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勇者パーティーを追放された薬師が,元メンバーをざまぁするまで

作者: 立草岩央




「お前とは,これ以上やっていけない」


開口一番そんなことを言った,パーティーリーダー兼大剣使いのバルトロ。

正直何を言っているのか分からなくて,俺は再度聞き返した。


「な,何だって?」

「聞こえなかったのか? お前とは,もう組めないと言ったんだ」


はっきりと,そして挑発するような大きな声が両耳を突く。

これは俺に非がある言い方をする時に,決まって出るテンプレートな声質だ。

出たな妖怪声,と思いながらも組めないという単語自体は始めてだった。


「……俺が何かしたのか?」

「何かだと? これだけ言っても,まだ自分の非を認めないのか!?」


キレに拍車が掛かるバルトロ。

彼を擁護するように槍使いの女性,リリスが声を荒げる。


「そうよ! アンタのせいで巨竜に負けたのよ!? そこんとこ分かってる!?」


俺を罵倒する以外で見たことがない彼女の阿修羅顔を受けつつ,とりあえず思い返してみる。

つい先日の話,俺達勇者パーティーは魔王に従属する巨竜の討伐を試みていた。

ソイツを倒すだけで,魔王の勢力を弱らせるほどの強大な力を持つという噂だった。

相対したが,成程の威圧感だった。

山のように巨大なその竜からは,一切力の底が見えない。

確実に反撃する機会を伺っていたし,あのまま行けば大怪我では済まなかっただろう。

だがバルトロ達は巨竜相手に押していると勘違いをした上,更にその懐へ潜り込もうとしていた。

一旦引くべきだという俺の進言も完全に無視。

直後,巨竜が反撃のために大口を開きかけていたのを,俺は見逃さなかった。

持っていた自作のアイテムを仕方なく使用し,自分を含めたメンバー全員をマーキングしたダンジョン入り口まで強制転移させたというわけだ。

体勢を立て直して皆で慎重かつ協力して戦えば,勝てない相手ではなかったはず。

しかし,転移させられたことに腹を立てたバルトロ達は,一斉に俺を非難し始める。

体勢を立て直すどころの話ではなくなり,討伐自体も取りやめになってしまった。


「あの巨竜には余裕があった。あのまま突撃していたら,確実に返り討ちに遭っていた。一度,作戦を立て直すべきだったんだ」

「ふざけるな! お前があの時邪魔をしなければ,俺達はヤツを倒せていた! そのチャンスをみすみす逃したんだよ! お蔭で報酬もゼロだ!」

「……命よりも報酬の方が大事なのか? リーダーなら,もっと冷静に考えてくれよ」

「な,何だと……!?」


反論するも,バルトロの顔は怒りでますます赤くなっていく。

冷水を入れた薬缶やかんを置いたら沸騰しそうだな。

そう思っていると,最後のメンバーである女性のフィーアが,煩わしそうに声を上げた。


「もういいよ。こんなヤツに何言っても仕方ないよ。さっさと切っちゃお」

「そうだな。所詮はただの薬師。こんな足手纏いを連れている俺達が,どうかしていたんだ」


いつの間にか,俺のパーティー追放は決定事項になっている。

勿論巨竜の件だけで,ここまで酷い事態になったわけではない。

積りに積もったものが爆発したというべきか,元々俺はパーティー内で厄介者の扱いだった。

自分勝手に動くリーダーのバルトロを注意したのが,そもそもの発端だった気がする。

それから俺は嫌がらせレベルの雑用を押し付けられ,その量は一人で出来る許容量を超えていた。

他のメンバーもバルトロ派のため,手伝う素振りは見せない。

それでもどうにか雑用をこなしていたが,それ以外の責任問題も全て俺に擦り付けられる。

クエストの進捗が上手く進んでいないとか,今日は調子が悪かったとか。

全く関係のない所まで俺のせいにされた時は,乾いた笑いしか出なかった。

皆のために色々頑張ってきたけど,もういいかな。

何だか面倒くさくなって,俺はその意見に賛同した。


「分かった。そこまで言われちゃ,俺もここにいる理由はないな」

「ふん,ようやく分かったか! 自分がどれだけ無能だったのか!」


喜々としてバルトロが高らかに勝利宣言する。

魔王に勝つために編成されたパーティーの筈なのだが,彼は今何に勝とうとしているのだろう。


「清々するわ! アンタの顔を見ずに済むんだから!」


槍使いのリリスが鼻を鳴らす。

その阿修羅顔を止めてくれと言おうとするも,余計酷いことになりそうなので黙っておく。


