第3話「事件後」
謁見の間から退出した俺達は、無言で歩いている。話しずらい。ミアとイリスとなんて緊張で喋れやしない。というか、イリスが全く喋らん。借りてきた猫みたいだ。
「ねぇ?聞いてるの?」
「ん?すまん聞いてなかった。」
視界にミアの顔が映り込んできた。俺が話題をあれこれ考えている内に、ミアに喋りかけられていたらしい。
「はぁ…貴方が私達が好いているのに気づかなかったのかって聞いてるの。」
ミアが心外そうにこちらをみている。いや、呆れているのか?
「全く気が付かなかった…すまん…」
「ははは、やっぱりノルイ君はノルイ君だね。」
リントは気づいていたらしい。なんなら教えてくれても良かったのに。
「俺が気付けるような事なんてまったくなかったじゃねぇか…」
「あら?イリスはわかりやすいと思うけど…」
「い、言うなぁ…」
ミアの言葉にイリスの顔が赤くなる。
「はいはい、ごちそうさま。」
リントが苦笑いしながら、こちらを見てくる。
「リントはリントで貴族の人間じゃないか。なんで騙してたんだ?」
「あれ?言ってなかったかい?そもそも僕が貴族って言ったらパーティ組んでくれなかっただろう?」
ちっ、こいつ確信犯だったか…
「ふん、過去の事言っても仕方ねーか。お前達はどーするんだこれから。」
俺が3人に問う。
「僕はソフィアの元に行くよ。約束しててね。」
「私は教皇様のところへ。顔出せってうるさいのよ。」
「私は暇だ。することが無い。」
仕方ない。イリスと過ごすか…「夫婦」になるんだし。なぜかわからんが良い気分だ。もしかしたら俺も鈍感なだけで好きだったのかもしれないな。
「じゃあイリス、城下町でも見に行くか。」
「奇遇だな、私も城下町に行ってみたかったんだ」
「あらぁ?イリスったら抜け駆けするの?」
俺とイリスの言葉にミアがニヤニヤしている。
リントは温かい目でこちらを見てくる。
「う、うるさい。早く行くぞノルイ。」
イリスが一刻も早くミアとリントから逃げようと俺の手を引っ張る。
「ちょっ、まてって!」
「迷子にならないように。私とも行ってよね!」
リントとミアが手を振って見送る。
「おう、行ってくる。」
俺とリントが手を振ると2人とも笑顔で見送ってくれた。
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…
「ねぇ?本当にこれで良かったのかしら。もっと他に方法が…」
「どうしたんだい?君らしくもない。」
ミアがリントに不安げに訪ねる。
「仕方ないさ、これぐらいしないとノルイ君は気づいてくれなかったよ。ただ嬉しい誤算がノルイ君満更でもなかった事かな。断られたらどうしようと思ったよ。」
「それはこっちのセリフ。あんたがこんな事しようとか言わなかったらこんな心配しなくて良かった。」
「でも嫌がらなかったじゃないか。でも、国民が恋愛で聖女様が困ってるなんて聞いたらどんな反応になるのかな。」
リントが笑いながらミアに言う。
「聖女様ねぇ…私は私よ。聖女様なんかじゃない。」
「わかってるよ。でも、君の夢だったじゃないか。恋愛結婚。」
「そうだけど、まだノルイから返事も聞いてないし。」
「それはこれからだよ。頑張れ聖女様。」
手を振ってその場を後にするリント。
「これからねぇ…本当によかったのかしら…」
「聖女様!!」
後ろから修道服を着た女の子が走ってくる。
「きょ、教皇様がお呼びです!こちらへ!」
「ええ、わかりました。」
ミアが窓から外を見ると、太陽の強い光が地面を照らしていた。
「迷っていても仕方ないわね…」
「なにか、言いましたか?」
「いいえ、なんでもないわ。行きましょう。」
ミアは新たな決意とともに、教皇の元へと向かっていった。