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Never Ever(本編)  作者: 一葉
第一話:ギルギット進軍
4/26

兄妹

   2479年深秋

   ?にて






はぁ、はぁ、はぁ・・・・・

男の子と女の子が、冬の気配を見せ始めた暗い森の中を走っている。男の子は女の子の手をしっかり握り、二人はわき目も振らず走り続けた。必死な男の子に比べ、女の子は兄の背を追いかけているだけ、と言う風にも見える。






   同日およそ30分前

   森の中の一軒家にて






テーブルにこの家の住人らしい一人の男が居り、その人と向かい合う様に細面の男がいた。

男は部下らしき二人の男を従えていた。


「ハルシオン大戦以来、魔法士は一般社会では生活しづらくなっています。

どうです、お嬢さんを我々の方で預からせてもらえませんか?」


細面の男が一見穏やかそうな顔で諭す様に言う。


「断る。

 何度来ても無駄だ、帰ってくれ。」


男は断固とした調子で答える。

細面の男がさらに言い募る。


「お嬢さんを抱えていつまでこの地にいられますかな?

 それともまた移動を繰り返すつもりですか?

 それではなんの解決にもなりませんよ。」

男は腕を組み、目をつぶっている。


「帰れ。」


それだけ言うと、黙ってしまった。


「そうですか、分かりました。」


そう言う男の穏やかそうな顔の中で、目の色だけが変わった気がする。

そして、なにもいわず後ろの男に目配せをした。






   再び森の中にて






「うわぁ・・・」


男の子が茂みに足を取られ転げる。

膝から血がにじむが、男の子は構わず立ちあがった。


「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」


女の子が心配そうに声をかけるが、男の子はその声を無視して再び走り出した。






   再び数十分前






森の中で男の子と女の子が遊んでいる。

二人はお腹がすいてきたので帰ることにした。


「よーし、家まで競争だ。」


そう言って男の子が走り出す。


「ずるいよ、お兄ちゃん!」


妹は兄の背中を追って走り出した。

およそ10分後、二人は家まで帰り着き、一足早く玄関にたどり着いた男の子がドアノブに手をかける。


「ただいま。」


男の子は勢い良くドアを空けた。

直後、男の子の目に飛び込んできた光景は、真っ赤に染まった床とそこに倒れこんでいる父親の姿、そして、それを見下ろす3人の男達だった。

一番手前に立っていた細い男が、ゆっくりと男の子の方を振りかえった。

男の子は素早くドアを閉めると森に向かって走り始めた。

そして、ようやく森を抜けたところだった女の子の手を握ると、なにも言わず手を引っ張って走った。

遊び慣れた森の中へと・・・・・






   再び森の中にて






暫く走りつづけていた二人は、森の奥にある大木のそばまで来ていた。

男の子は後ろを振り返り、追っ手が無いことを確認する。


「この木の裏に穴があるからそこに隠れよう。

 いいな。」


妹に言い聞かせ、振り向いた男の子の目の前に一人の黒ずくめの男が立っていた。

男の子は声にならない悲鳴を上げ、逃げようとするが、慌てているため足が絡まり上手くいかない。

そんな男の子のお腹を、黒ずくめの男が蹴り上げた。

男の子はマリの様に弾き飛ばされ地面に倒れた。


「お兄ちゃん!」


男の子は妹の叫ぶ声を遠くに聞いた様に感じた。

痛みで動けないでいると、何者かに吊り上げられるのを感じた。

目を開けると、先ほど一番手前にいた細い男だった。


「ガキが、手間かけさせやがって。」


そう言って男は手を離した。

当然の様に男の子は地面に落ちた。

しかし、身動きも出来ないほど男の子は参っていた。

遠くに妹の泣き叫ぶ声が聞こえるが体が重くなにも出来なかった。


「始末するか?」


女の子を抱えていた男が聞く。


「ほっとけ、もう虫の息だ。

 ガキに何が出来る。帰るぞ。」


その言葉を最後に、3人の気配が無くなったのを男の子は感じていた。

妹も連れて行かれてしまった様だ。


(俺、このまま死ぬのかな?)


