炎熱
私は銃声がした方向を見た。黒ずくめで顔をバラクラバで覆った男が天井に拳銃を向
けていた。
周りは大混乱で、みんな出口と裏口に向かって悲鳴を上げながら駆けていく。犯人はそ
の様子を黙って見つめている。そして少し人数が少なくなったところで大声で言った。
「皆さんそこを動かないでください。撃たなければならなくなります。」私は動かずに
周りを見た。ホールにいるのは私を抜いて10人くらいだ。男は受付嬢に歩みより、
「裏口と正面、出入り口すべて鍵をかけろ。リモートでできるだろ。」と言った。受付
嬢は怯えながらも端末を操作する。かちゃんという音があちこちから響いて来る。
男は受付嬢から離れると、大声で私たちに言った。
「皆さん聞いてください。両手を頭に当てて私の前に来てください。おとなしく従えば
傷つけるようなことはしません。」
怯えながらもみんな言うとおりにした。
「ありがとうございます。皆さんそのまま動かずに。今から皆さんの体に爆弾を巻き付
けます。」
これにはさすがにみんな怯えて、悲鳴を上げる人もいた。しかし犯人は生徒に呼びかけ
る教師の様に穏やかではっきりした口調で続けた。
「静かに。皆さんがおとなしくしていれば爆発しませんし、実は私に爆発させる意志は
ありません。」
なにを言っているんだこの男は?
男はかなり大きめのリュックを降ろし、中から爆弾と思われる物を出してこちらにちか
付いてくる。
「手を後ろにして、じっとしていて下さい。」
私たちは言われる通りにした。爆弾は胸の位置に巻き付けられ、付けられる時はかなり
不快だったが我慢した。私は爆弾をできる限り注視し、そして匂いを嗅いだ。爆弾には
アンテナが伸びた物が付けられており、爆弾に埋め込まれているようだった。爆薬は工
業用のTNT。匂いで分かる。訓練を受けておいて良かった。
男は全員に巻き付け終えると、裏口へリュックを持って消えた。おそらく裏口に何か
仕掛けをしているのだろう。やることがすべて終わった男は、
私の前に立ち、話しかけてきた。
「あなた、日本人ですね?」日本人しか話せそうにない流暢な日本語だ。
「ええそうですけど。」私は日本語で答えた。
「日本人がどうしてFBIのバッジを?」
私は正直に警視庁からの特派員だと答える訳にもいかず、
「話せば長くなるわ。」と答えておいた。
「まあいいですけど、あなたには私の盾になってもらいます。いいですね。」
そういうと男は私の腕をつかんで立ち上がらせ、腕をつかんだまま正面入り口まで歩か
せる。入り口の向こうにはパトカーが止まっており、警官が正面のドアを開けようとし
ている。警官がこちらに気づき、銃を向ける。男は左腕で私の腕をつかみ、右手に何か
スイッチの様な物を持っている。それに気づいた警官はあわてて応援を呼び始めた。
※
しばらくこの状態のまま立っていると、FBIのロゴが大きく描かれたトラックが到着し
た。私は長官から貸してもらった無線機から状況報告を聞いている。イヤホンをしてい
るので男には聞こえていないようだ。音楽でも聞いているんだとうまく勘違いしてくれ
ているらしい。その場にいる人をわざと逃がして通報させて、完璧な手口で立てこもる
例の山本が言っていた計画の実行犯か。
「立てこもり事件が発生している現場に到着。爆弾処理班からの報告により、TNTが裏口
および人質全員に仕掛けられていて犯人が所持しているスイッチにより起爆が可能と見
られる。突入準備が整い次第報告する。以上。」
出入り口すべてに鍵がかかっているのを知らないらしい。男は正面に展開していく警官
と捜査官達を眺めながら何かを待っているようだった。
「突入の前に交渉人による交渉を行う。交渉には日本から来た遠藤に当たってもらう」
遠藤さんが?
