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 その頃、国内最大手の出版社・若門書房が大合併を発表。多くの中小レーベルが若門傘下となった。八十年代にはメディアミックス戦略で多くのヒット映画を手がけ、一時代を築き上げた若門書房だったが。外資系の電子書籍に押されて経営は悪化。冬の時代を生き抜くため、小さくコンパクトになって寒さに耐えるという作戦だった。それは生物学的にも基本ではある。



 だがこの大合併は裏目に出る。末端まで命令系統が届かず、読者を軽視したような不祥事を連続で起こしてしまう。小さくコンパクトになったはずが。実のところ、今に至っても巨大な恐竜のままだったと露呈してしまったわけだ。

 加えて創業者一族間での確執。新社長体制が整った頃に、会社の信用はボロボロになっていた。

 今こそ起死回生の一手が求められる。だが、そんな都合の良いものが簡単に手に入るはずもなく。若門経営陣は苦しい立場にあった。

 そして日本に景気回復の兆しはないまま。



 視線を世界に向けると。多発する中東での紛争に、アメリカが積極的な介入を宣言。いつもの話で、石油が目的だ。世界同時株安からの脱却を狙った、起死回生の一手だったが、戦火だけが無分別に拡大。中東のどこかで、反アメリカ主義デモが毎日のように行われるようになった。

 紛争の長期化。そこへアメリカ系民間軍事会社の中に山賊化する者が出てきた。軍事費削減対策として業務を下請けされていた民間軍事会社だったが。人類史を顧みても、支払いの滞った傭兵は、次に山賊として略奪を行うもの。

 地元の軍によって掃討されるまで、多くの民間人が虐殺された。だが当のアメリカは、全て民間軍事会社がやったことであり、我が国とも軍とも関係はないと、しらばっくれる。



 日に日に強まる責任追及の声。

 アメリカ政府はマスメディアを使って、自分たちが正しい戦争をしているというプロパガンダCMを洪水のように流した。

 だがネットへ次々にUPされる、戦場での動画や、民間人虐殺の証拠に、反戦的な論説。ネット対マスメディアの、プロパガンダ合戦は収まりがつかなくなっていた。

 好転しない世界景気に、日に日に高まる反戦の声。大統領は低下し続ける支持率に対して、起死回生の一手を打てずにいた。



 アメリカにおける、いわゆるテロリストとの戦いにで、戦費は膨らむ一方だった。矛先は国際協調に非協力的な同盟国、日本へ向く。

 戦費の補填として、農業工業における関税自由化を強硬に迫るアメリカ。弱腰な日本政府は、ひとつひとつと要望を受け入れざるをえなかった。

 日本の産業は中小企業から潰れていき。大企業も本社機能を法人税のない外国に移すようになる。

 だけど自分はこの生まれ育った場所から逃げられるはずもない。



 誰もが苦しいのだ。ウチが苦しいのは地域が苦しいから。地域が苦しいのは日本が苦しいから。日本が苦しいのは世界が苦しいから。

 ボクは童話作家になりたかった。子供たちが笑顔になってくれればと思っていた。

 現状を打破する、起死回生の一手。未だ見たこともないような、新たな物語を皆が求めていた。誰かが、どうにかしないと。

 でも分かってる。ボク個人では、世界なんて変えられない。変わらないまま、ゆっくりと崖から突き落とされそうになるような毎日。



 焦燥感に追われていたからだろう。実はボクがとっくに、世界を変える鍵を手にしていたと気づいた時。扉を開いてしまうことを、ためらわなかったのは。

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