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作家を夢見て青年は働きながら必死で金を貯めた。両親の協力もあり、何とかアメリカの映画大学、シナリオライター育成コースへ留学することができた。だが青年はそこで失望を味わうことになる。
最新の理論を学べるシナリオライター育成コースといっても、どうということはない。何度か《ギフト》を触らせてもらって終わり。あとは座学だけ。むしろ、かつてのように《神話シート》の穴埋め問題でもやっていた方がマシだったかもしれない。
アメリカの映画大学ではゲイ、ヒスパニック、有色人種と幅広い人種、文化のクリエイターを受け入れる。この寛容さがハリウッド映画に新たな血を送り込む原動力となっている。
……という名目になっている。
先進国アメリカへのあこがれを利用し、新興国の優秀な人材を学生として受け入れる。そうして彼らの着想のみを映画会社に貢がせていた。
かくして、青年がずっと温めてきた物語は、他人の名義で映画化されて終わった。それなり程度の人気は出たらしいが。その映画のスタッフロールに青年の名前が出ることはなかった。もちろんキャリアになることもないので以降、仕事の声がかかることもない。
そもそも脚本家協会に所属しないと、仕事の紹介をされることもないというのに。外国人留学生であり、アメリカ国籍も持たない青年では協会にも登録できなかった。
だいいち、シナリオライターの仕事をやるには、今や《ギフト》が必要となる。だが高額な《ギフト》を扱えるのは、貴族階級でもなければ不可能だ。
仕方なく、安月給のウエイターをやりながら、ただアメリカにいるだけの毎日。
そのうち、母国から至急の連絡があった。両親がギャングの抗争に巻き込まれ、撃たれたというのだ。青年には弟がいる。帰国するしかなかった。
残されたのは留学と帰国に使った借金のみ。
夢を叶えるには圧倒的な才能か、英才教育を受けられる家柄が必要となる。自分はどちらも持ってなかった。しょせんは、その程度の才能だったということだ。
のちに青年は自嘲する。
ああ、こんなことになるならアメリカでなく、日本へ留学すれば良かった。確か、《ギフト》の元となったという噂の、コバババ・キクジョーとかいう物語生成ソフトがあると聞いたけれど。地球の裏側はさすがに遠すぎる。
青年は叶わぬと知りながらも、夢を諦めきれずにいた。




