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逆境の女騎士  作者: kale
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銃器VS剣

数分間駆けると、開けた場所に出た。

月明かりで辺り一面が照らされて、眩しいくらいだった。


「いたぞ、敵の残党だ」

木立の向こうから5人の敵兵がやってきた。残党狩りをしている遊撃の小部隊だろう。

黒い鎧を身に着けた小隊長の周りを、弓兵と剣兵が2人ずつ、脇を固めている。


「小隊長、この『レーダー』って道具の通りに進んだら本当に敵が居ましたぜ。凄ぇ技術だ」

「無駄口を叩くな。敵は二人だけだが、ブロンド髪の方はおそらく隊長クラスだ」

「しかし、小隊長は司令官殿から「アレ」を頂いてるんでしょう。「アレ」があればどんな強者だろうが一発であの世行きだぜ」

「いいから、さっさとあいつらを片付けろ」

「へいへい、了解」


兵達が散開した。小隊長を扇の中心に、左右から弓兵と剣兵が1組ずつこちらに歩み寄ってくる。

「ロラン、近くの茂みに隠れていろ。このお守りがお前を守護してくれる」

ラウラは首飾りの留め具を外し、ロランに手渡した。ラウラの家に代々伝わる鷹のペンダントである。

「あ、ありがとうございます。隊長、どうかご無事で」

後方の暗闇にロランの姿が消えるのを確認してから、ラウラは再び前を向いた。


ふぅ、と息を整える。

「ここが正念場だぞ。ラウラ=フラメル」


射程距離内まで近づいて来た弓兵が矢を放つ。同時に左右の剣兵が突撃してくる。

敵の剣が交差する刹那、しゃがみ込む。頭の上で剣兵共が衝突する鈍い音が聞こえた。

身を低くしたまま剣を振り払い、彼らの足の腱を断ち切った。


後方に一歩飛びのく。

「この野郎!」

弓兵達がさらに矢を放つ。月に照らされた矢じりが光る。

咄嗟の判断で1本目はかわした。2本目の矢が右足の腿の表皮を引き裂く。


地面で悶えている剣兵のベルトから短剣を2本抜き取り、弓兵に向かって投げる。

1投目は左の弓兵の胸に、2投目は右の弓兵の額に突き刺さった。

弓兵共は事切れ、崩れ落ちる。


腿の傷を確かめる。血は流れているものの、幸いにも傷は深くない。戦闘に支障はなさそうだった。

「見事な腕前だな」

黒鎧の小隊長が近づいて来た。片手にL字型の筒のような道具を握っている。

「部下を介抱してやったらどうだ。それとも怖気づいて足が動かないのか?」

「そんな事はないさ。そうだな、お前の言う通り楽にしてやろう」


小隊長の筒の先から火が2度噴き出した。

乾いた破裂音が続けざまに響き、倒れていた剣兵達の背中に穴が開いた。

「ぐ…ぅ…」

剣兵達のぐぐもった声がした。彼らは少し痙攣した後、やがて動きを止めた。

「こいつ、仲間を…!」

「やはり、この『ピストル』という武器は素晴らしい。離れたところから攻撃でき、殺傷能力も十分。

しかも相手は避けることすらできない」


小隊長の筒の先から再び火が噴き出た。

ラウラの右後方の木の幹に穴が開いた。

「狙いがつけにくいのが欠点だが」


ラウラは軽く舌打ちすると岩陰に身を潜めた。

どういう原理かは分からないが、あの『ピストル』という武器は離れたところに穴を開けるらしい。

「魔法の類なのか?」

あれこれ考えていても仕方がない。今は奴を倒す方法を練らなくては。


空気が破裂する音がして、ラウラが隠れた岩の上部が2度砕けた。

『ピストル』の攻撃だ。岩粉が髪にかかる。

岩陰からわずかに顔をのぞかせ、相手の様子を伺う。


「ちっ、もう弾切れだ。5発しか撃てないとはな」

筒に金属の弾を装填している。もしかしてあれを飛ばして攻撃しているのか?


タネが推測できれば、勝機は見えてくる。

『ピストル』は金属の弾を飛ばすための一種の投擲装置。

一度に5発しか撃てない。5発撃つごとに『ピストル』に再び金属の弾を込めなければならない。

つまり、弾込めの間は隙が生じるということ。

そこを叩く。


ラウラは岩の欠片を数m先に投げた。

すかさず、小隊長が発砲する。


隠れていた岩から走り出し、敵が次の弾を飛ばす前に、別の岩陰に滑り込む。

その直後、『ピストル』が放つ破裂音が2度響き渡り、ラウラが走ってきた地面が抉れた。


「隠れんぼは終わりだ!」

さらにもう一発破裂音が響く。

これであいつは4発撃った。

残り1発、相手との距離は20mちょっと。

賭けに出るか。


岩陰から走り出て、体勢を低く取りながら敵に突進する。

小隊長は一瞬怯んだ表情を見せたが、すぐに筒の先をこちらに構えた。


乾いた破裂音が夜空に響く。

焼けた鉄の匂いがし、頬の横を熱い感触が通り過ぎた。

ラウラは振り返らず走り続ける。


弾を再装填しようと敵が腕を少し上げてできた死角、脇腹の鎧の隙間。

突進の勢いを殺さないまま、体重を乗せてそこに剣を柄までしっかりと突き刺した。


慣性力に従って小隊長とラウラは組み合うようにして地面に転がる。

ラウラが立ち上がると、小隊長の脇腹には深々と剣が刺さり、胴体を貫いていた。奴はピクリとも動かない。


「武器の力に頼りすぎたな」

剣を引き抜き、刃に付着した血を敵の軍服で拭った。

「ロラン、終わったぞ。出てきても大丈夫だ」

ロランが居るであろう空間に向けて声をかける。

しかし、返事はない。

「ロラン! ロラン…?」

周囲の茂みを探してもロランは見つからなかった。

「一体どこに行ったんだ。とりあえず、先ほどの広場に戻ろう」


藪をかき分けて広場に出た瞬間、手首を捻られ、片腕をねじ上げられた。

首に短剣を突きつけられている。

辺りを見ると、10人ほどの敵兵に囲まれていた。


「他にも部隊がいたのか。油断したな」

敵兵の一人がラウラの腰の鞘から剣を抜き取って捨てた。

手首に縄が括られる。

「要塞へ連行しろ」

指揮官らしき男が荒々しく兵士達に命じた。







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