「回復役なんて,私一人いれば十分だし。薬師なんて代わりは幾らでもいるんだよね」


常に面倒そうな表情をする魔術師のフィーアが,投げやりにそんなことを言う。

治癒術師の前には治療薬なんていらない,と何かと主張していた彼女だが,俺が回復以外に色々やっていたことを忘れてないだろうか。

本当にこれ,三人でやっていけるのか。

急に不安になった俺は,今までやって来た雑務の引継ぎを提案する。


「なぁ。一応,俺がやっていた仕事の引継ぎくらいは」

「引継ぎ? そんなもの受けなくても誰でもできる! お前みたいに,呑気していないからな!」

「えぇ……」


別に呑気はしてない。

今までやって来た効率の良い雑務のこなし方など,教えたいだけなのだ。

だが,絶対に聞いておいた方が良いと何度も言っても,取り合ってくれなかった。

曰く,もうお前はパーティーメンバーじゃないから口を挟むのは論外だ,とか何とか。

俺も皆と波風立てないようにすべきだったが,ここまで来てはどうしようもなかった。

結局,俺こと薬師レクトは,僅かな後悔を抱きつつ勇者パーティーを離脱することになった。







それから一,二週間ほどが経って。

俺は王都で職探しの真っ最中だった。

仮にも勇者パーティーに属していた身だ。

それなりのお給金は貰っていたし,暫くは何もしなくても食っていける。

とは言え,何れは底を尽きるもの。

次に身を置ける場所を探すのは当然だったが,畳みかけるように大きな問題が立ちはだかった。

バルトロ達が流していた俺に対する悪評が,無駄に広まっていたのだ。

彼らの名は世間一般に広まっていたこともあって,何処の職を探しても受け入れてくる人がいなかった。

まさしく風評被害である。

最早王都で定職に就くのは困難かに思えた。


「いっその事,実家に帰ろうかな」


畑を耕すのも,悪いことじゃない。

酒場の一角で酒を飲みながらそう思っていると,何者かが一人近づいてきた。


「あ,あの」

「……」

「もしもーし」

「……え? 俺?」

「そ,そうです。あなたです」


見ると薄緑色の髪が映える少女が,そこにいた。

出で立ちはごく普通の一般人。

オドオドした雰囲気で,前髪が長すぎて両目が隠れている。

どうやって俺の顔を見ているのだろう。

というか,ここは酒場なのだが。

そんな疑問を他所に,彼女が問い掛ける。


「薬師のレクトさん,ですよね?」

「そうだけど……?」

「よ,良かったです。やっと会えました……!」


何やら嬉しそうな少女。

まるで俺を探し回っていたような言い方だ。

首を捻るばかりだったが,代わりに彼女が説明する。


「この度,勇者パーティーに入ることになりました,アメリアと言います。他のメンバーの方には一度挨拶はしたんですが,レクトさんにだけ会えなくて」

「新メンバー? バルトロ達にスカウトされたのか?」

「いえ,私自身で推薦したこともあって,そこから色々と」

「……成程ね」


ようやく納得する。

彼女は俺の入れ替わりで来た新しいメンバーだった。

そして,まだ俺が除名されたことを知らないらしい。

未だ周知の事実ではないが,王都の人々は俺が就活をしている時点で何となく察している。

このアメリアという少女は,世間の噂話に疎いのかもしれない。

とは言え,あのパーティーに抜擢される位なのだから,何か秀でたものがあるに違いない。

彼女の姿を何処かで見たような気もするが,俺は気にしないまま肩をすくめた。


「わざわざ挨拶に来てくれたのは有難いけど,俺はパーティーから外されたんだ。今の俺は,絶賛職探し中の薬師だよ」

「え,えぇっ!? ど,どど,どういうことです!?」

「ま,お互い色々あってね」


ここで,愚痴っても仕方がない。

あれはもう終わった話なのだ。

飲み掛けていた酒をもう一度喉の奥に流し込むと,アメリアは意気消沈して俯く。


「そ,そんな……同じ仕事に携わるから,お役に立てるよう頑張ろうって思っていたのに……」

「え? 同じ仕事?」


直後,嫌な予感がして聞き返す。


「は,はい。私の役割は,基本的に雑務が殆どらしいです。後方支援といった方がいいかもしれませんけど」

「あっ……」


その瞬間に察する。

アメリアは俺の入れ替わりというだけでなく,俺がやっていた雑務を全て任されたようだ。

恐らく自分たち三人じゃ手に負えないと,バルトロ達も思い知ったのだろう。

近い内に彼女が仕事に追われ,絶望的な顔をする未来が見える。


「まだバルトロ達とは一緒に?」

