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 仕事のランチ休憩中。ベンチに座って、もう何度も読み込み、表紙のボロボロになった本を開く。すると声をかける人物がひとり。

「チャーチベル博士かい」

 老人だ。顔つきからして、いかにも東洋人風で、この国の人間とは違う。

「チャイニーズ?」

「いや日本さ」

 金持ち日本人にしては薄汚れた格好で、どうにも観光とは思えないだろう。でかい荷物を背負い、むしろ行商と間違えられるはずだ。


 読んでいた本は確かにチャーチベル博士の代表作。物語論の古典的名作といわれる一冊だ。だと知っているということは、

「爺さんは作家なのか?」

 問うと老人は残念そうに

「いや自分は才能がなかったようでね」と笑った。


「名前、聞いても良いかな」

「……パウロ」

「そうか。良い名だね」

 昼休みが終わった。仕事に戻らなくてはならない。短い受け答えだけして、青年パウロと老人とは別れた。別れ際に老人は

「君とはまた出会う気がするよ」

と残した。全くおかしな年寄りだ。

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