 男の子は漠然とそんなことを考えていた。


(父さんごめん、おれ、カリン守れなかったよ。)


これを最後に男の子は気を失ってしまった。

男の子が次に目を覚ましたのはそれからどのくらい経ってからか。何者かに呼ばれる声に気付いてだった。


「・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「おい!」


うっすらと目を開けた男の子の視界に入ってきたのは、見たことのないひげ面の男の顔だった。


「良し生きてるな。

 待ってろ、すぐ手当てしてやる。」

そう言った男の顔は心からほっとした顔だった。

心から心配してくれる男の顔を見ていると、助かった安心感と、なにも出来なかった自分を恥じる気持ちとで涙があふれて止まらなかった。






   2496年8月3日

   前話最後の続きにて






「長かった、やっと見つけたよ、父さん。」


様子のおかしいマサムネをただ凝視するだけのカリンとオルヤードだった。

マサムネは、晴れ々々とした顔をカリンに向けた。


「カリン、俺だ、覚えてるか?

 兄ちゃんだよ。」


あまりな言葉に度肝を抜かれて、二人とも唖然とするばかりだった。

そして、カリンが何かを思い出す。


「マサムネ・・・お兄ちゃん。」


カリンの口からこぼれた言葉を聞いて、マサムネは笑顔になる。


「そうだよ。

 やっぱりカリンだったか。

 良く覚えてたな、あの時お前はまだ3っつだったのに。」


「生きてたんだ、死んじゃったかと思ってたのに。」


「死ぬわけないだろう。

 父さんと約束したんだ、カリンを守るってな。」


マサムネは手に握っていた剣を鞘に収め、背に背負った。


「大きくなったな、わかんなかったよ。

 当然か、もう17年も経つんだもんな。」


マサムネは無造作にカリンに近付きながら続けた。


「カリンはなんでこんな所に?」


「私、今ギルギットの魔道騎士団の総隊長をやってるの。」


「すごいな、カリンはあのころから力が使えたからな。」


「どうしてもっと早く来てくれなかったの?」


「ごめん、色々な国を渡り歩いて探してたんだ。」


「それで今はどこにいるの?」


「ネイピアさ、大国なら色々と情報が入ってくると思ってな。

 今回の任務引き受けて良かったよ、こうしてカリンに会えたからな。」


「そう、ネイピアから来たんだ。」


「今回の任務を最後に、次の国に・・・・・」


しかし、マサムネが最後まで言うことは出来なかった。

カリンがゆっくりと体の前で斜めに手を振ると、無造作に近付いていたマサムネの胸が斜めに裂け、血が吹き出した。

マサムネは無防備だったため、カリンの放った不可視の魔力の刃をよけることも防ぐことも出来ず、まともに食らってしまった。

マサムネは食らった攻撃の衝撃で吹き飛ばされ、建物の壁に激突した。

壁の一部が崩れ、マサムネの傍にも瓦礫が積み重なった。


「ごめんねお兄ちゃん、敵は一人残らず消すようにっていう命令なのよ。

 せめてネイピアじゃなかったら、命くらいは助けて上げられたんだけど。」


そう言うカリンの表情は何もなく、その心の中を読むことはまったくできない。

マサムネは血が噴出す胸の傷を押さえ、立ちあがろうとしたがかなわず、膝をついてカリンに向き直った。


「な・・・なんでだ、カリン。

 何が・・・・・」


カリンはマサムネの言葉を無視して己の手のひらをマサムネに向かって突き出した。

その手のひらに強烈な力が集中していくのが傍目にも分かった。


「さようなら、お兄ちゃん。」


そう言うカリンは、やはり無表情だった。

マサムネはなにも出来ず、ただカリンを見つめるばかりだった。



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