「近々合流する予定ですけど……そ,そこからですね……」


彼女は自分がどれだけ大変な職に就いたのか理解できていないようだ。

このままでは俺と同様,幾ら力があっても無能扱いされ,パーティーから追放されてしまうかもしれない。

少しだけ考えた俺は,ようやく彼女と正面から向き合った。


「まだ合流までには時間があるよな?」

「そうですが……?」

「よし。それならこうしよう。バルトロ達と合流するまでの間,君が良ければ俺が雑務の引継ぎをする。ある程度のレクチャーは出来るから」


急な提案にアメリアは顔を上げた。


「ほ,本当ですか!?」

「あぁ。でも,考え直すなら今の内だぞ」

「考え直すなんてそんなこと……ま,任せてください……!」


新人らしい張り切り具合が懐かしい。

俺も初めてあのパーティーに入った時は,こんな感じだった気がする。

過去の自分を見ているような気がして,俺も快く引き受けた。

就活中だが,まぁ後でのんびりやれば良い。

別に金を取る気もなく,僅かな間だが二人の教育期間が始まった。


初日,俺が辞書レベルの厚さを持つメモ帳を持ってきた時点で,アメリアは色々と察してしまったようだ。

だが挫けることなく,一つずつ丁寧に噛み砕いていく。

彼女は奥手で少し空回り気味な所があったが,説明すれば聞いてくれるし,質問もしてくれる。

何を喋っても聞く耳を持たなかったバルトロ達とは正反対だった。

お蔭でこっちとしてもやる気が出てくる。

とは言えこのメモ帳は,俺のスキルに合わせて効率よく雑務が完遂できるよう改変している部分がある。

そのまま使ったとしても,アメリア自身には適応できない箇所もある。


「俺もスキルを使って,こなしてた所あるな」

「レクトさんのスキル?」

「そう。俺のスキルは二つ,調合と薬師の知恵だ。調合はどんなやり方でも成功率を100%にするもので,薬師の知恵は調合したアイテムの効力を数倍に跳ね上げる」

「そ,そのスキルは一般的で聞いたことありますけど……そんな凄い効果じゃなかった気が……」

「スキルの効力は努力次第で変動するよ。俺のスキルも元々は,平均レベルのものだったし」

「へ,へぇ……」


やたら関心するアメリア。

しかし結局は前線向きではない上,調合費用も馬鹿にならないということで,皆からは無下に扱われてしまった。

取りあえず,彼女の容量に合わせて俺は教え方を変えていく。

必要なのは個々のスキルではなく,今までやって来た仕事をどう効率よく行うかという考察力なのだ。

そして最終日。

アメリアが勇者パーティーと合流する日を間近に控える。

当然,俺のやって来たこと全てを教えられたわけじゃないし,そこまで教えられるとも思っていなかった。

代わりに,全雑務のやり方が書かれた例のメモ帳を彼女に明け渡した。


「これを私に?」

「もう俺には必要のないものだしあげるよ。要らなくなったら,いつでも捨てて構わないし」

「そ,そんな……! 絶対に捨てませんよ……!」


渡された辞書並みのメモ帳を両手で抱える。

一応今までの教育のお蔭で,初っ端から何をすればいいのか分からない,ということにはならないはずだ。

後は彼女の武運を祈るだけである。


「ほ,本当にありがとうございます! ここまでのことをして頂いて!」

「いやいや,これはしがない前任者として役目だから」


やるべき事はやり終えた。

これであのパーティーとは,すっかり手を切ったという事にもなる。

一応,我慢せずに辞めたくなったら辞めるべきだ,とも言おうとしたが,追放された身でそれを言うのはおかしな話だ。

別れ際にも,特に気の利いたセリフは出てこなかった。


「レクトさん……また,また会いましょう……!」


やっぱり目は前髪で隠れたまま,アメリアはお辞儀をして帰っていく。

名残惜しいが,もう会うことはないだろう。

そう思いながら,俺は小さくなっていく彼女の背中を見送る。

しかし再会するのに,時間は掛からなかった。







「あのパーティーが,活動停止処分になったぁ!?」


流石の俺も,そんな話を聞いて椅子から転げ落ちざるを得ない。

一体何が起きたんだ。

勇者パーティーが活動停止なんて前代未聞だぞ。

まだアメリアがバルトロ達と合流して一週間位しか経ってない筈だ。

まさか俺が余計なことをしたせいで,こんな事態になったのか。

焦った俺は事情を探ろうと王都を駆け回る。

すると王宮の兵士達がやって来て,何故か俺を出迎えた。


「レクト様,お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