「合田、聞こえているか?」
遠藤さんの声だ。
「聞こえているならゆっくり瞬きを二回しろ。」
私は言われた通り瞬きを2回した。
「よし。聞こえているな。その男は消息がつかめなかったC班の安田だ。こちらで確認が
取れている。そいつは例の裏サイトのメンバーだ。そいつが使っていたハンドルネーム
を教えるから何か情報が聞き出せないか試してみてくれ。だがあまり深入りはするな。
殺されては元も子も無いからな。」
私はまばたきをもう一度した。
「安田が使っていたハンドルネームはロビンソンだ。幸運を祈る。」
盾を持った隊員が箱形の電話を持って近づいてくる。そっと電話を置き、ゆっくりと
下がっていく。
「もうあなたは下がって構いませんよ。お疲れ様でした。」腕を放される。私は後ろを
向き、人質よりも安田に近いところに腰を下ろす。安田は右手を挙げたままドアの鍵を
開け、電話を取りに行く。
その間、私は安田について考える。英語が流暢にしゃべれるのはオリンピック選手とし
て各国を回ったからだろう。銃を持ったままこの国に入る事ができるのも、捜査官とし
ての立場を利用すれば可能だ。私たちよりも一日早くこの国に入り、組織の人間と接触
して、準備を整えた。問題は目的である。殺された山本が言っていた資金集めか?
そう考えるとこの銀行を狙ったのも納得がいく。しかし、たかだか10人の人質でそんな
にうまくいくとは思えないが・・・。
「合田、聞いているか?」再び遠藤さんからの通信だ。
「今各国の法執行機関から連絡があった。どうやらこれに似たことは各国で起こってい
るようだ。中には原子力発電所に立てこもったやつもいるそうだ。被害を考えると連中
の要求をのんだほうが賢明そうだぞ。」
山本が言っていた大がかりな計画とはこのことか。
安田は受話器を耳に当てて英語でなにやら話している。よく聞いてみる。
「いいか、俺と同じようなことをしているやつは経済大国と呼ばれる国中にいる。そい
つらの要求も俺と同じ口座への振り込みだ。被害予想総額よりも低く見積もられている
から要求をのんだほうが賢明だぞ。俺は交渉には応じない。確認が取れたら俺は爆弾を
解除してここから立ち去る。」そういって受話器を置いてしまった。
私は話を聞いてみる事にする。
「あなた、安田捜査官でしょ?私、警視庁に勤めている合田っていうの。」
安田は私の前でしゃがんだ。
「何故俺のことを知っている?」
「あなたのことはだいたい調べがついているわ。ケーブルを狙撃したのはなぜ?」
距離が近いので小さい声で話した。そうしなくてもアメリカ人である他の人質には何を
話しているか分からないと思うけれど。
「俺はあのとき、裏切り者を始末することを考えていた。しかしあいにく俺からは奴を
狙う事はできなかった。そこで次に俺は奴から情報が漏れるのを防ごうとした。ケーブ
ルを狙ったのはそのためだったが、そこまで調べがついているという事は無駄だったみ
たいだな。」安田は思いのほかよくしゃべってくれる。たぶん一人で多数の敵を相手に
しているストレスをしゃべる事で和らげようとしているんだろう。
「あなたのハンドルネームはロビンソンね。」
「それも知っているのか。さすがFBIだな。と言うことは俺がここを狙うことも分かって
いたのか?」
「いいえ。そこまでは。」私は正直に答えた。相手の質問にも答えないとうまく話は聞
き出せない。
「そうか。それもそうだな。調べがついていれば女のあんたを一人で来させるわけは無
いからな。」
「そうね。目的は分かったけど、動機はなんなの?」
「動機、か。そんな物は俺には無い。俺は計画のシナリオ通り動くだけだ。」
そういうと安田は時計を見て、それから外を見た。
外には報道陣と野次馬が黄色いテープの前に押しかけて騒がしい。銀行が利用できなく
てみんな困っているんだろう。すでに外は暗闇だが、報道陣のライトで向こうの様子が
はっきり見える。
「そろそろ時間だ。おしゃべりはまた後でな。」そういうと安田はリュックの中から暗
視ゴーグルを出し、頭に付けた。それから爆弾のスイッチを押した。
すると周りは暗闇になった。たぶん裏口へ仕掛けをしたときに配電盤にも爆弾をセッ
トしたのだろう。真っ暗で周りは見えないが、報道陣のライトで向こうの様子ははっき
り見える。警官と捜査官達のあわてている様子からすると、彼らからはこちらの様子が
