三大国
【 Never Ever 】
このお話は、基本的に世界三大国と呼ばれる3つの国による、三つ巴の戦いを記録したものです。
その三大国とは「パブロダール魔法士王国」「ギルギット帝国」「ネイピア」です。
基礎設定編にある年表によって、今後世界がどういう風に動いていくのかおおよその所は分かります。
しかし、Never Ever ではそんな歴史の影に埋もれて消えて行った、数多くの魔法士達の生き様を書いていきます。
2496年8月3日
バブロダール魔法士王国、ベイル城内にて
目が覚めるとそこには見なれぬ天井があった。
「気がついたか?」
横を見るとビスケットが椅子に座っている。
「・・・そうか、パブロダールのベイル城か・・・・・」
マサムネは体を起こそうとした。
「クッ・・・・・」
鋭い痛みが走ったが、構わず起きあがった。
「まだ完治した訳じゃない、無理するな。」
「ああ・・・」
マサムネは俯いたまま動かなくなってしまった。
そんなマサムネをビスケットは複雑な顔で見つめていた。
コン・コン
ドアをノックする音の後に、アオイとクライファートが入って来た。
「どう、様子は?
・・・あれっ、もう起きてんの?丈夫ねぇ。」
アオイはベッドまで来るとビスケットを抱えて椅子の上に座り、ビスケットは自分のひざの上に乗せた。
クライファートは壁際に立っている。
「あっ、自己紹介がまだだっけ。
私は・・・」
「パブロダール四大魔法士、アオイ・レンカノン、クライファート・ヴェル。」
マサムネがアオイの言葉をさえぎって答えた。
「あれ、知ってたんだ。」
ビスケットがアオイのひざに乗ったままマサムネを指差す。
「コイツは黒の剣士マサムネだ。」
「あんたが・・・へぇ・・・ビスケットとは良く鉢合わせするらしいわね。」
「傷が良くなるまでいるといい。」
クライファートが3人の会話に割り込んできた。
「いや、そう長居するわけにはいかない。」
マサムネはそう言って立ちあがろうとする。
が、痛みで再び座り込む。
「くそっ!」
マサムネは苛立った声を上げる。
そんなマサムネを見つめるビスケット。
「何があったか知らんが、慌てていては物事の本質を見極められんぞ。
一度ゆっくり落ち着いて、考えを巡らせてみるのも悪くはない。」
マサムネはおとなしくベッドに戻ると横になった。
「で、どうだった?ギルギットの様子は。」
話が一段楽した所で、クライファートが本題を切り出した。
「軍に動きが見られた。
近いうちに何らかの行動を起こすのは間違いないな。」
「同感だな。
俺もくさいと思う。」
ビスケットの返事にマサムネも口を開いた。
「第二次ハルシオン大戦・・・などと言うことはないだろうな・・・」
クライファートの表情は暗い。
「あるいは・・・・・」
ビスケットも、ビスケットを抱えるアオイの表情も暗い。
「すまないが、魔法便を貸してもらえないか?」
そう言うマサムネの表情は意思をたたえたもので、先ほどまでの憔悴しきった表情ではなくなっていた。
吹っ切れたのかどうか分からないが、落ち着いて考えた末にやるべきことが見えてきた様だ。
「ネイピアかい?」
クライファートが静かに尋ねる。
「報告しておく必要があると思うが。」
「確かに・・・今は復旧作業中だから、後で持ってこさせよう。」
「復旧?」
「誰かさんが無理してくれたからMBSの中枢システムがダウンしてしまってね。」
「仕方がないだろう、緊急事態だったんだ。」
ビスケットはふてくされた顔をしている。
「言い訳は魔法研究部の皆さんにしてくれ。」
ビスケットは肩をすくめているだけだ。
「そうか、転移魔法か・・・わるいね、俺の為に。」
「気にすることはないさ、全責任はビスケットが取ってくれるから。」
「何、聞いてないぞっ!
