81(完)
物語の作り方を教えてもらえると聞いたヨハネが、自分もと体を乗り出す。
「兄さんだけずるい。俺、俺も教えてくれよ」
途端、コミックを読んでいた周囲の子供たちまで我も我もと参加しようとする。
パウロは慌てて人だかりを制止した。
「おい、おまえらこの人は有名な……」
子供たちの笑顔に、まるで朗読のボランティアに立ち返ったかのような気分だ。
「関係ないよ、ただの爺さんだ。ボクだったら構わないよ。さ、みんな一緒にお話を作ってみようか」
歓声が上がる。
この国の人間は、多くが異国から奴隷として連れてこられたルーツを持つ。だから喋る言語もヨーロッパ系。故郷も言語も奪われて。今では物語を作る自由まで失っている。
だから洞窟の暗がりの中、古代人が篝火を囲んで神話を語ったように。さあイチから始めよう。見通せぬ闇を前に、おっかなびっくりしながら。
人だかりの影でコッソリ、孫はヨハネに打ち明けていた。
「俺もさ、爺さんみたいなすげー作家になるんだ。負けねーからな」
孫は言語に関して天才なのか。自分が十年かけて十五カ国語を習得したのがやっとだったのを。たった数年で十カ国語を使いこなすようになっていた。自分では気づいていないが、孫も恐らくはまた別の天才か何かだ。
自然は、他者は、制御不能な危険を持つ。だが金の卵を産むガチョウは、思い通りにならないがゆえに、恵みを与えてくれる存在でもある。
自分以外の他人とは全く思い通りにならない。面白い存在だ。
その前に、とパウロ。
「名前を聞いてなかったな。爺さん、何と呼べば良い」
本名が口から出かけて、何となく止まる。いや、ここで本名は違う。
ボクは手にしたノートの表紙に書かれていた題名と、同じ名を名乗ることにした。
「そうだな。ボクのことは小咄菊造とでも呼んでくれ」
物語は終わらない。そして未来、誰もが物語が作れるようになったとしたら。他人なんて、どいつもこいつも思い通りにならないのだ。きっと世界には、ボクなんて予想もつかないほど、多彩な面白さで溢れるに違いない。