分からないらしい。オンにしている無線から向こうの状況が分かる。
「銀行内の照明がすべて消えた。犯人と人質の姿は全く見えない。」
「こちら狙撃班。暗視装置なんて持ってないぞ。犯人を捕捉できない。」
「こちら突入班。すべての出入り口に鍵がかかっていて、破るとセンサーで犯人に知ら
れてしまいます。突入不可能。以上。」
どうやら状況は安田に有利らしい。しかし彼にはまだ聞きたいことがある。
「ねえ、動機がないってじゃあ、あなたは誰の指示で動いているの?まさか組織があな
たをそこまで動かせるわけはないし。」安田がどこにいるか分からないので、私は半ば
叫んでいた。
「叫ばなくていい。俺はそばにいる。そうだ。俺は組織に動かされている訳ではない。
命令されたんだ。」
「命令?誰に?」安田は組織の人間ではないのか?
「そこまでは教えられない。残念だがな。さあ、連中が要求をのむまで気長に待つとし
よう。」隣で小さい明かりがともったが、手のひらで覆っているので警官達には見えな
いだろう。タバコに火をつけたようだ。私も吸いたかったが、くれるとは思え無かった
足音がちょうど箱形の電話がおいてある位置に移動した。英語で話す安田の声が聞こ
える。
「で、要求をのむ気になったか?まだ準備ができないって、オンライン口座だぞ。数字
を打ち込むだけですむんだ。時間がかかるわけがない。限度額は超えないから制限がか
かって振り込めないトラブルも無いはずだ。さあ、すぐにやれ。」
そういうと受話器を置く音が聞こえた。それから誰も身動きしない時間が長く訪れたが
無線により、警官と捜査官達が試行錯誤する声は聞こえていた。
「催涙ガス弾を撃ち込めないか?その間に突入できれば。」
「ダメだ。犯人がガスマスクを持っていれば効果は無いし、人質が危険にさらされる」
「こちら狙撃班。暗視装置が届いたが、犯人の姿は確認できない。人質は全員無事のよ
うだ。以上。」安田はカウンターの奥に隠れているようだ。さっき足音がそっちの方に
向かったから分かる。
「こちら突入班。暗視装置を持っていますが、状況は変わりません。指示を待ちます」
「報道陣と野次馬をどけろ。奴らのせいでこっちの様子が犯人に筒抜けだぞ。」
彼らは安田に翻弄されてしまっている。交渉もできない今、彼の要求をのむ以外に選択
肢が無くなってきた。それからも彼らは知恵を振り絞り、どうにか犯人を確保できない
か無線でやりとりをしたが、どれも空振りに終わった。
カウンターから安田の声が聞こえてきた。どうやら電話を抱えてカウンターの奥に隠
れたらしい。
「で、どうするんだ。そうか、ありがとう。」受話器を置く音が聞こえた。
そして人質全員に聞こえるように大声で言った。
「皆さんご協力感謝します。これから僕はここからいなくなりますが、すぐに警察の方
々があなた方を解放にきますので、どうか安心してください。」
それっきり、安田の声は聞こえ無かった。私は尻のポケットにいつも入れてある折りた
たみナイフを探り当てて刃をのばし、爆弾を巻き付けてあるロープを切りにかかった。
切り終えると同時に特殊部隊の隊員たちが突入してきた。
私はロープをふりほどき、バッジを掲げながら英語で
「ここに彼はいないわ!」と叫んだ。状況を認識した隊員達は他の部屋を探すべくホー
ルから出て行った。私は背中に付けてあるホルスターから銃を抜いた。周りは真っ暗で
かすかにしか見えないが、隊員に助け起こされた人質達が爆弾を外され、正面出口に向
かっていく。
「こちら突入班。犯人の姿は確認できない。爆弾処理班を呼んでくれ。」
重装備をした爆弾処理班がこちらに近づいてくる。爆弾を確認した彼らの一人が思わず
さけんだ。
「何だこれ。こんな仕掛けじゃ爆発しないぞ!」
そうすると本物の爆弾は配電盤に仕掛けてあった物だけと言うことになる。
私は次の彼の行動を読むため意識を集中した。未だにここから逃げたはずの彼の姿が
確認できていないと言うことは、彼はここには既に逃走しているのか?いや、これだけ
周りを固められていて逃げ出せるわけがない。ということは・・・。
彼はまだこの建物の中にいるはずだが、特殊部隊の隊員達がこれだけ探しても見つから
ないと言うことは、よほどうまく隠れているか、それとも。
私は彼の思考が読めた。気づくと私は人質達に走り寄っていた。彼は人質に混じって
逃げる気だ!
