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 また我が家に訪問者があった。今度は日本政府のお役人だ。コンテンツの国際市場が抱える問題について、ボクを名指しで非難があったらしい。ついては弁明しろという。

 あとから、そうしたニュースを知り、二度びっくりした。

 自分が出てどうする。きっと、もはや手を離れている。ボクも年をとった。息子も大きくなって、もう家を出て独り立ちしている。時代についてゆけない、古い人間に過ぎないというのに。だが、さすがにお国相手では断るコトもできなかった。


 国連の会議といっても、そんな大層なわけではない。国のお偉いさんが何十人かいるだけの会議室で、ボクの弁明は行われた。

 朗読をやっていたせいか。トークや講演は難しくない。英語なら慣れている。ボクは通訳を付けず、自分で語ることにした。

 聖書、コーラン、マルクスの資本論に次ぐ、世界で影響を与えたテクストとして、《小咄菊造くん》は紹介された。それってどれもこれも、戦争の原因となった書物じゃないか。ボクは嬉しくなかった。


 主な議題は、《小咄菊三くん》は日本語でしか使えない。だから新興国は困っている。力弱い少数民族は物語を奪われている。これは不平等ではないか、というものだった。

 これに対してボクは、周知の通り《小咄菊三くん》のプログラムは日本語独自の構造あってこそ機能する。不平等ではない。また自分も今は別言語対応をする気もないと答えた。


 すると次は、オープンソースとして公開するよう求められた。

 これに対しては、《小咄菊三くん》はボク個人の知財である。売ったり、他人に渡す気もない。

 それでもというのなら、知財の侵害に当たる。再現するためのヒントなら充分にあるのだから、なぜ自分で作ろうと努力しないのか、と答える。


 さらにボクはまくし立てた。

 物語とは人類共有の宝だ。だが全ての人間が宝物庫の扉を開けるわけではない。《小咄菊造くん》はいわば、その宝物庫の鍵のようなものでだ。ボクは鍵を見出した者として、誰しもが物語という宝を利用できるよう、フリー公開している。

 だがソースの公開は、その鍵の私有に繋がる。鍵を私有すればきっと、宝物庫の扉を内から閉め出してしまう者が出てくるだろう。

 人類の宝は独り占めしてはならない。だからソースは明かさない。


 それでボクの弁明は終わった。

 だが気になる。終始、ボクの返答には「コイツ、空気読めねーな」というような、小さな嘲笑がつきまとっていた。

 ボクはふと、子供の頃にされたイタズラを思いだした。

 用事でボクひとりが教室を出て、戻ってみると、残っていた全員が申し合わせていたのだろう。誰もがボクの顔なんて見たこともないと、知らないフリをするのだ。

 それは、些細な子供のイタズラだったのだろう。だが幼い子供にとっては、突然異世界に放り込まれたかのような孤独感が恐ろしかったと憶えている。


 あの時と同じだ。

 全員で「なかったこと」にしている申し合わせトを、ボクだけが「あるある」と声高に主張している。ボクだけが空気の読めない、つまらない人間になっている。

 つまりボクは、あらかじめ決められた「申し合わせ」すら知らないで、惨めなピエロ役を務めるため。この場に召集されたというわけだ。


 これはボクも後から知ったのがマズかった。

 正義のヒーローを成立させるには、絶対の悪役が必要となる。

 第二次世界大戦に勝利した連合国軍側は、自らの正統性を構築するため、ナチスを「絶対の悪」として設定した。多くの民間人を虐殺したという「気分の悪さ」は、プロパガンダにとって格好の「ネタ」だった。

 ゆえにナチスドイツと同盟をしていた日本は、何十年経っても悪役でなければならない。

 イスラエルはナチスに殺されたユダヤ人の国で、被害者側だ。だから何をしても悪になりづらい。

 ナチスでない人間が例え虐殺を行ったとしても、ナチスではないというだけの理由で、非難されるに値しない。


 それが第二次世界大戦後の国際秩序というものだ。裏で申し合わせて、そう決まっている。

 そして「次の国際秩序」は、反ローカリズムのアメリカン・レーティングを基準に定められると、既に決まっている。

 だから空気の読めない、ボクのような時代遅れは嘲笑され、ゲームのルールすら知らないとバカにされなければならないのだ。なぜなら、それが秩序だから。


 そろそろ、全てにウンザリしてきた。搦め手で来たかと思ったら、教えろと頼り切りになる。それでも駄目なら侮辱で返す。お前らも人に頼らず、自力で頑張れよ、といいたい気分だ。

 昔は自由なアメリカ、壮大な発想力のハリウッド映画に憧れていたものだが。なぜ、こうなった。

 もう見つけて欲しい。ハリウッドよ。早く《小咄菊造くん》の謎を解明してくれと、祈るようになっていた。


 と同時に、恐れていた。

 恐らく彼らは、再びプロパガンダ戦争に勝利したいのだろう。《小咄菊造くん》を兵器としてしか見ていない。

 面白さの支配は、たやすく人を支配する力と化す。そして、《小咄菊造くん》なんてお手本を出してしまったのがマズかった。そりゃ当然、手っ取り早いパワーを求める者は出てくる。ボクが早急すぎた。

 いっそ手放してしまいたい。だが公開できない。アンビバレンツ。


 自分はただ、皆の笑顔が見たかっただけなのに。あの国にいた人々のように、誰もが自由に歌える世の中であれば良かったのに。

 いつの間にか自分が背負っていた荷の重さに、寒気すら感じる。


 だが「国際秩序」はひとつだけ失敗した。

 虐殺は気分が悪いからこそ、絶対悪になれた。しかしアメリカン・レーティングは国際秩序になりうるか? 疑問が残る。

 恐らくは自分たちの正しさが揺らぐ焦りから、急いでいたのだろう。だから目算が甘くなったのだろう。今までの成功体験から、申し合わせのみで国際秩序を作れると勘違いしたのだ。

 秩序は、ローカリズムが絶対悪になる前に、正義を設定しようとしたのが綻びとなる。

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