から来たっていうのと同じで、夢の中でルナって人に会って魔法の適正を調べた、なんて言ってもどうしようもないかもしれないけど。
リッタ家を除くとして、僕に接触してきた初めての人間だからね。これもいちおうになるけど、この魔法の勉強が終わったら話をしておこう。
僕はそう決めて、胸に精神を集中させた。




