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Never Ever(本編)  作者: 一葉
第一話:ギルギット進軍
3/26

再会

   2496年8月3日

   前回に引き続き、プリアクレストにて






「俺を知っているとは、ただの兵隊じゃないな。」


ビスケットは自分を見つめる二人を順に眺め、何かに気付く。


「その姿・・・ギルギットの裏部隊B/Mか・・・・・」


ヒートは覚悟を決めたかのようにビスケットに向き直る。


「その通り。

 さすがはパブロダール四大魔法士の一人。

 我々の攻撃をこうも簡単にかわすとは。」


レジィは構え直すと、ヒートの言葉に相づちを打つ。


「私たちだけじゃきついかしら?

 でも、だからと言ってここで引き下がるわけには行かないのよ。」


その言葉を聞いてヒートは法銃をビスケットに向ける。


「四大魔法士の実力とくと見せて頂きましょうか、今後の為に。」


ビスケットは一つため息をつく。


「ただで返してくれるって雰囲気じゃないな。

 まとめて相手してやるよ、かかってきな。」

その言葉を受けて、ヒートとレジィは散会し見事なコンビネーションで攻撃を繰り出す。






   同刻

   プリアクレスト、B/M vs ビスケットの地点より離れた場所にて






鬱蒼と繁る木々の一つ、その上部の枝に立つ一つの人影があった。

その人物が眺めていると離れたところから爆煙が上がった。それだけではなく小刻みに小さな爆発が続く。


「別口か、恐らくパブロダールあたりかな・・・・・。」


その男は小さく口元をゆがめて笑う。


「せいぜい敵を引き付けておいてくれよ。」


そして、爆発のあったほうに一瞥をくれただけで、枝から飛び降りた。かなりの高さがあった筈なのに何の音も立てずに降り立つ。

その男は引き締まった体をした精悍な青年だった。しかし、その体つきよりも、瞳が印象的だ。

まるで刃物の様に研ぎ澄まされたひどく危険な瞳だった。




「黒の剣士」

この男はそう呼ばれる。

名は「マサムネ」、それしか分かってはいない。

それ以外は謎の、世界でも1,2番の実力を誇る傭兵だ。

様々な国を渡り歩き、たったの数年で世界No.1の傭兵「R」(アール)と名声を二分するまでになった。




マサムネは地面に降り立つと、悠然と建物のほうに近付いていった。

しかし、ビスケットのときとは違い、警報は鳴らなかった。


「やはりな、魔法戦のノイズで結界の精度が落ちている。」


それでも、マサムネは人影の無い場所を選んで奥へと進んでいった。

時折、研究員らしき人影や、兵士に出くわしたが、気配を殺してかわし、さらに奥へと進んでいった。

しかし、暫く進んでいくと、一際大きな振動が辺りを揺るがし、続いて爆音が響き渡った。

その振動で崩れかけていた建物が音を立てて崩れ、建物に隠れる様にして進んでいたマサムネを襲ってきた。

マサムネは瓦礫をかわして、地面を転がり、膝立ちの状態でその様を眺める。


「ふぅ、かなり脆くなってやがるな。」


そのままで、空へと立ち上る爆煙を眺める。


「相当でかい魔法だったな、向こうは決着がついたか?」


マサムネは立ち上がり振り返って中心部へ向かおうとした。

が、突然違和感を感じ、その場を飛びのく。

すると、さっきまでマサムネが立っていた場所に、刃渡りが30センチ程もあるナイフが突き立っていた。


「殺すつもりだったんだがな・・・良い勘をしている。」


そう言ってナイフの傍に現れたのはオルヤードだった。

オルヤードは地面に刺さったナイフを抜き右手に握った。

左手にもそっくりのナイフを握っている。

そして、両手のナイフを手の中でくるんと回して、逆手に握りなおした。

その姿を見て、マサムネも剣の柄に手をかけた。

オルヤードはそんなマサムネの動きが目に入っていないかのように先ほどの爆煙の方に目をやった。

爆煙にまぎれて良くは見えないが、微かな振動が感じられた。


「向こうはまだ続いとる様だな、早く行かんと。」


そう言うと、オルヤードはゆっくりとマサムネの方を向いた。


「行くぞ・・・」


オルヤードはつぶやくと、それまでの緩慢な動作が嘘の様に瞬時に間合いを詰め、ナイフを繰り出した。

マサムネはナイフを鞘で弾き、一気に剣を引き抜いた。

が、オルヤードはナイフで受け流す。

マサムネはさらに一歩踏み込み剣を振るった。

しかし、その時にはすでにオルヤードはマサムネの間合いの外に下がっていた。


「やるな。」


そう言うと同時にマサムネの剣が目に入る。

その剣を見て、オルヤードの眉が一瞬ぴくっと動いた。


「黒い刀身・・・そうか、貴様が噂の黒の剣士か。」


オルヤードのその言葉に、マサムネはまったく表情を動かさずに答えた。


「これから死ぬ奴に答えても仕様が無いだろう。」


オルヤードはその言葉を聞くと、少しコンパクトに構えた。

マサムネは悠然と構えもせずに立っている。

