クーデター
2497年3月19日
フェンディル某所にて
澄みきった青空。
薄らと汗をかく陽気。
人々は真夏に戻ったような暑さの中を日陰で過ごしていた。
話題はもっぱら最近のギルギットとリーヴスの戦争の事ばかりだった。
そんな長閑な昼時・・・・・
ドンと言う鈍い音と共に煙が立ち上る。
人々はただならぬ様子に表へと飛び出し、煙の上がった方角を見やった。
ビスケットは煙の上がった方角に一瞬視線を走らせる。
泪を先に行かせた後は、BMの二人にのらりくらりと戦闘を長引かされてしまった。
ビスケットとしては泪を先行させ、用意の整った二人と合流したかったのだが、この分では既に大統領府を後にしているだろう。
「いい加減時間が無くなってきたな。
おまえらとこれ以上遊んでいるわけにはいかん。」
「そう言わず、もう少し相手してちょうだいよ。
そう時間はかからないはずだから。」
ほんの15分あまりの戦闘で既に全身を汗に濡らしたレジィが、荒い息の合間に応える。
が、ビスケットはレジィの言葉には応えず、ただ二人への警告を吐出した。
「死にたくなかったら耐えるんだな。」
同時にビスケットの周囲に数十個の光弾が浮かび上がる。
それまで連携して動いていたレジィとヒートはとっさに散開し、ビスケットから距離を開けた。
二人の足が地面につく前にビスケットから光弾が放たれた。
放たれた光弾は着地した2人を囲むようにその周囲に着弾し、自身の魔力によって複雑な魔力紋様を一瞬で描きあげる。
「!?しまっ・・・」
2人は最後まで声にすることもできずに魔法紋様が放った光の中に消えていった。
「ビスケット様・・・今のは一体?」
「転移魔法だよ。
時間がなかったから転送先の設定をしていないがな。」
振り返らずにビスケットが答える。
「え”・・・?えーと・・・つまりどこに行ったか分からないって事ですか?」
「そうなるな。
奴ら一筋縄じゃいかんからな。
殺そうにも殺しきれん。
これで消えてくれればいいんだが、そう上手くは行かんだろうな。」
「・・・たしかにしぶといですよね。」
そう言いながら、月佳は先ほどまでのレジィとの戦闘を想い返していた。
「今のうちに行くぞ。
向こうはもう脱出したはずだ。
合流しよう。」
「はい。」
2人は屋根を蹴ると、爆音が徐々に近付きつつある大統領府を避け、港方面へと向かった。
2497年3月19日
フェンディル、大統領府にて
第1発目の爆音が轟いた時、泪はまだ大統領執務室の中にいた。
持ち出さなければならない書類は意外に少なかったのだが、処分しなければならない書類がかなりの量あったためだ。
爆音が響いたのはジュリアが最後の書類をシュレッダーにかけた時だった。
「もう時間なの?意外に手間取っちゃったわね・・・」
「こうなると表から行くのは危険です。
窓から出ましょう。」
「そうね。
その方が良さそうね。」
女達の間で計画が着々と練られている間、ダージェスは居心地悪そうにお尻をもぞもぞさせながら椅子に座っていた。
「大統領こちらにお願いします。」
泪に促されて立ち上がったダージェスはバルコニーへと案内された。
暖かい風が頬を撫でて通り過ぎていく。
「あー・・・・・・・・・どうやってここから脱出するんだい?」
泪は困ったような顔をし、ジュリアはにっこりと笑っている。
あまりにも怪しげな雰囲気にダージェスもそれ以上言えなかった。
「さて、泪さんだったかしら?大統領を頼んだわね。」
そう言うと、ジュリアはひょいっと手摺を飛び越えて行った。
ちなみに、大統領執務室は高さ約30Mの位置にある。
ジュリアは低レベルながらも魔法士なのでこれくらいはこなせるが・・・
「えっと・・・もしかして俺も・・・なのかな?」
冷汗を流しながら泪に尋ねるが、泪は無言でダージェスを肩に担ぎ上げた。
「ちょちょちょちょっと待ってくれ!
これはいくらなんでも無茶じゃ・・・」
泪はダージェスの訴えを無視してバルコニーを飛び出した。
ほんの数秒で地上に降り立つ。
そこには先に降りたジュリアが待っていた。
「あら・・・騒ぐかと思ったけど、意外に静かだったわね。
見直したわよ、あなた。」
そう言ってジュリアは近付いてきたが、泪の肩の上で気絶しているダージェスを見て溜息を吐いた。
「ま、この方が静かで良いわね。
このまま移動しましょう。」
2+1人は近付く兵士達を避けながら無言で市内へと移動をして行った。
作戦が始まって間もなく市内全域に厳戒態勢が敷かれた。
市民は建物へと押し込められ、無断で出歩くものは何者であろうと拘束されていった。




