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ハークの結婚宣言

 微妙な空気が流れる中、ハークが言った。


「エウリ、君が父上と結婚した後、私も結婚する」


「ハーク様?」


 エウリは(彼は何を言いたいのだろう?)と首を傾げた。


「君に求婚していながら、うまくいかなかった時の事も考えて、私にとって最良な妻となる女性を事前に見繕っていた。君を愛していても、次期ミュケーナイ侯爵として、次期宰相として、私には結婚し子供を作る義務がある。ずっと独り身という訳にはいかないんだ」


 ハークは、ほろ苦く微笑んだ。


「彼女は自分との結婚は君が私の求婚を断った後で構わないと言ってくれた。彼女の厚意に甘えたんだ。身勝手で最低だろう?」


「いいえ。身勝手なのは私です。ハーク様。だって、その方が私に嫉妬して妙な行動をとらないかが心配なんですもの」


「意味が分からないな」


 聡明なハークであっても女心は理解できないのだろうか?


「そうまでして、あなたと結婚したいと仰るなんて、その方は、あなたを愛していらっしゃるのでしょう?」


 エウリの科白にハークは笑った。その笑顔は見惚れるほど美しく、その笑い声も天上の音楽のように素晴らしいものだったが、エウリとしては、なぜ笑われたのかが分からず、きょとんとするばかりだ。


「……あの?」


「悪い」


 ハークは笑った事を謝った後、説明した。


「嫌われてはいないと思う。でなければ、私の子供を産んでもいいとは言ってくれないだろうしね」


 ハークという一人の男性の妻ではなく、次代のミュケーナイ侯爵夫人となる事が、その女性の目的なのだろうか?


「……あなたのお気持ちに応えられない私がこんな事を言うのはなんですが、結婚して、あなたもその方も幸せになれますか?」


「彼女の事は人として好きだし、彼女もそう言ってくれた。彼女とならいい夫婦になれると思う」


「わたくし、皇太子殿下との間に、たくさん子供を産みますわ」


 突然こんな事を言いだしたのはデイアだった。


「デイア?」


「デイア様?」


 デイアは皆の視線を受けて少しだけ恥ずかしそうな顔になった。


「たくさん子供を産んだから、一人、お兄様に差し上げます。だから、お兄様が無理して結婚する必要はなくなりますわ」


 デイアの突然の思いがけない科白は、どうやら兄を慮っての事らしい。想っているいる女(エウリ)がいるのに義務感だけで結婚し子供を作ろうとする兄を不憫に思ったのだろう。


 確かに、デイアと皇太子の御子ならミュケーナイ侯爵家の跡取りに相応しい。


「ありがとう。でも、妻や子を持って一人前という考えが今も根強い帝国だ。私は彼女と結婚し子供を作るよ。彼女との間に子供ができなければ、君と皇太子殿下の御子を養子にするしかないけどね」


「……お兄様」


 デイアは困ったような痛ましいような顔で兄を見ている。


「お前が選んだ女性だ。反対する気は毛頭ないが、誰を結婚相手に選んだんだ?」


 男爵家の養女で、しかも離婚歴のあるエウリでさえ息子(ハーク)の妻になるのを反対しなかったオルフェだ。どんな女性でも、あっさりと認めそうだ。まあ、エウリの場合は愛した女性の娘だからというのが最大の理由だったのだろうが。


「レディ・メガラ・テーバイですよ」


「えっ、あの方なの!?」


「えっ、あの子なの!?」


 ほぼ同じ反応をしているのはデイアと義母だ。


「彼女か?」


 オルフェは驚くというよりは意外そうだ。


「メガラ・テーバイ様って、確か、デイア様が選ばれるまで皇太子殿下の婚約者最有力候補でしたよね?」


 結局は皇太子の「レディ・デイアネイラ・ミュケーナイ以外、妻にしたくない」という一言で、デイアが皇太子妃に決まったのだが。


 メガラは帝国海軍第一軍の提督をしているテーバイ公爵の娘であり皇后の姪である。現在の皇后はテーバイ公爵の妹なのだ。


 テーバイ一族は元は海賊だった。約二百年前、他の海賊や他国の海軍に苦しめられた帝国を、その優れた海戦術で救い公爵位を授けられたのだ。


 メガラは今年十七、ハークより一歳下だ。薄い色の髪と瞳が多い帝国貴族では珍しい黒髪に藍色の瞳の絶世の美少女だ。年齢、容姿、家柄、全てがハークの結婚相手として申し分ない。


