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県外の大学を卒業したと思ったら、そのまま農業指導者に就職。長らく連絡すらなかった息子が、久しぶりに帰郷した。と思ったら、いきなり子供を預かってくれと頼んできた。
遠い国へ長期間、夫婦揃って農業指導へ行きたいのだという。
いいたいことは山ほどある。だが自分も息子を放置していた手前、偉そうなことはいえなかった。それよりも決意は強そうで、翻りそうにない。
こんな酷いワガママを聞くのは最後だという条件で承知した。どうやらボクの家系は爺が孫の面倒を見る宿命らしい。
息子が旅立って、しばらくの時が経過して。世界を衝撃のニュースが巡った。きっかけは、動画サイトにアップされたルポだ。
そこに撮されたのは、地平の果てまで白骨に埋め尽くされた平野だった。何千、いや何万人分か。
だが真に衝撃だったのは、打ち捨てられた骨が全て、小さな子供のものだったということだ。
そこは少年兵の墓場だった。
安価な労働力というフロンティアをなくした国際企業は、こぞって少年兵を奴隷として購入した。とたんに少年兵市場は品薄になる。といっても品切れになるわけではない。我が子を身売りしなければならないほど、貧しい人間がいる限り、供給が途絶えることはない。
だが安価な労働力に求められる仕事量は相対的に増える。ならば、どうなるか。ただでさえ過酷な少年兵の労働環境は、さらに過酷なものとなり。損耗率は高くなっていった。
すると焼却処分する手間すら惜しまれ、死体は放置されることになる。結果、できたのが少年兵の墓場というわけだ。
さらに少年兵の働く工場で、いかに非人道的な扱いが行われているか。ルポ動画は続いた。
その工場は、国際的に名だたる一流企業がこぞって利用している。関係企業の株価は大暴落した。
慌てて関係企業は弁明を行った。
これは虐殺ではない。我らが直接、手を下したわけではない。業務上の事故で、やむを得ず死んだだけだ。自分たちは何も知らなかった。無関係だ、と。
その直後。途上国支援を行うボランティアのキャンプが、アメリカの無人爆撃機から攻撃を受けた。
これに対してアメリカ政府は、テロリストのキャンプと間違えただけで、故意ではない。事故であると発表。
情報化社会での戦争においては、ジャーナリズムこそ最新兵器以上の脅威となりうる。
そのキャンプこそ、例の少年兵虐殺に関するニュースを告発した者たちの本拠地だった。
言論を兵力で封殺したとして世論は紛糾。例の工場を経営していたのがアメリカ軍OBだったということもあり。大いに非難を受けた。
そして、そのキャンプのリーダーこそ、息子だった。
息子たち夫婦の葬式は身内だけで、簡素に行うことにした。ふたつ並んだ棺桶の中には、何もない。激しい爆撃で骨すら残らなかったそうだ。
通夜には家族しかいない。幼い孫はとっくに別室で眠っている。
そこに突然、煙が立ちこめてきた。火事かと思ったが。耐え難い眠気に襲われる。ガスと理解した頃には、意識は遠のいていた。
最後に見たのは、小銃を持ってガスマスクを装着した特殊部隊が、突入する様子。
ボクは拉致された。




