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Never Ever(本編)  作者: 一葉
第一話:ギルギット進軍
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無音魔法(サイレント・マジック)

   2496年8月3日

   B/M vs ビスケットの地点にて






辺り一面に土煙が広がり、視界が全く効かない。

ビスケットの放った魔法によるものだ。

ビスケットが軽く手を横に振ると、ビスケットを中心に風が流れ、土煙が消えていく。

そこに現れたのは無惨になぎ倒された木々とかろうじて残っていたにもかかわらず爆圧で瓦礫と化した建物、そして、約10Mの浅いくぼみだった。

これらのものが衝撃の凄まじさを物語っている。

しかし、この平らにならされた土地の中に異質なものが二つあった。

ビスケットの一撃に耐えられたのは、この場でレジィとヒートのみだった。


「大丈夫か?」


埃を払いながらヒートがレジィに言う。


「なんとか。

 このスーツじゃなきゃ死んでたわよ。」


ポニーテールの位置を整えながらレジィが答えた。

二人は、くぼみの中心、少し盛り上がっている所に立つビスケットを見つめていた。


「ちっ、余裕な面しやがって。」


「・・・行くから援護よろしく。」


それだけ言うと、レジィは鋼線を放つと同時にビスケットに向かって突っ込んでいった。

わずかな時間差でヒートが撃ちこむ。

ビスケットはヒートの攻撃を局所結界で弾くとレジィの放った鋼線を掴み、引っ張った。


「なっ・・・・・!」


ビスケットまで数歩の所まで迫っていたレジィはバランスを崩し、ビスケットの方に引き寄せられた。

ビスケットはその一瞬を見逃さず懐に入り込み、魔法の一撃を直接レジィに叩き込んだ。

レジィの体は衝撃で吹き飛ばされ、地面に向かって落ちていった。

地面に激突しそうになったレジィの体を鋼のような腕が抱きとめた。

それはゴートだった。


「大丈夫か、レジィ?」


少し離れた所に立つヒートが、ゴートの腕の中のレジィに話し掛けたが、返事はなかった。

レジィはゴートの腕の中で力無く横たわっている。

ゴートはレジィの胸に耳を当て、生きていることを確認すると、ヒートに向かって一度だけうなずいた。

すると、ゴートはレジィを抱えたまま瓦礫の山の向こうに消え、しばらくして戻ってきた。

それを確認したヒートは、改めてビスケットに向き直った。


「第2ラウンドといくか。

 ウチのお姫さんいじめてくれた代償は高くつくぜ。」


「やれやれ、今度はヤロー二人か。

 悪いが、手加減無しで行くぞ。」


その台詞と共にビスケットが30センチほど宙に浮き上がった。

その様子を見たヒートは冷や汗を流しながら銃をビスケットに向けた。


「じゃあこっちもマジで行くか?」


と言うが早いか、ヒートは銃を乱射した。

全ての弾が確実にビスケットの急所に向かっているのだが、ことごとく結界に阻まれる。

しかし、最後の一発はビスケットの足元に着弾し、盛大な土煙を上げた。

ビスケットの視界が一瞬土煙にまぎれた瞬間、ゴートがその土煙を割って、ビスケットに肉薄した。

ゴートは渾身の力を込めてビスケットに拳を放った。

しかし、ビスケットは手の先に作った結界で、やすやすとその一撃を防ぎ、ゴートにレジィのときの様に魔法の一撃を食らわせた。

が、ゴートは数歩分後ろにずれ下がっただけで、平然としている。


「おいおい、今のが平気なのか?

 こいつほんとに人間か?」


「マジだって言ったろ。」


ビスケットの言葉にヒートが答えた。


「そうか、それなら次はこっちの番かな。

 まずは・・・・・こっちからだな。」


その台詞の後、ビスケットの姿が掻き消える様に流れて消えた。

次の瞬間にはヒートの頭上にその姿を現した。


「くっ、速い!」


すでにヒートの足元には魔法紋様マジック・グラムが浮かび発光していた。


”Lightning Fang”