次の瞬間にはマサムネの姿がオルヤードの視界から消えていた。

オルヤードは本能の命ずるままに、瞬間的にバックステップを刻み下がっていた。

マサムネはオルヤードの視界の下を、低い姿勢で踏み込んでいた。手に握られた剣は右下段に構えられ、その間合いの中にオルヤードを捕らえていた。

マサムネの剣は容赦無くオルヤードに襲い掛かった。


「クッ・・・」


オルヤードは下がりながらかろうじて、左手のナイフで剣戟を受け流した。

しかし、マサムネは流れるように剣の流れる方向を変え、さらに一歩踏み込んで、次は上段から剣を振り下ろした。

オルヤードはナイフを頭上で交差させ、その一撃を受けた。

ギチッ・・・と鈍い音がする。

オルヤードは上からの衝撃を何とか横にそらし、後ろへ大きく飛び退きながら左手のナイフをマサムネに向かって投げた。

前へ踏み込みかけていたマサムネは虚をつかれ、その場でナイフを弾くにとどまる。

弾かれたナイフは、力なく地面へと転がった。その刀身は真ん中辺りで綺麗に折れていた。

オルヤードは左手を背後へやると新しいナイフを取り出した。しかし、そのナイフは先ほどのものと比べると少し小さく、なんとなく頼りないものだった。恐らく、予備のものなのだろう。

その姿を見てマサムネが一人語散る。


「往生際の悪い奴だ。」


そして、先ほどとは違う構えを取り、オルヤードに向かって静かに言った。


「死ね。」


その言葉を受けたかのように、マサムネの持つ剣の刀身にルーンが淡い光を放って浮き上がった。

すると、マサムネは大地を踏みしめ、その場でオルヤードに向かって剣を振った。

その動きはまるで何かの舞いのように優雅な動きだった。

マサムネの剣が描いた軌跡は黒い半月を描き、空中を滑る様にして飛んでいった。

これは「半月綸」、マサムネの技の一つである。

それを見たオルヤードは、すばやく両手のナイフを体の前で交差させ、短くルーンを唱えた。


”Delish”


交差させたナイフが光り、ナイフを中心とした半球状の結界が現れる。

その結界がマサムネの半月綸を防ぐ。

しかし、マサムネは休まず次々と半月綸を繰り出してきた。

2つ・・・3つ・・・

マサムネの半月輪を防ぐたびにオルヤードの結界は悲鳴を上げきしんだ。


(クッ、一本ではきつい・・・)


オルヤードは冷や汗を流しながら耐えた。

しかし、マサムネはそんなオルヤードの内心を知ってか知らずか、半月輪を放ち続けた。

4つ・・・5つ!

マサムネは5つ目の半月輪を放つと同時にオルヤードへ向かって間合いを詰めていった。

そして、6つ目の半月輪は飛ばすのではなく結界に直接叩きつけた。

オルヤードの結界はあっさり消滅し、同時に一本残ったナイフも砕け散った。

オルヤードは左手のナイフを至近距離からマサムネに投げる。が、柄で弾かれる。

マサムネはオルヤードの体勢が整わないうちに、一歩踏み出し右上段から黒刀を振るう。

オルヤードはその刃を直接左手で受けた。

普段、岩さえも両断するマサムネの剛剣は、しかし、オルヤードの腕を切り裂くことは出来なかった。

オルヤードはマサムネの剣を受けると、そのままマサムネの懐に入り込み、胸に右の拳を繰り出した。

ズ、ザサッッッ・・・・・

マサムネはパンチの衝撃で後ろへ吹っ飛ばされてしまう。

膝が落ちるが、マサムネは立ち続けた。


「クゥッ・・・やるな。

 だが、その左腕、いつまで持つかな?」


マサムネは唇の端から流れる血を袖でぬぐう。


「・・・・・・・・・・」


オルヤードは何も言わず構えた。

しかし、その構えは先ほどのものと違い、どことなく拳法っぽい構えだった。


「それでもやるか、いいだろう。」


刀を肩に担ぎ、前に踏み出そうとした。

ヒュオッ・・・

が、突然光弾が飛んできて、マサムネに迫る。

マサムネはとっさに刀でその光弾を受ける。

キュガッ!

物凄い衝撃がマサムネを襲う。

皮膚が焦げる臭い匂いがし、全身から煙が上がる。

鋭い痛みが全身に走るが、マサムネは構わず剣を振るった。

体にまとわり付いていた煙が四散し、視界が開ける。

光弾が飛んできたらしい方角を見ると、一人の女性が建物の上に立っていた。

カリンは、剥がれ落ちる瓦礫と共に降りてきた。


「しぶといわね。」


カリンはオルヤードの傍へと移動する。

マサムネを見据えたまま、オルヤードへ声をかける。


「下がっていなさい。」


カリンの言葉を受けてオルヤードは一歩後ろへ下がった。


「申し訳ございません、カリン様。」


その言葉を聞いたマサムネの動きが止まる。

まるで幽霊を見たかのように目を見開き呆然としている。

その様子を訝しく思いながらも、二人は油断なくマサムネを見つめた。

マサムネはカリンを見つめたまま呆然とつぶやいた。


「・・・・・カリン?・・・・・」


しかし、そのつぶやきは二人には届かなかった。



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