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明治時代の文学者は欧米語を日本語訳した。おかげで現代の日本人は、近代的な概念による思考を母国語のまま行えるようになった。そして漢字の源流たる中国にも、近代日本語は逆輸入され、今ではごく当たり前に使用されるようになっている。
ローカリズムにより日本語の翻訳が広まったことで、各国の母国語も近代化。明治の文学者による造語が中国で使われるようになったように。英語に頼らず、母国語での大学教育が可能な国が増えた。すると医療や工業などが、欧米に頼らずとも、自国で人材を賄えるようになる。
テロのあった、あのスポーツ大会で培われた翻訳ソフトのノウハウも、今や進歩を遂げていた。最近になって、翻訳アプリ革命が起こっている。どの国の人間も、母国語と翻訳アプリさえあれば、数十カ国語で日常会話程度の簡単なコミュニケーションが可能になっていた。
国際共通語としての英語は、既に役割を終えていた。
ローカリズムの神髄は、インターネットにアクセスすることで、誰でも知識を得られる。物語を楽しむことでリテラシーを身につけ、得られた知識を理解できる。偉い誰かに頼らず、自分の問題を自分で解決できる。自分の人生を、自分で作り上げることにある。
それは依存心の強い者、支配心の強い者にとっては、都合の悪い世の中だったかもしれない。だがやる気さえあれば、全ての人類に等しくチャンスが与えられる世の中ということでもある。
弓矢や槍で狩猟をやっているような部族でも、今やケータイで連絡を取りながら狩りをする時代。情報の修得は簡単になっていた。
非電源機具の知恵は世界中に拡散。自給自足率は高くなっていった。




