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 久しぶりの故郷は、すっかり寂れていた。豊かな自然だけが自慢で、特に観光資源などない。順調な産業は果樹園くらいで。昔は工場町だったのが、今では人件費の安い外国に押されて、どこも廃業している。

 仕事がなければ若者もいなくなる。それに少子高齢化が拍車をかけた。人がいなくなれば商売も成り立たなくなる。自慢だった長大なアーケード商店街も今ではシャッターだけが並んでいた。

 懐かしい、見覚えのあるはずの故郷が、今ではすっかり異世界の荒野に見えた。ボクはここで生きてゆかなくてはならないのだ。



 実家の手伝いといっても、ロクに手伝いもしてこなかったボクだ。いきなり業務用の印刷機が扱えるわけもない。自然とボクの担当は営業回りという名の、御用聞きとなった。

 町の印刷屋なんて、地域密着でないとやってけるわけがない。まずは地域との顔つなぎ。ボクは馴染みの取引先に、挨拶をして回った。子供の頃からボクを知っているような人ばかりで恥ずかしかったが、そんなことをいえる余裕はない。

 ふと、昔みた光景を思い出す。取引先相手に、ペコペコと頭を下げる父の背中。たぶん今のボクは同じ背中をしているんだろうなと思って。



 けど数ヶ月もすれば人間、慣れるもの。頭を下げるだけならタダ。頭を下げるだけで仕事をもらえるならラッキ-、とまで開き直れるようになったが。

 ああ、これが大人になるってことなのね。

 仕事に慣れてくると余裕も出てくる。御用聞きの中でニーズがあるのを知ったボクは、サイト作りや、ネット店舗の設定、更にはパソコン操作の相談まで。小銭を取って、IT関係の雑用を代行することにした。

 高齢化の進んだこの町では、ITに詳しい人間は貴重な存在だったのだ。



 それは、昔に雑誌で読んだのを憶えていたのだが。とある町の印刷所がIT関係に転向して、上手くいったとか、という話だ。だからボクは念のため、大学在学中に独学でプログラミングまで修得したのが役だった。

 低迷する紙の代わりにならないかと始めたIT手伝いだったが、支払いは渋く、二束三文にしかならなかった。

 父からは、印刷所がなんで紙以外を扱わなくてはならんのだと。毎日のように愚痴を聞かされた。だから協力もしてくれなかった。

 ただし営業回りとしては有効だったらしく。便利屋的な意味で顔は広まった。それでも仕事はジリジリと減っていった。



 仕事がないのだから、大して忙しくもない。けど憶えることだけは山ほどある日々。そんな中でボクは休みの日を見ては、大学でやっていた朗読のボランティアを、地元に戻っても続けていた。童話作家は無理でも、完全に離れていたくなかったのだ。

 すると意外な出会いがあったりするもので。たまに仕事を頼まれたりした。やはり営業回りは顔の広さだ。



 そしてボクはある人と仲良くなる。

 彼女は介護施設の職員だった。地元の生まれではない。資格があるからと職の当てを探した結果、ここに来たそうだ。

 一目惚れだった。

 ボランティアとか、口実に過ぎない。一年かけて通い詰め、口説き落とした。さらに結婚した翌年、息子が産まれた。

 孫の顔を見て、しばらくして母が息を引き取った。結局、病院に運ばれて入院したまま、出られなかったけど。孫の顔は見せられたのだから、孝行できたのだろうか。



 母が亡くなってから、父はいくぶん気弱になったようだ。大半の仕事をボクに任せるようになった。父ほどの腕前ではないにせよ。既に各種印刷機の使い方はマスターしていた。問題ない。妻も介護施設を辞めて、共働きで印刷所を支えてくれた。

 その代わり暇になった父には、暴れ回る孫の面倒をみさせた。文句をいいながら、でも割と楽しそうに子守をしている。だがふと、呟くのだった。この子の将来はどうなるのだろうと。

 頑張っているはずなのに、相変わらず経営は苦しかった。いや、みんな苦しいのだ。

 資金繰りはいつも厳しく。廃業の二文字が目の前をちらついていた。

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