「ええ。あの方を選んでくださればよかったのに」


 デイアは心底残念そうに言った。


「それは無理だろう。殿下は母親によく似た彼女相手じゃ子供を作れないって言っていたし、何よりデイア以外を妻に迎える気はないと思うよ」


「……いくらわたくしがミュケーナイ侯爵の娘だからって」


「いや、それは関係ないよ。殿下はデイアだから皇太子妃に、妻にしたいんだろう」


「……お兄様とメガラ様が互いに納得して結婚されるのなら、わたくし、何も言いませんわ」


 デイアは、あからさまに話題を変えた。


「わたくしもメガラ様の事は好きですから、あの方がお義姉(ねえ)様になるのは嬉しいですわ」


 皇太子の婚約者最有力候補だったメガラと皇太子の婚約者となったデイア。


 周囲が勝手にライバルだと思い込んでいるが実際の彼女達は仲がいい。エウリは夜会や園遊会で親し気に会話している二人を何度も見かけた。彼女達にとっては本当に皇太子も皇太子妃の地位も、どうでもいいのだろう。


「……私も二人が決めた事なら反対はしないけど」


 そう言うと、義母は家族を見回した。


「家族になるのなら、メガラの事、エウリに話すべきよね?」


「ああ、そうですね」


 オルフェの言葉にハークとデイアも頷いた。


「あの?」


(メガラ様に何か秘密があるのかしら?)


 エウリが思った通りだった。


「メガラは私の妹の一人ポリヒムニアの娘なの。末妹(ウラニア)のすぐ上がポリヒムニアよ」


 義母の言葉に少なからず驚いた。……今日は何回驚かされるのだろう。本当はエウリが驚かせにきたはずだのに。


「……えっと、確かメガラ様はテーバイ公爵が行きずりの女性との間に……失礼しました」


 ミュケーナイ侯爵家とは違い帝国建国から続く貴族ではないが、代々優秀な提督を輩出した公爵家で皇帝陛下の信任も厚い。そのため表立っては誰も口にしないが帝国貴族ならば知っている。メガラはテーバイ公爵が行きずりの女性との間に(もう)けた娘だと。幸いテーバイ公爵とメガラは似ているため二人が親子だと疑われる事はなかった。


「皆が噂している大半は事実だし、あなたが、あの子達を貶める意図がないのは分かるから大丈夫よ」


 義母の言う「あの子達」はポリヒムニアとメガラだろう。


「その『行きずりの女性』がムニア、ポリヒムニアなの」


 ムニアはポリヒムニアの愛称だろう。


「……私の妹達は皆、個性的だけど、中でもムニアは特に変わった子でね。昔から好奇心旺盛で観察眼も鋭くて子爵令嬢だのに探偵になったわ。それで、当時、海賊が係る事件の捜査中に捕まって、それを助けたのが海軍の提督になったばかりのクレオン様……テーバイ公爵様だった。それが、二人の出会いよ」


 クレオンはテーバイ公爵の名前だ。


「当時、クレオン様には奥方と生まれたばかりの息子フィオネス様がいたけど、ムニアに一目惚れしてしまってね」


 クレオン・テーバイ公爵と正妻の間に産まれたのがフィオネスだ。メガラの異母兄で今年十八、エウリやハークと同い年になる。


「奥方の事は大切にしていたし、フィオネス様の事は勿論、愛しているけれど、奥方とは家同士の結びつきで結婚したからね」


 貴族ならば珍しくもない話だ。男女の愛がなくても人として好意や尊敬を抱ければ充分幸福な結婚だと考えられている。……それでもエウリはアリスタを夫として受け入れる事ができなかったけれど。


「ムニアも助けてもらった恩と人としてクレオン様の事は好きだから一時は恋人として付き合ったのだけど、ムニアも他の妹達と同じで恋愛に奔放でね。どれだけクレオン様が求婚しても断り続けたわ。メガラがお腹にいると分かっても変わらなかった。


 結局は結婚はせずメガラだけクレオン様が引き取って育てる事になったわ。……ムニアは決して悪い子ではないのだけど、ひとつの事に集中すると周りが見えなくなるあの子が(メガラ)を育てるなんて到底無理だったもの」


「……メガラ様は、その事をご存知なんですか?」


「ええ。ムニアは時々メガラに会いに行っているわ。一緒に暮らしていないけど、仲のいい母娘よ」


 母娘の関係など人それぞれだ。他人が口だす事ではない。それに、エウリにとっては一緒に暮らせなくても会おうと思えば会える関係が羨ましかった。


(……だって、私は、どれだけ願っても、お母様とは二度と会えないのだから)



















 






























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