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 ところで日本が着々とグローバル市場へ進出する準備を整えている間、コンテンツ・ビジネスの盟主、アメリカはどうしていたのか。


 かつて八十年代。神話学者のチャーチベル博士は、世界中の神話と、ユングの集合的無意識を研究。全人類は無意識の領域で、ひとつの物語パターンを共通して持っている、という《万能元型》論を提唱した。

 《万能元型》論に着目したハリウッドの映画人はチャーチベル博士に協力・研究。そして複数の項目を穴埋めするだけで神話学的に整合性の取れた物語ができてしまう、《神話シート》を作り上げたのだ。


 それまでハリウッドでの映画撮影はまず、ざっとしたストーリーボードを作成。だが撮影しながら、場当たり的にシナリオを書き換えていた。そのために無駄なシーンも多く、撮影期間が予想しづらかった。

 だが《神話シート》により制作体制はシナリオ中心のものとなり、計画的に撮影が終わらせられる。ハリウッド映画は計画的な生産が可能になった。そしてSF映画が大ヒット。現在へと至る、一時代を築き上げたのである。


 そしてアメリカを代表するアニメ制作会社であるネズミー社だ。

 従来のセルアニメはアニメーターの手腕によって、大きくクオリティが左右されてしまう。だが新社長体制になって熟練のアニメーターが大勢、会社から去ってしまった。

 そこでノウハウの蓄積しやすいCGアニメへと移行。今ではアニメーター個人の技術力関係なしに、量産が可能になるまでになった。


 とうとう最盛期を迎えるハリウッド。合言葉は「ネヴァー・ビフォー・シーン・イメージズ」。「これまでに見たこともない映像」を観客に見せ、そして驚かせることだ。

 世界はハリウッドの見せる、新しくて夢のような世界に酔いしれた。


 だがハリウッドは成功しすぎた。大きすぎる成功体験は組織を鈍重に変えた。

 まずはハリウッドスターの報酬が高騰した。報酬が高いと、いざ映画がヒットしなかった際のリスクが高まってしまう。だが映画の収益は、ほとんどが初動で決定づけられてしまう。有名なスターを出さないと、映画を見る動機付けが弱くなり、初動が遅れてしまう。

 結果、野心的な企画は少なくなり、収益が予想しやすい続編ばかりになった。チャレンジは少なくなる。


 新たな才能を探そうにも、世界不況と中東不安によって、アメリカ国内の格差化が拡大。若者は才能があっても金がない。金がないから映画を勉強する大学に入れない。

 その前に貧乏人は、兵士にでもならざるを得ない。兵士なら、まだマシで。食い詰めて民間軍事会社へ就職。大怪我をしても死んでも保証はないまま戦地へ送られる。

 若者は戦争で、命と才能を磨り減らす。そのような現状では若い天才が現れようもない。


 そしてハリウッドのシナリオライターも《神話シート》に頼り過ぎた。最新の象徴、「クール」の代表であるうちは構わなかった。だが、あまりに《神話シート》を使いすぎた。さすがに昨今はワンパターンになり、観客が飽きてきたのだ。

 最終的には主人公が成功を得ると、観客は知っている。すると途中で飽きさせないためには、ジェットコースターのように刺激を与え続けるしかない。だが単純な刺激は、いつか慣れてしまう。

 《神話シート》では、どうしても《小咄菊造くん》のような意外性を出すことができなかった。


 《神話シート》こそ宗教民族の関係なく全人類に通用する《万能元型》の物語だと力説したチャーチベル博士だったが。《神話シート》で作られたストーリーはどうも、アメリカ人以外には説教臭いというか。恐らくはキリスト教徒好みで、他民族に通用はしても、大当たりする、というほどではなかったようだ。


 市場におけるパイが減っているわけではない。だが近年は増えもしない。次なる手がない。

 そこへ登場した《小咄菊造くん》は用心深い一部のハリウッド人にはショックだった。とりあえずは危機感を煽り、応急的にジャパン・コンテンツをグローバル市場から追い出したものの。何らかの策を講じなければならない。


 だが悪い報せは重なる物。

 コンテンツ・ビジネスにおける全世界的な覇権を狙うアメリカは、中国市場支配のため、中国政府との協力で大陸へ多くの映画館を作っていた。

 だが映画館の完成直前にして突然、法改正。ハリウッドは中国からの撤退を強いられる。名目は、国内コンテンツ産業保護のため、外資を追放すべし、ということだ。

 その間に建築途中の映画館は中国政府が接収、自分たちの物にしてしまった。


 だが映画館を活かすにも中国国内にはコンテンツが不足して役に立たない。結果、どの映画館も赤字続き。

 アメリカと中国はお互いに打撃を受けた。そのためハリウッドは日本の戦略に対して、対応するどころではない。足踏み状態にあった。

 日本コンテンツの世界進出に、幸運なほどの好機が到来したのだ。

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