表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

女捜査官

 まず俺が見たいと思ったのは、切断されたケーブルの断面の写真とその周辺の写真だ

断面の写真を見ると、断面は焼けていて、鑑識の報告を読むと、高温で鋭利な刃物のよ

うな物で切断された、というのだ。

 そして、高温で鋭利な物、と言うとそれは弾丸である、という見解も出ている。

それを裏付ける証拠もある。切断されたケーブルの周辺から弾丸が回収されたのだ。

俺は弾丸の写真を見てみる。つぶれてしまっているが、線状痕は検出できそうだ。この

弾丸がどこから飛んできたのか分かりそうな報告書が鑑識から届いていたので読むこと

にする。

 「焼け切れたケーブルの周辺から弾頭を回収。鑑定の結果.308口径の弾頭と解明。線

状痕が警察内、およびこれまで押収された銃器と一致しないか検証中。

なお狙撃班が配置についていたビルから2発の.308口径の薬莢を回収。一つはA班が配置

についていた現場から回収。指紋照合の結果、A班狙撃手の田中久彦捜査官の物と一致。

もう一つの薬莢はC班が配置についていた現場から回収。指紋はC班で狙撃を担当した、

安田信夫捜査官の物と一致した。」

 A班がいた現場から薬莢が回収されるのは分かるが、なぜC班がいた現場からも?

C班からは目標が捕捉できなかったのではなかったのか?