私は彼の顔を知らないので服装を思い出す。黒っぽい服装で、確かアーミーブーツを履
いていた。
人質達は既に大半が銀行から出ていた。私は銀行から飛び出し、黒っぽい服装の人物
を捜した。いない。すでにこの辺りからは逃走しているのか。
私は人混みをかき分けて、進んだ。いた。電柱のそばに止まっているバイクのそばだ。
私はその人物に向かって走り、銃を構えて。
「止まりなさい!」日本語で叫んだ。
男はゆっくり両手を挙げてこちらに振り向く。それは間違いなく日本人の顔だった。
彼はゆっくりと話す。
「このまま逃がしてくれないかな?」
「そんなことできると思う?」私は冷たく言い放つ。
「この事件は君が思っている以上に強大な力が後ろにあるんだ。その証拠が僕だ。」
「あなた?」
「そうだ。僕はこの計画が判明してから警視庁の潜入捜査官だった。そして、捜査官と
いう立場を利用して、この計画に参加した。犯罪組織の連中は今でも僕が警察の裏切り
者だと思っているが、だまされているのは彼らの方だ。」
「じゃあ、初めから?」
「そう。初めから、そして今でも僕は警視庁の捜査官だ。」
「ならどうして計画どおり犯行を実行に移したの?」
「それは警察内部の権力争いだ。タカ派が権力を握り、保守派の人間達は隅に追いやら
れた。元の地位に戻りたかった彼らはある計画を思いついたのさ。」
「それがこれ?」
「そう。犯罪組織の計画をそっくりそのまま利用しようと考えた。組織の計画は完璧だ
ったから計画通り実行すればたとえどんな相手でもかなわずに要求をのむしか無くなり
その結果強硬手段に頼ってきたタカ派は後退せざるを得なくなる。それが彼らの描いた
シナリオだ。」
「うまくいったわね。」
「そうだ。君をのぞいては。」そう言ったところで彼の顔色が変わった。
「血が出ているじゃないか。」そう言われて見れば袖口が濡れている気がする。
おかしいわ。左手に力が入らない。私は銃をホルスターにしまって濡れている所をめ
くって見てみた。左手首に深い切り傷があって、血が流れ出ている。ロープを切った時
に怪我をしたのだ。
次の瞬間、平衡感覚を失い右に倒れた。呼吸が苦しい。彼が走り寄って来た。
彼はあわてた様子で何かを叫んでいるが、聞こえない。あたりが暗くなってくる。
※
目が覚めた時は病院だった。左手首には包帯が巻かれている。そばには遠藤さんがい
る。
「待ってろ。今医者を呼ぶ。」そう言うとナースコールのスイッチを押した。
※
そのまましばらくは入院生活だった。歩けるようになってからは個室から他の病人も
いるところに移された。しばらくは彼らに囲まれて生活する事になるらしい。
入院してから一週間目で、私は遠藤さんにどこか二人きりで話せる場所に行きたいと
言った。私はもう一人で出歩いて大丈夫なので、彼が待っている喫煙室に向かうことに
する。
喫煙室で彼は一人でタバコを吸って待っていた。私はノックしてから部屋に入った。
「どうしたんだこんな所に呼び出して。愛の告白って言う雰囲気でもないしな。」
全く、彼らしい。少し笑って元気がでた。
それから私は安田と警察内部の権力争いについて話した。途中彼は合いの手を入れな
