生と死の境に
魔物の攻撃で重傷を受けた俺は意識を失っていた。正直生きてのがおかしいクラスの傷だ。
実際俺は生きてるんだろうか、暗い意識の中、不思議な少女が話しかけてきた。
「これで終わりなの?」
「何がだ?」
「あなたは今、生と死の境にいるんだよ?」
俺はその言葉に反応はした、しかし、大体分かっていた事だ、さほど驚きはしなかった。
「いいの?あの子達を置いて死んじゃっても」
「・・・」
「もう未練は無いの?」
未練はある、咲の事、恋の事、恵美の事、未練なら他にも沢山ある、しかし、俺は自分に対する
未練は無かった。理由なんて簡単だ、夢が無かった、夢という大きな目標が存在してなかったんだ。
正直、夢なんて必要ないと思っていた、なんだかんだで俺は兵士になるのか、そんな考えしか無い。
「未練なら山ほどあるさ」
「でも、自分に対する未練じゃ無いんでしょ?」
「え?」
「あなたは自分を大切に思ったこと、無いでしょ?」
確かに、そんな事は無かった、傭兵部に入った理由なんて咲がうるさかったから仕方なくだ。
それ以外の行動も全て家族の為、あいつらのため、そればっかだ、勉強を頑張りたいと思ってたのも
全て家族の為だった、俺自身の為に頑張った事なんて無い。
「あなたはもう少し自分を大切にした方が良い、あなたは自分で思ってるほど価値が無い人間じゃ無い
でも、その性格を否定はしないよ、それが君の素晴らしいところでもある」
そういえばこの子は一体誰だ?俺の事を知ってるような口ぶりだし、何となくいつも近くに居るような
そんな雰囲気も感じる。
「お前はなんなんだ?」
「だから僕は君を選んだんだ、誰からも愛されてるのに、その事に気付かない
でも、それでも周りを引きつける不思議な魅力を秘めている君を」
「誰なんだよ!?」
しかし、少女は俺の問いかけにも一切答えずに話を続けた。
「僕は君に死んで欲しくは無い、それに、待ってる人も沢山居るでしょ?だから、早く戻ってあげて」
「答えろ!お前は誰だ!?」
「僕は何者でも無い、僕は何にでもなれる、でも、これだけにはなれないことがある、
それは、き・・・いの・き・はな・・い」
少女の言葉は断続的にしか聞き取れなかった、俺の意識が遠のき始めていたからだ。
そして、その少女の声以外が聞こえてきた。
「法助!法助!しっかりしてよ!」
「咲さん、今は法助君は安静にしていないといけないんですよ?心配なのは分かりますが
揺さぶってはいけません」
「う、うぅ・・・」
まだ目は開けられないが、声はしっかりと聞こえる、咲が俺を呼んでいたんだな。
そういえばさっきまで俺、誰と話してたっけ?確か、女の子だったのはうっすらと覚えているけど
容姿も話していた内容も思い出せない・・・きっと、瀕死だったから幻覚を見たんだろう。
「先生、本当に法助は大丈夫なんですか?」
「どうでしょうね、結構な深手ですし」
「そんな!法助先輩!」
うーん、せめて無事だと伝える方法は無いのか?あ、指が動かせれば分かるかも。
ドラマとかで良くある展開だしな。よし、動けよ
「あ!先生!今動いた!法助の指が動いた!」
「本当ですか!?」
皆が一斉に近付くような足音が聞こえた。これで俺が生きてるって事が伝わったようだ。
良かったぜ、後は目を開けられたら完璧なんだが、まだ目は開けられない。
「法助!意識があるんだよね!?」
「先生はお医者さんを呼んできますね!」
「法助!」
「先輩!」
あぁ、声が聞こえるそれと妙に大きな足音だ、かなり急いでるようだ。
さっき先生が言ってたお医者さんか?もう来たとしたら結構近くに居たんだな。
「お兄ちゃん!」
・・・ん?恋の声だ、でも、あの恋が俺の事をお兄ちゃんなんて呼ぶなんてな、珍しいもんだ。
「法助!大丈夫か!?」
「法助!」
父さんと母さんの声も聞こえた、なんか、随分と大事になったな。
俺、このまま死ぬんじゃ無いか?
「恋ちゃん、法助のお父さんにお母さん」
「咲ちゃん!法助の容態はどんな感じだ!?」
「はい、今さっき少しだけ指が動いてました」
「本当か!?なら急いで先生を呼ばないと!」
「それなら大丈夫です!紀美先生が行きました」
「そうか」
あはは、今目を開けたらどんな風に見えるんだ?皆が俺を見下ろしてる形か?
それとも周りで焦ってる状況が見えるのか?目を開けたいが、開かない、はぁ、速く目を開けたいな。
「指先が動いたって言うのは本当ですか!?」
これは病院の先生の足音か?かなり焦ってるようだが、指先が動いたってだけで焦るんだろうか?
「はい!指先が少しだけ動きました!」
「先生!法助は大丈夫そうですか!?」
「今から確認します!皆さんは病室から出ておいてください!」
「は、はい」
声と多人数の人が移動する足音か・・・はぁ、なんで音だけは聞こえるんだ?
「私の声が聞こえますか?聞こえるというのなら指先を動かしてください」
俺は言われたとおり指先を動かした、その動きを見た先生は驚愕したようだ。
「馬鹿な、これほどの傷なのに、こんな短期間で意識が回復なんて事が・・・」
どうやら先生が急いで来た理由は俺の回復が早すぎるからみたいだな、考えてみれば
皆の声とかを思い出すと今は怪我をして殆ど立ってないって分かるな、しばらく経ってるとしたら
今、家族が急いで来るなんて事は無いし、それに、咲達もかなり焦ってた。
しばらく経ってるとしたらあり得ないことだな。
「傷の具合はどうだ!?」
「殆ど塞がってません」
「やはりか・・・」
どうやら傷は塞がってないようだ。しかし、あまり痛くはない、一体どうしてだ?
俺はしばらくして目が開くようになった、痛みの具合はさっきとは変わってない。
「法助!良かったぁ」
「あ、兄貴・・・心配させんなよ・・・」
「全くね、それで?傷は痛くないの?」
「あぁ、あまり痛くはないな、理由は分からないが」
俺の傷は殆ど塞がっておらず、先生が言うには絶対安静だと言われた、普通は集中治療室に入る程の
重傷だが、集中治療室は全部埋まっており、普通の病室だと言われた。そして、絶対安静だとも。
下手に動いたら傷が更に酷くなる危険性が非常に高いそうだ。俺は言われたとおりに
安静にすることにした。しかし、傷が痛まないのは何でだ?そこが全く分からない。




