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期待が外れ、がっくりと項垂れる博士。しかし
「だが、コレさえあれば我らのシェアは守られる……」
起き上がると、サーバーをかき抱いた。
「アメリカの支配が世界に……そうだ。頼むから《小咄菊造くん》を頂けないだろうか。きっと有効に使ってみせる」
その頼みを待っていた。
「いいえ、大丈夫です。既に世界はアメリカの説く平和を持っているのですから。
博士は仰いましたね。《神話シート》を公開したように。ボクにも人類の平和と進歩に責任があると。
あなたの友として、今こそその責任を果たしましょう!」
大仰な宣言に、博士は嫌な予感がしたのか、渋い顔をする。
「国家の正当性を保証する物語が、神話だとしましょう。ならばプロパガンダも国家神話の一種といえます。
ですが考えてみてください。神話は伝説へ、伝説は民話へと、物語はエンタテインメントの方向へ進化しました。ならばプロパガンダという国家神話はどう進化する? それはもちろん、面白い方向に決まっています。
そして神話が民話になることで、物語が王から大衆の手に渡ったように。戦争の主役が騎士から、民兵の持つマスケット銃に取って代わられたように。
自然に考えれば、国家のグランドデザインも、貴族の独占から、一般化するのが当たり前というもの」
「おい、まさか。やめろ」
もう遅い。
「《ローカリズム》により、遍く人類は遂に、互いに語り合える言葉を持ちました。誰かの助けがなくとも、我らはとっくに自分の言葉で語ることができる。《小咄菊造くん》が、語らおうとする気持ちを人々に植え付けた。
天才の出現こそ、新時代が到来しつつある証拠といえるでしょう。天才とは、まだ見ぬ風景を求める、まだ自分が語り合ったことのない誰かを求め、夢見る者だったというわけです。
そして対話こそが偏った正義によるディストピアを回避する、最善の手段。自分たち全員で問題を解決すれば良いのだから」
「そんなことをすれば、全人類は再びバラバラになって、地球は混乱の極みを迎えるぞ!」
「大丈夫ですとも。
アメリカが世界に民主主義を輸出せずとも、人々が勝手に議論をする。勝手に一人称を代弁する誰かなど必要ない。ひとりひとりが勝手に語るのだから。
これぞ真なる全人類による民主化。アメリカの理想はとうに果たされ、アメリカは義務から解き放たれたのです。いえ、むしろ新たな民主主義に、過度な干渉をする権力は邪魔にすらなるでしょう。
ですが仕方ありません。子離れすると親は見守るしかない。寂しいものなのです」
……だから息子とも、もっと語り合ったり。できれば酒を交わしたりすれば良かった。ちくりと後悔が心を刺す。だが、もう昔には戻れない。
「もう止められません! 広がってしまった。これからのアメリカは唯一中心にならず、世界の一地方として、皆と等しく関係を築かなければならない。
さあ、真にフェアな世界ですよ。やったね☆」