「へ……?」


もう何が何やらである。

兵士達に連れられてやって来たのは王宮内部。

煌びやかな装飾が眩しい,俺のような一般人が入るのは恐れ多い場所。

するとそこで,元メンバーのバルトロ達と再会する。

彼らも何故ここに呼ばれたのか,それ以前にどうして活動停止になったのか理解していないようだった。

まさかの再開に何でお前が,みたいな顔をされたが俺自身もよく分からない。

話が全く見えず,疑問ばかりが浮かんで消えていく。

そしてアメリアの姿は何処にもなかった。


玉座のある謁見の間に通された俺達は,そこで国王と対面する。

何度見ても威圧感のある御人だ。

そして考えてみれば,並外れた勇者パーティーの活動は王の許可があってこそのものだ。

ということは,今回の件に国王が関与しているのは言うまでもない。

それに気付いたバルトロが,仰々しい態度で問う。


「国王! どうか,事情をお聞かせください! 何故私達のパーティーにあのような辞令が下ったのか!」

「まだ分からないのかね? 自分の胸に問うてみると良い」


国王はそう言うだけに留まる。

バルトロ達はポカンとしていたが,仮に俺がやらかしたとすれば,考えられるのは一つしかない。

アメリアに教育期間を与え,自分なりに指導したこと。

恐らくあれで,バルトロ達との関係に亀裂が入ったのだろう。

俺は速やかに首を垂れて,言葉を紡いだ。


「王様。自分の責だというのなら,何なりと処罰を与えてください。脱退した筈の自分がこの場にいることこそ,その答えのはず」


ハッとしたバルトロ達が,一斉に俺を責めるような視線を向ける。


「そうか! やっぱりお前が原因か! どこまで俺達の足を引っ張れば……!」

「いや,君の責ではない。責があるのは他の三人だ」

「なっ……!?」


俺だけでなく,バルトロ達も不意を突かれたような顔をした。

これは,一体どういう事だろう。


「ど,どういうことですか?」

「私は以前,王都に広まっていた噂を耳にした。薬師のレクト君が,他三人の足を引っ張っているという噂だ」

「ぁ……」


しまったという顔をするバルトロ。

他二人の女性陣も徐々に顔色が悪くなっていく。


「君達は国を代表する力あるメンバーだ。そんな彼らに何かあったのではないか,と思ってね。探りを入れることにしたのだよ」

「探りって,何を……」

「出てきなさい」


答えを示すように国王が誰かを呼ぶ。

すると彼の傍に現れたのは,見覚えのある少女。

一週間前に別れたきりだった,アメリアその人だった。


「お久しぶりです。皆さん」

「あ,アメリア!? どうしてここに!?」

「ふふ。レクトさん,まだ気付きませんか?」

「え……?」


そう言うと,アメリアの姿が徐々に変わっていく。

これは変装のスキルだ。

一般人の服装も高貴なものに変わり,前髪で隠れていた両目もはっきりと見える。

俺だけでなく,彼女の正体に気付いたバルトロ達も一斉に目を見開いた。


「アルメリア王女!?」

「そんな,嘘でしょ……!?」


俺も唖然とする。

アルメリア王女と言えば,この国の第三王女じゃないか。

非常に才覚溢れた,勇者パーティーに入ることも出来る実力を兼ね備えた人だと聞いていた。

確かに何処かで見た人だと思っていたが,全然気が付かなかった。

つまりあのオドオドした態度も,あわてんぼうな言動も,全て俺達を騙すための演技だったという訳か。


「この子が自分の目で確かめたいと言ってきかなくてね。一般人に変装して,君達の働きぶりを観察することにした」

「じゃあ自分がアメリ……王女様に仕事の引継ぎをしていたことも?」

「無論,全て私は知っている。そしてバルトロ君,リリス君,フィーア君。君達の素行がどれ程悪かったか,ということもね」


国王はいつもと変わらない態度だったが,心なしか視線は鋭かった。


「チームの本質を見極めるために行ったことだが,君達はアルメリアのことを随分と邪険にしていたそうじゃないか」

「ち……違……。これは誤解で……」

「何が誤解なのかね?」


俺がアメリアと別れた後,彼女はそのままバルトロ達と合流。

新人だというのに,様々な雑用と責任を押し付けられたのだろう。

言い逃れが出来なくなって,彼ら三人は小声で話し始める。


「元はと言えば,リリスが陰気そうだとか訳の分からないことを言うから……」

「私のせいにする気……? 始めはフィーアが,使えないとか愚痴ったせいよ……?」

