『寝起き騒動』
少女の顔が映っている。
その目はじっとこちらを見ているが、少しニヤついていた。だが、ニヤニヤと僕を見つめる少女を見てとても安心する。
さっきまで抱えていた不安。目が覚めたら違うところにいるかもしれないという不安が、その少女、リッタの顔を見てどこかへ吹っ飛んでいった。
「良かった……こんどはちゃんとここにいる」
気がつくと、薄く涙を浮かべてそう言葉にしていた。とても小さく、誰も聞き取れないような声で。
でも、リッタにはしっかりと聞こえていたようだ。
彼女はもうニヤニヤしていない。まるで母親のように優しい顔で僕に言う。
「もう……どこにも行かないよ。私がずっと一緒にいるからね」
彼女の腕に包まれ、優しい声に安心する。
僕は怖かったんだ。やっと手に入ったこの環境が一瞬にして遠くへと行ってしまうのではないかと。
もうどこにも行かない。心から待っていた台詞を彼女が口にしてくれたこと。それが僕をこんなにしたんだろう。
目が覚めたばかりなのに、嬉しく楽しい夢の後なのに、僕の目にはたくさんの涙が流れていた。
ありがとう、リッタ。そう心の中でお礼を言う。
涙が出なくなるまで、僕はリッタの腕で包まれていた。
涙も乾き、いつもの僕に戻る。そこでふと思った。
なんで彼女がここにいるんだ ⁉︎
昨日、僕は布団を敷いてリッタはベッドで寝ていたはずなのに、彼女は今僕の布団の中で一緒に寝ている。
今の時間はだいたい5時ぐらいだろう。彼女が起きてから僕の布団に入って、目が覚めるのを待っていた確率は低い。とすると……夜中だな。
夜中のうちに、僕が寝た後にこっそりと布団に入って来たんだな。きっとミレナさんの入れ知恵だろう。
リッタが自分でこんなことするはずがない。とは言い切れないが、多分そうだ。ま、とにかく起こそう!
「あのぅ、リッタさん? なぜ僕の布団の中にいるので?」
「あぅぅ、ふわぁ、あ、心葉、おはよう」
「いやおはようじゃなくて! なんで僕の布団の中にいるのさ!」
「昨日の夜ね、なんだか目が覚めちゃって眠れなかったからさ、心葉のところに一緒に入ったんだ。ママにも心葉と一緒に寝れば?って言われてたし、良いかなって」
「はぁ、やっぱりか……」
ビンゴ! 思った通りだった。
やっぱりミレナさんが大まかな原因だったか……。
まったく、お風呂の時といい、今回といい、いいかげんにしてほしいものだ。これでも思春期真っ只中なんだから、これじゃあ生殺しみたいなもんじゃないか。
たまたま僕が気づかなかったからよかったけどさ……いやよくはないけどね。
後でちゃんと一言言いに行こう。
お説教のようにリッタに少し話をして(一応感謝はしていたから、そんなに強くは言えなかったが)、朝食を食べに向かった。
案の定、ミレナさんはニヤニヤしてる。
いい迷惑だっての!
「あらあら、そんな怖い顔しないで」
「誰のせいだとおもってるんですか! 毎回毎回こんな事やってたら僕の身が持ちませんよ!」
「うふふっ、いやでしたか? あれでもリッタの胸は結構あるのよ?」
「と、とにかくもうリッタに変なこと言わないで下さいよ!」
「でもさっきはあんなにリッタに甘えてたのに」
「見てたんですか⁉︎」
「うふふふっ」
まったく、うふふふっじゃないよ……。
にしてもどえらいところを見られてしまったな。あ、だから急に胸の大きさの話なんて……あぁ、思い出したら恥ずかしくなってきた。顔が赤くなってるのが自分でもよくわかる。うぅ、恥ずかしい。
そのまま朝食をとっていたが、その間ずっと顔が赤かったんじゃないかと思う。リッタの顔を見るたびにさっきのあの感触が僕の顔を熱くする。
このままじゃ顔が沸騰しそうだ。
「心葉、大丈夫? 顔が真っ赤だよ?」
「うん、大丈夫、大丈夫だから今はちょっと僕の顔見ないでくれると嬉しいな」
「心葉さん、そんなに顔を赤くしちゃって。次はリッタに何をしてもらおうかしら」
「ほんとに……いろいろと……もたないので……勘弁して下さい……」
そう言って水を一気に飲み干す。と一緒にご飯も一気に食べてしまった。味噌汁……ではないけどスープが喉を通り抜ける。
本当に二人には、特にミレナさんには勘弁してもらいたいな……。




