『両親とリッタの部屋』
リッタの気持ちは素直に嬉しい。見ず知らずの僕を泊めてくれると言うんだから。お言葉に甘えたいとは思う。けどここで引き下がったら良くないよね。同じ部屋っていうのだけはなんとしても避けないと。
どうにかして同室を避けようと考えていると、リッタの後ろの方から声がした。
「ほーう、リッタ。お前はその男を家に泊める気か?」
顔を上げて目に映ったのは、さっきのフロントの男の人だった。そう、リッタの父親だ。
あぁ、終わったな……。
何故だろう? 人生の終わりを感じる。
近くに来るとやはりでかい。僕と2.30センチくらい差がありそうだ。
やっぱり聞かれてたのかな? 僕らの会話。なんだかまずいことになったような……。
頼む! リッタ、変なこと言わないで!
「うん、そうだよ! この人はね、心葉って言うんだ! さっき商店街で会ったの。なんだか困ってるようだったから家に連れてきたんだよ。家に泊めてあげてもいいよね? 私の部屋を使うから」
「ハッハッハ、面白い! リッタもついに男を家に連れ込むようになったか! うっし、いいだろう。おいお前、心葉って言ったか? リッタになんかしたらただじゃおかないからな?」
「えっと……はい」
なんでこうなる……。親ならまずは止めようよ……。結局僕は一言も話すことなく決まってしまったじゃないか。
今更ながら情けないな……。
子が子なら親は親、親が親なら子は子ってどっちが正しいのやら。この親の子ならリッタのあの性格にも頷ける。
僕は凄いところに来てしまったのかもしれない……。
はぁ、とりあえず自己紹介はしとかなきゃか。
「僕は三波心葉っていいます。これから少しの間、よろしくお願いします。手伝いとか、出来ることはやるので何でも言ってください」
「俺はグリア・エルクストだ。よろしくな!少しと言わずずっと泊まってけ! リッタの客なら大歓迎だ!」
「私はミレナ・エルクストです。よろしくね、心葉さん!」
ん? いつからいたんだ、この人。リッタのお母さんだよな? さっきのフロントの。この家の人はみんなステルス能力でも持ってんのかな? みんな気配がなさすぎるよ……。
「よろしくお願いします、グリアさん、ミレナさん。あとリッタも!」
「うん。じゃあ心葉、部屋に行こ!」
「そうだね、頼むよ」
挨拶を済ませて、僕とリッタは部屋に向かった。
宿屋ってだけあって、廊下とか建物の中全部がとても綺麗だった。まったく僕の家とは大違いだな。
なんだか見慣れない像や絵画みたいなものも飾ってある。この世界の偉人かなんかかな?
こういうところは僕らの世界と同じような感覚なんだろう。
いろいろと見ながら歩いていると、すぐにリッタの部屋に着いてしまった。
人生初の女の子の部屋だ。なんだか緊張してきた。
ガチャリと音を立てて、リッタが部屋の扉を開く。
「おぉー、ここがリッタの部屋かぁ。とても綺麗、というか可愛い部屋だね」
「そーかな? ありがと。私、自分の部屋に男の子入れたの初めてだから少し恥ずかしいな。なんか緊張する」
「えっと……初めてだったの?」
「うん!」
あらら、また凄いことを仰るなぁこの子は。対女性感覚が麻痺しそうだ。あっちの世界にこんな子いたかな?
なんて考えても、女の子と話したことほとんどない僕には何も分からないか……。
とにかく会話がもってくれるといいな。
これから先の心配をしていると、リッタがまた話しだした。
「じゃあ荷物置いて外に行こっか。心葉はまだこの街のこと何も知らないでしょ? 私が案内してあげるね!」
「そういえばそうだった。これからどうしてくかとかも考えないとだっけ」
「それも後で一緒に考えようね! さ、行こ!」
そうやってまた彼女に手を引かれミナヅキを後にした。