俺は確かめるべく現場へ向かうことにした。

※ 

 現場の周りには黄色いテープがはられ、そのテープの前で報道陣が構えている。

報道規制は解除されたので、現場にさえ入らなければ報道して構わない。

俺は警備にあたっている警官にバッジを見せ、「お疲れ様です。」と挨拶してからテー

プをくぐり現場に入った。

 現場のコンビニの前には鑑識たちが詰めかけ、割れたガラスを拾い集めたり、足跡を

取ったりしている。俺は狙撃班が配置についていた向かいのビルに向かった。

 ビルはオフィスビルで五階建てだ。狙撃班はA班は2階の西にある無人の部屋から、B

班は屋上から、C班は四階の東の部屋にそれぞれ配置についたと、報告書にはあった。

 配置についていた部屋には黄色いテープが張られていたのでさがさなくてもすぐに分

かった。まずA班が配置についていた部屋に向かうことにした。

 部屋に入るとそこには黒っぽい服を着た若者がしきりに望遠鏡のような物をのぞいて

いた。報告書によると彼がいる位置がまさに当時A班が配置についていて、目標を狙って

いた位置だ。

「失礼します。」俺は挨拶してから部屋に入る事にした。その位置を知っているのは当

時現場にいた捜査官に違いないからだ。

「どうも。」彼が俺に気づいた。若く、まだあどけない感じだ。

「警視庁の遠藤と言う者です。当時現場で犯人との交渉を担当しました。」

「ああ、遠藤さんですか。交渉、残念でしたね。僕、A班で観測手を努めていた横田って

言います。はじめまして。」

「観測手?」

「ああ、知りませんよねそんなこと。狙撃班って、通常二人一組なんです。一人が狙撃

手で、もう一人が観測手といって、現場の湿度や温度、風向きや風量なんかを計算して

それを元に生じる弾のずれを狙撃手に伝える役目です。」

「弾のズレ?」

「はい。発射された弾丸は、飛行中に風や湿度、空気中の温度、すごい話重力の影響ま

でも受けてしまいます。その結果、狙った場所とは違う所に弾がずれて当たってしまう

のです。それを計算して、狙撃手に伝える役目が観測手です。ですが、その計算が合っ

ていたかどうか自信がなくて、こうしてもう一回計算しにきているんです。」

「念入りですね。他の捜査官もそういったことをしにきているんですか?」

「いえ、そんなことする必要があるのは僕だけです。僕と組んでいた田中さんが犯人を

無力化してしまったから。」

なんか、当たらなければよかった、と言う風に聞こえるが、仕方のないことだろう。

仕方のない事とはいえ、自分が計算した位置にまっすぐ弾が飛んでいってしまったのだ

から。人を殺した罪悪感は決して消えるものではない。

「その田中捜査官は、今どこに?」

「田中さんは通常のシフトに戻っています。今頃、署の方で仕事していると思います」

「そうですか。」人を自分の手で殺したというのに、たいした精神力だ。署に戻ったら

彼の履歴を洗ってみるか。

「その、望遠鏡をのぞいてみても?」

「はい、かまいませんよ。」

俺は望遠鏡をのぞいてみた。のぞくと上下に目盛りと、上に数字が出ている。数字は、

犯人がいたコンビニのカウンターまで、240と出ている。

「この数字はなんですか?」

「数字は、目標までの距離で、メートルで表されます。」

「なぜこんな正確にわかるのですか?」

「レンズのまん中にある点まで、レーザー光を照射するんです。跳ね返ってきたレーザ

ー光を読み取って距離に換算します。一連の作業はすべてこのスコープの中にある機械

がやってくれます。ですから正確です。」

「証拠としても?」

「はい。完璧だと思います。」

「この240メートルという距離はどうなんです?私のような一般人からするとかなり遠い

距離に感じるんですが?」俺はスコープから目を離しながら質問した。

「いえ、決して遠い距離ではありません。僕たちが使っている狙撃銃は800メートルまで

確実にねらえますし、狙撃した当時は風もなく、湿度も低かったですから。」

「なんせ秋ですからね。」

「そうですね。ですが上からは300メートル以内で射撃するようにいつも言われています

300メートル以内というのが我々が使っている銃が一番精度が高くなる距離だからです」

「条件を満たしてますね。風もなかったし、目標との視界も素人の私からみてもかなり

良好だとわかります。」

「そうですね。だから射撃許可が下りたんだと思います。」

 俺はそろそろ本題に入ることにした。

「C班の安田信夫捜査官について何か知っていますか?」

「安田さんですか。オリンピック選手に選出されたことがあるほどの射撃の名手という

ことぐらいしか僕は知りません。すいません力になれなくて。」

「いやいいんです。これから力になってもらいますから。」

「はあ。」

「これから一緒にC班が配置についていた現場にきてもらいます。いいですか?」

「はい。構いませんけど、C班からは目標がねらえなかったのでは?」

「それを確かめに来ているんです。そのスコープが役に立つと思います。それとあなた

の知恵も貸していただきたい。」

「はい。僕で良かったら。」スコープをケースにしまいながら横田が言う。

俺たちはC班が配置についていた4階東の部屋に向かうことにした。

 C班が配置についていた部屋からはコンビニの奥がみえず、当時カウンターにいた犯人

が狙えるはずが無かった。だが、自動ドアの入り口までの距離は280メートルで、充分ケ

ーブルの周辺が狙える角度だ。しかも安田はオリンピック選手に選出されるほどの腕前

だ。彼ならケーブルを狙って切断できたかもしれない。

「安田捜査官の消息について何か知ってますか?」俺は横田に聞いてみた。

「いえ、横田さんは事件当日の夜、自宅に戻ってから消息が分かっていません。捜査一

課が令状を取って自宅を調べていますが、何か見つかるかどうか。」

つまり安田は尋問を恐れて逃走したというのか。

「他に何か分かってる事はあります?」

「我々狙撃班が勤務時に携帯している拳銃が見あたらないそうです。」

と言うことは安田は武装していて、しかも逃走中と言うことか。

「いろいろとありがとうございます。では、私はこれで。」

「はあ。どうもです。」

「なにか分かったらこちらの方に。」

俺は横田に名刺を渡して、現場を後にする。

 署に着いて俺はまず鑑識に向かった。鑑識課の扉をノックし、押してあける。

「何か分かったこと、ありますか?」鑑識課課長の近藤に聞くと、すぐさまファイルを

渡される。

「どうも。」俺は目当てのものをもらったので、すぐに部屋を後にした。彼らからすれ

ば、俺たち刑事は作業の集中を乱す邪魔者にしか見えない事だろう。

 俺は自分のデスクに戻り、ファイルを読んでみる。

「ケーブルの周辺から回収された弾丸は当時C班が使っていた.308口径の狙撃銃と一致し

た。薬莢の指紋も含め、ケーブルを切断したのはC班の安田信夫捜査官と見て間違いない

模様。本人の行方が不明な点も含め、彼の犯行と断言できる。捜査官の行方と、当時の

彼の行動を探るべくC班観測手の鈴木捜査官の事情聴取を現在捜査一課が行っている。」

 俺は現在事情聴取が行われてる取調室に向かうことにした。

 取調室のドアをノックし押し開け、バッジを見せてから中に入る。

捜査一課課長の渡辺に名乗る。

「遠藤です。当時犯人との交渉に当たっていました。傍聴させてもらっていいですか」

「遠藤君か。彼に何の用かね。」

「一捜査員として彼ら狙撃班の行動を洗っていたら、安田の事が浮かびまして。」

「なら我々と同じかね。そういうことなら、傍聴して構わんが、後で上からどやされん

ように。」

「分かってますよ。」一度傍聴させてもらった事があり、心理分析で勝手に犯人だと決

めつけたことがあったのだ。そのことをいっているのだろう。

俺は課長の隣、マジックミラーの前に立った。

「もう一度聞きますが、安田について他に知っていることは?」

「彼とはあの日組んだばかりで、あまり詳しい事は分かりませんが、いきなり悪態をつ

いて銃に装填し始め、そしてケーブルを狙って撃ったんです。数十秒くらいしかかかっ

てなかったと思います。」

「彼の行方について知ってることは?」

「彼は間違いなく、犯人グループの一員です。情報の漏洩を恐れて、ケーブルを切断し

たんですよ。」

「その情報というのは?」

「分かりませんよ。交渉に当たった遠藤さんにでも聞いてみてください。」

まずいな。今度尋問されるのは俺になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