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先進国では移民政策の失敗から、途上国では反西洋文明から、ローカリズム化が進んだ。
中東イスラム圏では民族主義から、自治独立の気運が巻き起こる。といっても欧米勢力に対して武力とテロで対抗するのではない。
ただただ単に戦争が少なくなった。部族間の抗争が減少することで、参戦派の若者も減り、過激な原理主義的の声も小さくなった。宗教指導者の反米扇動も、一種のプロパガンダだったというわけだ。
中東諸国は自分らで勝手に仲直りしてしまう。
またアメリカのプロパガンダを分析、介入の口実を先回りして潰す。アメリカは派兵する意味を失う。アメリカ国内では厭戦ムードが高まり、みるみる大統領支持率が落ちた。
中東の平常化で、ヨーロッパにはイスラム系移民が減少。ローカリズムによる民族主義も加わり、EUは農業促進による自給自足をモットーとする緩やかなブロック経済へ移行していった。
EUとの協力を得られず、アメリカは国際協調によるテロリスト排除を口実とした戦争を起こせない。
その間にボリウッド映画がアメリカ上陸。念願の大ヒットを巻き起こした。ローカリズムの中では、もしかして日本より勢いが上かもしれない。
軍需産業の低迷によりアメリカ国内は不景気になるも、富を独占した富裕層が台頭。超格差社会となった。富裕層は原理主義キリスト教と結びつく。
方やヒッピーが再興。新たなヒッピーの間では《小咄菊造くん》が啓示を与える宗教として扱われた。日本コンテンツを鑑賞しながらヘロインを接種するのがトレンドとなり。世界的に麻薬患者の減る中でアメリカだけが麻薬患者が増え、社会問題となった。
そのためアメリカ富裕層の間では、非聖書的な日本への反発は日に日に高まっていった。
そして中国ではプロパガンダの影響低下から、文化大革命を反省する議論が盛り上がる。共産党指導部への求心力は低下し、毎日どこかで民主化デモが起こるようになった。
そんな中、若門書房を通さず、純国産の中国映画が世界で大ヒットした。原作は中国人の書いた人気ネット小説だ。当局のネット遮断を潜り抜けて世界の流行を調べ、自分たちで自分たちの物語を磨き上げてきたクリエイターたちが、中国にもやはりいたのだ。
だが当局から上映停止命令が出る。理由は集会の禁止。この作品が中国の、世界に向けた最後の一作となる。
ローカリズムに対し、非伝統国の不満は爆発する寸前だった。
またローカリズムに失敗した地域も明らかになってきた。特に資源国だ。
「資源の呪い」という言葉がある。
全ての資源国が、資源の自活能力を持っているわけではない。地下資源を持つ国は、採掘権と引き替えに大国からの投資を受ける。金があるから、わざわざ自分で苦労する必要もない。ゆえにローカリズムの育つ土壌もない。
だが大国からの支援を受けられるといっても、大抵の場合その恩恵は一部の特権階級にのみ集中。大半の国民は貧しいまま放置されることになる。国民が貧しくとも地下資源がある限り、特権階級は支配力を維持できるので問題ない。
その間に大国は地下資源を掘り尽くす。途中に出る汚染物質は垂れ流しになり、国土を不毛の地に変える。労働者も大国からやって来るので、その国の失業率が回復することもない。
気がつけば残るのは、掘り尽くされた資源に、汚染された土地、壊滅した産業、飢餓に苦しむ民衆。もう互いに殺し、奪い合うことでしか生きて行けない。
資源を持つがゆえ、逆に大国が搾取し尽くした。まさに呪われた地が世界各地に点在していた。
まだ戦争の火種はくすぶっている。
基本的には介入できそうな戦争はなくなった。ならば、どうする。決まっている。再び炎を熾せば良いのだ。