「そんなの知らないし……それを言うなら,バルトロだって……」


責任の押し付け合いは止めてくれ。

いたたまれなくなって口を開こうとするも,アルメリアが一歩前に出る。


「三人とも,言い争いは止めてください」


ピシャリと彼女の言葉が場を制する。

瞬間,彼らは一斉に押し黙り,青い顔のまま俯く。

もう反論する気力はなくなっていた。


「君達はただのチームではない。この国の存続と名誉を守り,気高い覚悟と意志を持ち行動しなければならない。今の君達では,明らかに不足している。一度,頭を冷やして考え直しなさい」

「そ,そんな……」

「分かったかね?」

「は……はい……。申し訳……ありませんでした……」


ようやく自分達の非を認め,頭を深々と下げるバルトロ達。

俺が言うのもアレだが,ざまぁ以外の何物でもなかった。


「今回の件,選抜した私にも責任はある。皆の前で公表し,私自ら謝辞を述べるつもりだ」

「……自分には,本当に責はないのですか?」

「ない訳ではない。レクト君も,もっと早くパーティーの事情を話すべきだったな」


確かにその通りだった。

バルトロ達に嫌がらせをされつつも,何処かムキになっていたのは否めない。

俺の意固地さが,ここまでの事態を招いた要因の一つだったのだ。

国王にそう言われ,俺も頭を下げるのだった。


そうして俺達は国王との対面を終えた。

背中を小さくして帰っていったバルトロ達を見て,俺も王宮から出ていこうと足を進める。

すると後ろから呼び止める声が聞こえた。


「レクトさん!」


アメリア,ではなくアルメリア王女が侍女を引き連れてやって来た。

何か言いたいことでもあるのだろう。

取りあえず俺は,もう一度頭を下げようとする。


「アルメリア王女。この度はとんだご無礼を……」

「や,止めてください。父上に無理を言ったのは,この私です。それに,あの時の言葉はお世辞ではありません」


思わず顔を上げると,彼女はにこやかに笑っていた。


「パーティーを動かしてくためには何が必要なのか。あなたの教えで,それを学ぶことが出来ました。今後の活動にも,必ず役立つでしょう」

「今後……?」

「あ,言い忘れていましたね。実は勇者パーティーを新しく再編することになったんです。魔王を倒すためのチームを,このまま活動停止にしていては,私達も困ってしまいますので」


それも当然だ。

恐らく国王の指示の元で新しくメンバーを集い,再び対魔王の力を構築するのだろう。

これは,国民全体に不安が残らないようにするためでもある。

すると彼女は,侍女から差し出されたものを受け取り俺に手渡す。

それは俺が渡した,雑務の様々なことが書かれたあのメモ帳だった。


「これを,持っていてくれたんですか?」

「手放す筈がありませんよ。これは貴方の知恵の結晶です。スキルだけでなく,貴方の知識を私は高く評価します。どうか,私達に力を貸してくれませんか?」

「それって,つまり……」


言葉に詰まった俺に,彼女はゆっくりと頷くだけだった。

こんなことがあるのだろうか。

少しだけ胸が熱くなり,俺はやっぱり頭を下げる。


「御意」


この機会を決して無駄にしてはいけない。

心を入れ替えた俺は,王女殿下に向け即答するのだった。







それから数か月後。

俺はあの時戦った巨竜の元に辿り着いていた。

無論一人ではない。

再編されたパーティーメンバーと共に行動し,アルメリア王女もその一人として参加している。

作戦も皆と考えに考えて立てたものだ。

決して抜かりはない。


「さぁ! 行きましょう,レクトさん!」


後方支援担当の俺に王女は,元気よく手を差し伸べる。

あぁ,今度は必ず勝てる。

俺は調合したあらゆるアイテムを携え,にこやかに頷く。

そうして俺達は新しい一歩踏み出すのだった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 気になったのは、主人公が積極的にざまあした訳では無いので、タイトルがちょっと矛盾してるかなということですね。あと、ほかの人も書いてますが、元パーティーメンバー達のざまあがぬるいように感…
[一言] 面白かったです!
[一言]  ん~この世界観においての、勇者の必要性についての疑問かな?  読む限りだと優れた才能を持つ者たちで構成された暗殺部隊って感じなんだが、それ軍隊ではダメなのかと。  竜のブレスのような広範囲…
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