転移 前編
これは人類とカテゴリーの戦いの中で起きた。誰も知らない戦いである。
佐世保基地 港
港にはカモメの鳴き声が聞こえていて、その真下には巨大で海の中では不釣り合いな艦艇が列を乱さずに綺麗に並んでいた。そんな艦艇の一つイージス艦 こんごう型3番艦「みょうこう」の甲板で一人、小林 龍雅は港に集まった野次馬を眺めていた。
「今気ずいたけど、何でマスコミまで野次馬の中に入っているのかな?」
よく見ると何処からこの情報を仕入れたのかは知らないがとある某テレビ局の女性アナウンサーがマイクに向かって話しているのが分かる。
「今、現在着々と出向準備が整っていますが自衛隊は北朝鮮のSOSの救難信号を受信したとの情報を受けて自衛隊のイージス艦一隻、輸送艦2隻、輸送艇2隻、補給艦1隻の艦隊で向かうそうです。また輸送艦には300
名以上の陸上自衛隊の隊員が乗船する事が分かっています。評論家はこの事態について北朝鮮との.......」
そこで龍雅は話を聞くのを止めた。理由は単純にこの話を聞いて昨夜の会話が思い出したからである。
今から1日前 佐世保基地内の廊下にて
「龍雅二佐、少し待ちたまえ。」
龍雅はうんざりしながら後ろを見ると彼の上官真島一佐であった。
「何ですか?」
「そう怒った顔をしないでくれ。私はあのことではなくて違う件で話がある。付いてきてくれ」
龍雅の返事を聞かずに勝手に行ってしまう。しかもあれと言って、龍雅が先に戦ったクラーケン戦でこってり
絞られてしまったことを遠回しに言って傷つかないように配慮しているようだ。
龍雅は仕方なく、自分の上官に付いていった。
------それから15分後、佐世保基地地下ドッグ------
「これに見覚えはあるだろう」
「これは..........」
これを見間違える人はおそらく歴史を習っていない人か、小学生くらいの人である。この独特の形は今は無い、いや、もう絶滅した形の船だ。
「大日本帝国海軍正規空母赤城なのか.......?」
そう沈んだはずの正規空母赤城だった。これには龍雅も驚きを隠せなかった。
「コイツは沖縄の近海で5年前に海上保安庁の巡視艇「ざおう」が発見したんだ。最初は遺族のことを思って人知れず沈ませようとする案が出たが結局のところ帰航させることにしたんだがこれの後が大変だった」
「何が大変だったんですか?」
「そりぁ、色々だよ。海外からの圧力は修復作業の時からあったし、そして完成間近になるときは.........」
「カテゴリーとの大戦が勃発......」
「そうだ。だが開発中止のこいつを今の総理が目を付けて、多額の費用を出して遂に完成したんだ」
「確か凄い事ですが何故これを私に?」
「そうだった。実は2日前に北朝鮮からSOS信号が来て、その為に自衛隊はカテゴリーを殲滅する為に大部隊の派遣を決定した」
「それで?」
「君には先日、修理が完了した「みょうこう」の艦長にもう一度就いて貰う」
「その艦隊の編成は?」
「まずイージス艦の「みょうこう」、おおすみ型「おおすみ」、「くにさき」、「赤城」、補給艦「ましゅう」、最後に輸送艇の「1号」、「2号」だ」
「いつも思うんですがなんでいつもいつも余計な物まで連れて行くんですか?」
「仕方ないだろ。「1号」、「2号」はこの任務で退役するんだから」
「.............」
「飲み込めたみたいだな。しっかり頑張れよ」
-----と言うことである-----
龍雅が思い出して絶望に明け暮れていると隣から「みょうこう」の副長が声をかけてきた。
「何を黄昏ているんですか?」
「聞かないでくれ。今、自分の不幸を呪っている」
副長ははぁ?と納得していなかったがすぐに次の話題に切り替えた。
「艦長、出航準備が全艦完了しました。何時でもいけます。あとは艦長のいった通りの座標で「赤城」と合流予定です」
「分かった。全艦に通達、出航」
こうして北朝鮮PKF艦隊は出発した。
----30分後 合流予定地ーーー-
「何で北の船も?」
見ると「赤城」の他に「ひゅうが」や北のフリゲート艦の羅津級も来ていた。
「その北っていうのも良いとこ見せたいんじゃないの?」
「そうなんだよ。............ってワン!!」
よく見るとここにはいないはずのカテゴリー6のワンだった。
「ど、どうしてここに?」
「だってつまんないんだよ。ミナトがいなかったから来ちゃったよ」
「そ、そうなの....」
確かにワンの言う通り、ここにいる艦は皆、退役か新しく編成される部隊に行くため、本部としては肩慣らし
し、つまり試験航行にこの任務は最適だったのである。
そしてしばらく北の船や他の艦隊の船とやり取りを艦橋でしていると見張りをしていた観測員が声を上げた。
「艦長、さっきまですごい晴れていたのに急に怪しい雲行きに成ってきました」
「大丈夫だ。無駄に心配す..........」
その言葉は言えなかった。怪しい雲から「みょうこう」の甲板に向けて稲妻が走り、そこで龍雅の意識はなくなっていった。