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恐らくは……これもローカリズムの別なる側面。いわば、負の側面なのだろう。
若門書房は著作権違反で韓国政府を訴えた。韓国では、中国と日本に顧客を奪われたことで工業力が低下。更に日本コンテンツに押されて、韓流コンテンツも壊滅。国家経済が破綻の危機にあった。
そこで着手したのが、政府主導による海賊版DVDの販売だ。これにより貧困国にも、相当量の日本コンテンツが流出。皮肉にもローカリズムの拡散が早まることにはなった。だが若門書房の損失も膨大なものとなった。
若門書房の訴えに対して、韓国政府は無視。そもそも若門書房の被った莫大な損失を補填する能力自体が、とっくに韓国は持ってなかったらしい。
追い詰められた韓国政府は危機感から、日本とのインターネット接続を遮断。だが、かつての中国と似た結果になる。経済的な打撃のみが残り、とうとう国家そのものが破綻宣言を出す。
国際通貨基金・IMFが韓国経済を立て直すために、介入することとなった。だがIMFの介入は凄まじく厳しい。年金も福祉も全カット。インフラも外資のものとなり、国民の生活はよりいっそう苦しくなる。
毎日のように政府非難のデモが巻き起こり、内乱にすら近い状態となっていた。だが韓国独自のローカリズムとして、日本への不満が噴出。政府は自分たちに向かう怒りの矛先を変えるために、国を挙げての日本バッシングを開始した。
一方の日本では、とうとう世界的なスポーツ大会が開催。日本各地の「聖地」を訪れようと、外国人観光客が大挙して押し寄せていた。
世界中で日本語研究が行われた成果として、優秀な翻訳アプリがこの頃には登場。数十カ国語でも大した問題なく、リアルタイムでの日本語会話が可能になっていた。
と同時に今や英語人口の8~9割は移民や、非英語国のものとなっている。アメリカとイギリスだけの言語ではなくなっていた。そのため移民用に簡略化された英語学習メソッドが発達。日本人でも中学生程度ならば普通に英語での会話が可能になっている子が多くなった。
移民用英語だから文学には不向きなものの。簡単な日常会話には充分に使えた。日本人には既に言語障壁がなくなっていた。
国境も人種もなく、語り合い、スポーツ大会を楽しむ人々。会場は日本各地に分散して建築されている。全国が賑やかになり、大いに盛り上がった。
その会場のいくつかで、同時に放火事件が起こった。テロだ。
逃げ込んだテロ首謀者を引き渡すよう、日本政府は韓国政府に要求。だが犯人は韓国国内で、かつて日本の総理大臣を銃殺した暗殺者と重ねて語られ、英雄扱いされた。そして日本こそが自分たちから富と物語を奪った悪の帝国だと非難した。
韓国政府は国民感情を考え、テロリストの引き渡しを拒否。
日本政府は制裁として、韓国へのガソリン輸出の停止を決定。韓国国内には製油施設がなく、自力でのガソリン生産ができない。日本に全て依存している状態だ。
すると韓国は日本との国境の島に軍隊を進駐。二国間で開戦寸前までになる。だがアメリカの仲介で日本は経済制裁を取りやめ。緊張状態は解かれたが、韓国軍はそのまま国境から退却しないまま、軍事基地を建設してしまった。
のちテロリストは何者かによって暗殺され、死体として日本政府に引き渡される。
日本国内からもテロに協力したと大アジア反日武装戦線を名乗る組織から、大勢の逮捕者が出た。
日本にとって、あまりに損害しかない結果に、韓国を裏から操っていたのはアメリカという説も出たが。これは、あまりにも下らない陰謀論といえるだろう。
そして……息子を連れてスポーツ大会の観戦に行っていた妻が、テロ事件に巻き込まれ大怪我をした。命に別状はなかったが、後遺症で足が少し不自由になった。
近代以来、初めての平和な時期は短かった。
また戦争がはじまる。