がらも真面目に聞いてくれた。そして、最後に私に言った。
「そのことなんだがな。どうやらタカ派は後退する意向を示しているよ。保守派が権力
機構の上部を握り、事件の対処にはタカ派の指示を仰ぐそうだ。」
「そう・・・。」
「まあ、彼らの目的は完全には達成されなかった訳だが、これ以上彼らも動こうとしな
いだろう。」
「そうね。それにしてもこれで良かったのかしら。世間は何も言わないの?」
「彼らは彼らで大変なのさ。マスコミは騒いでいるが、今やマスコミを信用する奴なん
ていない。だから彼らは何も言わんよ。無駄に使われる政府の金が多少減ったところで
彼らは気にもとめない。」
「でも小国の国家予算並の金額でしょ?」
「いや、犯人一人一人が要求した金額はたいした額じゃない。集めればすごい金額にな
るが。」
「そう言うからくりだったのね。どこまで考えてたのかしら。」
「さあな。さて、俺はもう日本へ帰るよ。土産にこれを置いていく。」
そう言うと彼は手を振りながら部屋から出て行った。彼が手を置いていた所にはタバ
コの箱とライターが置いてあった。いつも私が吸っている銘柄だ。土産ってこれのこと
ね。私は気が済むまでタバコを吸うことにした。
※
病室に戻るとそこには何と安田がいた。彼は花束を持ってこちらに笑いかける。
私はベッドに横になり、彼の顔を見つめた。
「もう逃げているんだと思ってた。」
彼は花束を置き、腰に手を当てて私の質問に答えた。
「逃げようと思った。だけど、君を放っておけなくて。」
「あなたが私を助けてくれたの?」
「助けたのは救急隊員だ。僕はただ彼らを呼んだだけだ。」
「ここにいて平気なの?」
「ああ。大丈夫さ。うまく逃げおおせたし、それに万が一見つかっても誰も手を出さな
いようにここの警察とFBIには圧力がかかっている。権力を取り戻した保守派の力さ。」
「そうなの。私からは逃げようと思わなかったの?」
「それも考えた。銃を向けている時の君は本気に見えたからね。」
そう言うと慈愛に満ちた顔で彼は語り始めた。
「だけど、急に倒れた君を見て、僕は何のために警官になったのか考えた。好きなライ
フル射撃を続けるためじゃない。もっと大事な理由があったはずだってね。」
そして彼は私をまっすぐ見つめた。
「僕は傷ついた人を助けるために警官になったんだ。それを君が思い出させてくれた。
それともう一つ理由があって、君が今回僕が起こした事件で出たただ一人の怪我人
だ。見舞いぐらいしろって上から言われたのもあるんだけどね。」
最後は笑いながら彼は言った。
彼はたった独りで孤独に組織と警察の指示を守り、そして大勢を敵に回して戦ってき
た。それなのにまだ私なんかのために手を焼いてくれる。
「もう行くよ。これが僕の連絡先だ。メールアドレスもここに書いてある。気が向いた
ら電話でもして。それじゃ。」
彼は名刺を置いて、病室から出て行った。
私はその名刺と花束をしばらく見つめていた。
※
人はいつも独りだ。少なくとも私はそう思う。だけど独りでも誰かのために戦う事が
できる。彼がそれを私に教えてくれた。
だから私は今日も交渉という手段を使い、独りで犯人と戦う。
守るべきもののために。