汚いぞ、クライファート。」
プッ・・・
マサムネが一生懸命笑いをこらえている。
良く見るとアオイもだ。
「貴様のことなどもう知らん。」
ビスケットはさっさと出ていってしまった。
部屋の中では三人三様の笑いが繰り広げられていた。
2496年8月3日
ネイピア、ライジング・ヒル城内にて
「カノン様、マサムネより通信が入りました。」
1枚の紙切れを持って部屋の中に入って来たのは、がっしりとした体格の壮年の男だった。
右目のところにある大きな切り傷が特徴的だ。
男の名は「ボルディアス・クィンシェル」、ネイピアの宰相の一人カノンのC・Rの隊長を勤める男である。
今現在、ネイピア最強と言われる男である。
部屋の中には机に向かう男が一人いるだけだった。
男はまだ若く20歳くらいと思われる。
この人物こそ、ネイピア史上最年少で宰相となった「カノン・ベルカンプ」である。
前宰相であったカノンの父親に代わって宰相となったのは、カノンがまだ19歳のときであった。
「何と?」
「ギルギットに不穏な動きあり、近々表立った行動に出る恐れあるゆえ気をつけられたし、以上です。」
カノンは少し考えていたが、暫くして口を開いた。
「陛下には明日ご報告するとして、殿下にご相談してみよう。
一緒に来てください。」
「はい。」
ボルディアスは直立の姿勢で答えた。
ボルディアスとカノンは暗く長い廊下を二人で進んでいた。
そこに偶然一人の老人が通りかかる。
後ろには、天皓と言うリフェールのC・Rの隊長を連れている。
この老人は「リフェール・デル・サッファン」と言い、もう一人の宰相を勤める男だ。
この老人は黒い影が付きまとい、あまり良い噂は聞かない。
「どうしたのかな、カノン殿。」
無視して通りすぎようとしたカノンに、リフェールが声をかけてくる。
「ちょうど良い所に、リフェール殿にも聞いて頂きたい故に、御一緒願いたいのですが。」
カノンの口調は嫌そうなのが見え見えだ。
それを知ってか知らずか、リフェールは飄々としている。
「いや、やめておきましょう。
カノン殿の為さる事に間違いは無いでしょうからな・・・・・」
それだけ言うと、リフェールはさっさと歩いていってしまった。
「チッ、相変わらずきな臭い奴だ。」
リフェールを見送ると、カノンは再び歩き出した。
コン・コン
「殿下、よろしいですか?」
カノンが一声掛けて入ってくる。
部屋の中には長椅子に寝そべった男が一人と、机について書き物をしている女性がいるだけだった。
この男は「ジグラット・ミューフィーリーファーリア・ネイピア」と言い、この国の王子である。
国王には現在、この王子と3人の娘がいるが、王子はジグラットただ一人であるため、彼が次期国王となるのは周知の事実である。
そして、女性の方は「シルフェ・クィンシェル」と言い、国家親衛隊のメンバーであり、ボルディアスの娘でもある。
その実力は、ボルディアスに次いでNo.2と言われるが、実際の所は定かではない。
今はジグラットの護衛として付いているようだが、ジグラットが王位を継いだ暁にはC・Rの隊長となるであろうと言われている。
「どうしたんだい?」
ジグラットが上体を起こした。
「ご報告をしたい事が。」
シルフェも顔を上げてこちらを見ている。
「何だい?」
「ギルギットについてです。」
「動くのかい?」
「はい。」
「ふむ、6年前に国王が代わってからどうも怪しかったが・・・・・やはりと言う所か。
こうなっては欲しくなかったが、カノンの予想通りに来てしまったか。」
「私の予想の中では最悪のシナリオの一つだったのですが・・・」
「父上には明日にでもお話しよう。
こちらも手を打たねば。
カノンのことだ、すでに何らかの考えがあるのだろう、頼むよ。」
「はい」
これだけのことを話すと、ジグラットは再び長椅子の上で寝てしまった。
シルフェは再び手元に目を落とし、カノンとボルディアスは自室へと帰っていった。
2496年8月3日
ギルギット帝国、ギリア城内にて
「奇妙な二人組?」
ガランとした謁見の間、そこには女性が二人いた。
一人はカリンであり、もう一人は黒髪に青い瞳をした若く美しい女性で、彼女の名は「シーリス・リオル」と言う。
シーリスはギルギットの全軍総司令であり、宰相を勤めるやり手の政治家でもある。
事実上の国内最高指導者だ。
「はい、大鎌を持った幽霊のような奴と高笑いの丸女です。」
シーリスの質問にカリンが答える。
しかし、この説明で伝わったのだろうか?
「何者なの?この大事なときに、一片のミスも不安要素もあってはならないと言うのに。」
「その後現れなかったのですが、どうしても気になったもので。」
「今度の作戦に於いて最大の障害となるのは、パブロダールとネイピアと思われたが・・・まさか、第四の勢力という事はないでしょうね。」
「作戦が始まってしまえば関係はない、全てが倒すべき敵だ。」
二人の会話に割って入ったのは、玉座の脇から現れた豪奢な装いの男だった。
国王「ランバート・クレイル・ギルギット」である。
『陛下』
シーリスとカリンの声がはもり、二人がひざをつく。
「いらしていたのですか?」
「うむ、今度の作戦は、我がギルギットの悲願だ。
よろしく頼むぞ。」
『ハイ』
「期は熟した、今こそ立ちあがる時だ。
我等が目指すはただ一つ、 ミレニアムだ! 」
『アルヘンティノス暦2496年8月15日
ギルギット帝国は友好国であるはずの隣国リーヴス連合王朝へ侵攻。
世界を震撼させる出来事であった。』