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異世界の常識破壊者【オーバーブレイカー】  作者: しまらぎ
一章 〜異世界と旅立ち〜
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『彼女が僕に願うこと』

 歯磨きなども全部終わり、リッタの部屋で寝ようとしていた。と言っても、ベッドの横に布団を敷いているだけだが。大変だったのはその前だ。

 一緒にベッドで寝るか寝ないかで結構もめていた。もちろん僕は断り続けて、結果それは避けることができた。だけどまだ怖いんだよな。

 朝になったら僕の布団の中に入ってきてた、みたいなことにならなきゃいいんだけど……大丈夫だよね? うん、きっと大丈夫だろう。僕は信じてるぞ!


 部屋の電気を消して布団に横になる。

 ほんとに女の子と一緒の部屋で寝てるのかと考えると緊張して、言葉がなにも出てこなかった。

 リッタも同じなのかな。さっきから何も言わない。と思っていたら、リッタがさきに口を開いた。


「あのさ、私、心葉と一緒に旅がしたいな」

「え?旅って……旅、、だよね?」

「うん、旅」


 今日初めて出会った女の子から、その言葉が出た時、僕はとてもびっくりした。

 もう一度言うけど、さっき出会ったばかりなのだ。親切にしてくれるのは分かるけど、それだけで他人を自分の部屋に入れて一緒に寝ようとしている。風呂の件とか出かけたこととかを合わせれば、今日一日の彼女の行動言動、それ自体が謎である。

 この短時間で彼女が何を感じたのか、正直僕には分からない。でも彼女のどこか遠くを見ているようで、でも真剣なその眼を見ると、彼女にとってとても大切な、とても重大な何かだと言うことが伝わってくる。

 だからこそちゃんと聞かなければならないだろう。

 僕はそのまま彼女が言葉を続けていくのを、ただただ黙って聞いていた。


「私ね、今までこの街から出たことないんだ。いつかこの街を出て、世界を旅するのが夢なの。でも私だけじゃだめだから……誰かと一緒に行かなきゃいけない。この街にはいろんな人が来て、その中には私と同じぐらいの歳の子はたくさんいたんだ。でもね、その人たちはみんなすぐにいなくなっちゃうの。どんなに仲良くなっても、すぐにどこか遠くに旅立っちゃうんだよ」


 そうか、リッタには僕みたいに長期間にわたってこの街に滞在するような友達はいなかったんだ。

 だから彼女の夢は叶うことがない。以前の僕と同じ、スタート地点に立てていない状態だった。


「そんな時に心葉に出会ったんだ。最初はね、ただ困ってる人がいたから助けようって思ってただけだったんだ。でもね、心葉と話しててとても楽しいなって、仲良くしたいなって思ったんだよ。今日一日いっぱい街を走って、いっぱいお話しして、その気持ちがずっと強くなったの。

 心葉はいつか絶対にこの街を出てっちゃうよね。そしたらもうずっと会えないと思う。だからね、私、心葉と一緒に旅がしたいんだ! おかしいよね、さっき会ったばかりなのに。

 でも、心葉と一緒にいたらそんな気持ちになったの! 私はこの気持ちを今だけのものじゃないって信じたい ‼︎

 だからさ、心葉。もし心葉がこの街を出る時が来たらさ、私も一緒に連れて行って欲しいんだ。無理なお願いかもしれないけど、考えておいてほしいな。 いい……かな?」


 その答えを出すのに、少しの時間もいらなかった。

 リッタが僕と同じぐらいの年齢だったから、リッタが僕の好みの女の子だったから。そんなことじゃない。


 僕がこの世界に来て、初めて僕に優しくしてくれた人だから。見ず知らずの僕を、その優しさで助けようとしてくれた人だから。なにより、僕自身が心からリッタと一緒にいた時間に楽しさを感じていたから。

 そこに、断る理由は何一つとしてなかった。


 だけど理屈じゃないことだってある。

 僕には圧倒的に力が足りない。旅をする以上、彼女と自分自身を守れる力が必要だ。だから僕には時間がいる。力をつける時間が。


 だから、これが正解なのかは分からないが、僕はこう答えた。


「僕も君に一緒にいてほしい! 僕も君と一緒にいたい!

 僕が旅に出るのは間違いないよ。でも、まだこの街にいるつもりではいるんだ。だからさ、リッタがいろいろ教えてよ。それで、僕がリッタと自分をしっかり守れるようになったら、一緒に旅をしよう。

 それまで待ってて欲しい。時間はかかると思うけど、僕、絶対に強くなるから!」

「うん! それまで一緒にいろんなことを勉強しよう。強くなるのは心葉だけじゃないよ。私も一緒に頑張る! だからこれからもよろしくね、心葉 ‼︎」

「こちらこそよろしく頼むよ、リッタ!」


 うっすらと涙を浮かべる彼女の顔は、笑顔に満ち溢れている。

 リッタを守れるぐらいにならないと、旅なんてできやしない。僕がこれからする旅は、きっと険しくなるだろうから。なんてったって、世界をまたぐような魔法を使えるようにならなきゃならないのだから。

 でもその前に、リッタの夢を叶えてあげたい!

 それが僕にできる唯一の恩返しだ。


 ふあ~ぁ、もう眠くなってきちゃった。早く寝よう。


「それじゃあそろそろ寝よっか。おやすみ、リッタ」

「そーだね。おやすみ、心葉」


 今日はいろいろなことがあったな。思い返してみればすごい一日だった。考えてみると、さっきまで違う世界にいたのだ。そういえばまだこの世界の名前を知らなかったっけ。あ、でも向こうの世界にも名前はないか。『地球』ってのはあったけど。ここも『地球』といっしょで星なのかな。星じゃなかったらどうなんだろ。無限と陸が続いていくのか、どこかで壁にぶつかるのか。

 それとも、急に宇宙みたいな場所に落っこちたりして。あの人もこの世界に生まれてたら証明できたのかもな。



 またあの時みたいに夢を見て、起きたら異世界なんてことが起こらないとも限らないから、考えると寝るのが怖くなる。せっかくリッタに出会えて、この世界で生きてくのが楽しみなってきたのにここでさよならなんて嫌だからな。

 はぁ、いつまでたっても眠れないや。もう考えるのはやめよう。

 結局、僕はすぐに眠りについてしまった。


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