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Never Ever(本編)  作者: 一葉
第二話:誤算
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密談

   2496年8月4日

   ネイピア、ライジング・ヒル城内”青の間”にて






さほど広くは無い一室の中央に置かれたテーブル。

それを囲むように6人の男女が立っている。

テーブルの上には1枚の地図が広げられている。

一見した所、ガルド大陸の様だ。

その地図には、一部に数字と矢印が書かれている。

書かれているのはホワイトサイド内のパープ地方である。

どうやらパープの戦いの簡略図の様だ。

パープ地方はホワイトサイドとサーガの境目にあり、戦略的にとても重要な地である。

その為、大戦が終了してからも、諍いの絶えない地の一つになっている。

そんなパープ地方に、サーガ・コンスウェールの連合軍が攻めてきたのは一週間前になる。

サーガとコンスウェールはお互い牽制し合っていた筈なのに、突然連合して、ホワイトサイドに侵攻してきたのである。

連合を予見できなかったホワイトサイド側は苦しい戦いを強いられ、すでに国境の砦を落とされてしまっている。

苦しくなってしまったホワイトサイドは、北部アトラス連合の中心であるネイピアに援助を求めてきた。

昨日のことである。

テーブルを囲むのはネイピアの主要メンバー、国王のヘスラー、皇太子のジグラット、宰相の一人のカノン、国家親衛隊員のシルフェ、ヘスラーのC・Rの隊長を勤めるエミッタ、国内最強の騎士にしてヘスラーの親友のボルディアス、ここに集まったのはヘスラーが最も信頼するもの達ばかりだ。


「ホワイトサイドは苦しいな。」


「はい。

 すでに国境はサーガ・コンスウェールに押さえられてしまっています。」


ヘスラーの呟きにカノンが答える。


「リグネッド砦を取られたのが痛い。」


「ホワイトサイドはクランベル城を中心に展開、テュート・ナハトムジーク将軍が指揮を取っておりますが、突破されるのは時間の問題です。」


二人は一瞬沈黙し、顔を見合わせた。

ヘスラーはその顔を壁際に立っていたボルディアスに向ける。


「どう思う?ボルディアス。」


ボルディアスは目を開けるが、体勢はそのままに答えた。


「臭うな。」


「ふむ、やはりギルギットか?」


その言葉を受けてジグラットが口を開く。


「マサムネからの報告では、ギルギット国内に於いて、軍部の動きが活発になっているらしく、近日中に動く可能性は高いかと・・・」


「俺が行こう。」


ボルディアスが言うと、それをヘスラーが押しとどめた。


「いや、私が行こう。」


それを聞いたカノンが、慌てて言い募る。


「お待ち下さい。

 この度のサーガ・コンスウェール両国の動きの裏に、ギルギットがいる可能性はかなり高いと思われます。

 陛下自らの出撃は危険です。」


そう言われるのが分かっていたのか、ヘスラーは落ち着いてカノンの顔を見返した。


「だからこそだ。この戦は早急に片付ける必要がある。

 もし裏にギルギットがいるなら、その目的を確かめる必要もある。」


「しかし!・・・・・」


「まぁ、そう心配するな。

 何が起ころうと、私とエミッタが居ればどうとでもなる。」


ヘスラーがエミッタに目配せをする。エミッタは自分を見つめてくるカノンに向かって一つ頷いた。

カノンは諦めたようにため息をついた。


「シルフェ。」


壁際にいるボルディアスが突然声を上げた。

ボルディアスはシルフェを見ている。


「大事な娘を貸してくれるのか?」


「お前の見張りだ。」


ボルディアスはヘスラーが無茶をしないように釘を刺している。

ヘスラーは笑っている。


「ハルシオン大戦の頃とは違うからな。

 無茶はせんよ。」


ボルディアスはじっとヘスラーを見ている。

ヘスラー、今度は苦笑して。


「信用が無いな。

 ・・・まぁ、ありがたく借りておくよ。」


そして、ヘスラーは顔を引き締めると、一同を見回した。


「ギルギットに新国王が即位して約6年。

 中枢部に関しては全く情報が無い。

 特に軍部はだ。

 下手をすれば第二次ハルシオン大戦と言う事も考えられる。」


「しかし、ハルシオン大戦が終結して20年、ギルギットはともかく他の国々はまだ十分に国力が回復したとは言えません。」


ジグラットも口では否定しているが、顔には不安が現れている。


「ギルギットは他国を当てにしていないとすればどうだ?」


「と、すれば。

 まず狙うのは・・・・・リーヴス。」


ヘスラーの問いに答えたのはカノンだった。

やはり、この状況を正確に把握しているのはカノンぐらいのようだ。


「うむ、戦が長引くことを考えれば、リーヴスの大穀倉地帯はどうしても欲しいだろう。」


「いくらギルギットが世界三大国の一つとはいえ、まさか一国で世界を敵に回すなどということは・・・」


さらにジグラットは反論するが、声には力が無い。


「このような所で議論を交わしていても答えは出ん。

 行動あるのみだ。」


ヘスラーは一呼吸開けて、さらに続けた。


「実は私が国を空けるのは奴らへの餌でもある。

 余計な刺激を与えることになるかもしれんが、正体の分からん不気味さより幾分ましだろう。

 だが、残ったお前達の対応しだいで、どうとでも転がるはずだ。

 後のことは任せたぞ。」


ここでヘスラーはカノンに向き直った。


「それから、パブロダールには気を付けろ。

 どう動くか全く読めん。

 あそこの元首達はカルヴァドスの愛弟子だからな。

 一筋縄ではいかんだろう。」


重苦しい沈黙が場を支配する。

その息苦しさを振り払うかのように、次々と部屋を後にしていく。

最後に部屋に残ったのは、ヘスラーとボルディアスだけだった。

そのボルディアスも、ヘスラーと二人なのを確認すると、ゆっくり動き出した。

ドアへ向かう。

が、その途中で、ヘスラーの側まで来ると立ち止まった。


「いぶり出したいのはギルギットだけか?」


「実はこっちの方が本命だったりする。」


二人とも顔も合わさずに言葉を交わす。


「良いのか?シルフェと天皓はほぼ互角。

 どうなるか分からんぞ。」


ボルディアスはニッと、自身ありげな笑いを残して部屋から出ていった。

ヘスラーも、暫くじっと地図に見入っていたが、折り畳むと部屋を後にした。



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