表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/81

72

 この国では電車や道路といった、物流インフラが充分に整備されていない。郵便が届くのは首都とその周辺だけで、地方までは行き届かない。インターネットも、かつての遮断騒ぎで一度壊滅。今では特権階級のみが使える、貴重なオモチャになっている。

 するとバスが唯一の公共交通手段となる。もちろんバスといっても、密林を突っ切ることもあるから、ラリー仕様の頑丈な作りになっている。タイヤだってパンクしても、そのまま走行できる特別製だ。何しろ修理のためにバスを降りたら、山賊に襲われる恐れがある。窓も車体も防弾が施されているから、マシンガンの銃弾程度なら、しばらく耐えられる。


 最近は安価な労働力を求めて、国際企業からの工場を誘致。建設ラッシュで好景気に沸いていた。すると地方から出稼ぎ労働者がやってくる。だが、やはり家族と離れて暮らすのは寂しいものだ。

 バスの運賃は決して安くなく、一度出稼ぎに来てしまうと、そうそう帰れるものではない。だから年末、クリスマスが近づくと、ここ首都のバスステーションには毎日のように人だかりができる。

 せめて郷里の家族へクリスマスカードだけでも送りたい。だがこの国には地方まで届く郵便制度がない。インターネット環境も整っていない。だから、郷里と同じ方向のバスに載る人へ、クリスマスカードを渡してもらうよう、託すのだ。


 しかしこの国の人々は識字率が高くない。かろうじて読みができたり、自分の名前が書けたとしても。複雑な文章が書ける人間は限られている。そこでバスステーションでは手紙の代筆業が商売として盛んだ。

 ここに、ある青年がいる。青年は代筆業を仕事にしていた。青年には学がある。アメリカの大学を出ているくらいだ。だが特殊な大学で、故郷に帰っても代筆業くらいしか職の当てがなかったのだ。代筆業は安月給で、大卒にしては生活が苦しかった。


 この国にはインフラというものが不充分にしか整備されていない。だから夢を見るにも、どうしたって体ひとつでできる仕事ということになる。すなわちスポーツ選手か、さもなくば作家になって一山当てるのが、子供たちの一般的な夢だ。

 青年はかつて夢を持っていた。作家になる夢を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