ビスケットが真名を開放することで、魔法が完成する。

魔法紋様から発生した幾筋もの電光がヒートを包む。


「ぐっ・・・・・・・」


ビスケットはそのままくるんと回転するようにして、左手に作ったエネルギー弾を接近していたゴートに叩きつけた。


「う・・・おぉぉ・・・・・」


ヒートは特大の一発を魔法紋様のある一部を狙って当てた。

すると、魔法文様が蒸発する様にして消えた。

電光から開放されたヒートは、そのまま膝をついて座り込んでしまった。


ビスケットはスタッと地面に降りると、二の足をゴートに向かって踏み出した。

踏み出したと同時に牽制のエネルギー弾をゴートに向かって放つ。

ゴートはビスケットの放ったエネルギー弾を拳で弾き、自分からもビスケットに向かっていった。

ゴートは休む暇なくパンチとキックを浴びせるが、ビスケットはそれを全て受けたり流したりしてかわし続けた。

何度目かの攻撃をいなした瞬間、ビスケットのエネルギー弾がゴートに当たり弾ける。

一瞬ゴートが防御に回った間に、ゴートの周りにはすでに魔法紋様が完成されていた。

ゴートは三角形を二つあわせたような立体魔法紋様(ソリッド・マジック・グラム)に囲まれていた。


”Magic Press”


ビスケットの言葉と共に物凄い衝撃がゴートを襲う。

肉が、骨が、ぎしぎしと悲鳴を上げる。

が、ゴートはその衝撃に耐えた。

しかも、ゴートはその姿のまま、少しづつだがビスケットの方に移動してくる。

それを見たビスケットは少し驚いたが、指先で空中になにやら模様を刻む。

すると、ゴートを襲う圧力がさらに増した。

さすがにこの圧力には耐えられない様で、ゴートも膝をついた。

ヒートも先ほど膝をついたときの姿のまま動かない。


二人には形勢不利と見えたその時、不意の横やりが入った。

ヒュン・ヒュン・ヒュン・・・・・

空気を切り裂いて飛んできた大鎌が、ゴートを包む魔法紋様を切り裂いて戻っていく。

大鎌を受け止めたのは、空中数メートルの所に、まるで空気に腰掛けているかのような格好で浮いている、珍妙な格好の魔法士?(としか思えない)だった。

全身を黒い布切れで覆っていて、顔にはマスクをつけている。

そいつは、大鎌を肩に担いでビスケットを見つめた。


「弱いものいじめはいけないなぁ~、代わりに僕が遊んであげますよ。」


すっとぼけたことを言うこいつの顔は仮面に隠れているので、何を考えているのか良くわからない。


「何者だ?」


ビスケットの誰何の言葉も気にした様子がない。

そいつは、指先を目の前で左右に振って、チッチッチ・・・と舌を鳴らす。


「人に名前を尋ねるならまず自分からでしょ、ビスケットさん。」


「知っとるなら名乗る必要はないな。」


そいつはビスケットを見たまま、くすっと笑う。


「僕はクロス・メイス、流しの奇術師さ。」


「ほう、空中ショーでも見せてくれるのか?」


「お望みとあらば・・・・・とくと御覧あれ。」


クロス・メイスは持っている大鎌を一振りする。

ビスケットは、さっと大きく後ろに下がった。

すると、今までビスケットのいた場所の地面が大きく斜めに裂けた。


「良く分かりましたねぇ~。」


クロス・メイスは拍手をしている。

ビスケットはクロス・メイスを睨んで、にやっと笑った。


「なら、次は俺が面白いものを見せてやろう。」


ビスケットがその言葉を発したときには、すでにクロス・メイスを囲むように立体魔法紋様が浮かび上がっていた。

円形の魔法紋様が少し斜めに重なったものだ。

クロス・メイスは、ビスケットが真名を開放する前に釜を振った。

キシュッ・・・

魔法紋様は、クロス・メイスの一撃で弾け飛んだ。


「今のがサイレント・マジックですか。

 確か、世界でも3人しか使い手がいない、超難しい魔法なんですよね。

 大変珍しいものを見せていただいて、ありがとうございます。」


「いや、いや、礼には及ばんよ。」


はっはっはっはっは・・・・・・・

二人のわざとらしい笑いがあたりに木霊する。

二人は静かに睨み合っている。


きゃははははは・・・・・・・・・


「?」X2


きゃははははは・・・・・・・・・


妙な甲高い笑い声が近付いてくる。

ビスケットは、クロス・メイスの後方から、何かが跳ね跳びながら近付いてきているのを見つけた。

クロス・メイスの様子が何かおかしい。

少し焦っている様だ。

その物体は、クロス・メイスを跳び超えるとビスケットとクロス・メイスのちょうど中間の位置に降り立った。

それは人だった。

が、その格好がまた変だ。

クロスメイスも変だったが、それに輪をかけて変だ。

手足は細く、可愛らしい顔立ちをした少女なのだが、胴体部が丸い。

丸いと言っても、太っているとかではない、と思う。

とにかくボールの様に丸いのだ。

その少女はビスケットを見つめると、嬉しそうに笑った。

そして、片手をかざして、


「おいっす!」


それが少女の第一声だった。



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