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こうした表現物規制の流れは、日本にも波及した。
TPPを結んだ国々の中でも、特に立場の弱い国のメディアから、日本コンテンツを締め上げる。ちょうど韓国によるコンテンツ流出で痛い目を見た若門書房が、不法ダウンロードへの対策を行っていた時期でもあり。途上国から物語は失われた。
人々が学びの動機を失ったことで、再び文盲率は上昇する。世界の独裁者にとっては嬉しいニュースだった。
そして日本国内でも表現物規制が動き出す。
かつて政府主導でのクールジャパンに失敗し、天下り先を失った文部官僚たちが中核を担った。自分たちのクールジャパンが成功していたら得ていたはずの利権を、勝手に成功させた民間が享受しているのは許せない。権益を取り戻すため、非倫理的な表現物を規制すべきだと、口出しを開始した。
かくして害悪創作物規制法案が国会で審議されることになる。具体的にはアメリカン・レーティングを日本も全面的に受け入れることだった。あまりに露骨なアメリカ寄りの動きに、本当はアメリカのロビー活動を受けていた議員や官僚がいたのではないかと噂されたが。明らかな証拠はない。
国内外からジワジワと狭まる包囲網に、若門書房の国際部は「まるでハルノートじゃないか」と悲鳴を上げた。
さらには、アメリカの愛国言論法案を参考に、諸外国に並べと。日本でも健康思想維持法という思想の検閲法案を立法化しようとする議員まで出てくる。
だが戦中の治安維持法を思い出しかねない法案に、国民からアレルギーのような拒否反応が噴出。健康思想維持法への反対でもが大々的に行われた。
その間にもアメリカは愛国言論法案を、国際秩序を守る人道的な運動であるとして、他国にも強要。人道のために働いているアメリカの非難は、非人道的であるとして許さなかった。
中にはそれに賛同して乗っかり。政府を非難する国民は非人道的であると、独裁体制を敷く国も現れた。
すると表現が自由な地へ、独裁者の元から創作家が避難する。特に、まだアメリカン・レーティングの影響が広まっていない日本へ移住する創作家は少なくなかった。
対してアメリカの強硬な言論弾圧に反発。反米主義が再燃した。




