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2011年・2012年

廃園症候群

はらりひらりと舞う黒薔薇の一片。

古城の残骸。非整形式庭園。もう誰も住んじゃいない雨曝しの楽園。

すでに神すらも祀られていない。十字磔刑像も崩れ落ち、胸の翠玉も失った。

ここは永劫の時を漂う無情なる庭だ。決して桎梏の丘などではない。

縛られることは絶対にない。花車きゃしゃな自由を与えられる。幸福かどうかは知り得ない。

だからといって質素なのではない。幻想の虚飾、頽廃の雨。

子宮に似た廃園には無個性な過剰装飾がよく似合う。濫費蕩尽の果ての果て。

清冽な水路に水は流れていない。すべては無情なるまま。

今は亡き気障な王子にはゴブラン織りが似合い、

今は亡き畸形の王女にはビロード織りが美しい。

致死量へ至る植物毒で王族はすべて息絶えた。それもまた美しや。

鳥瞰するこの庭園の景色はまるで小宇宙のミニチュア如し。

ねえ、樹皮に刻まれた侵入者への怨み事はなんだろう。芳ばしい血は流れたのだろうか。

僕はこの美しすぎる滅亡劇を想像すればするほど惹かれていくのだ。没落に恋するのだ。

シロツメグサの乱舞。腐乱花の閉塞した残香。征服者なる茨。棘への痛々しい口づけ。

剥げ落ちた季節。零れ堕ちる誠の美意識。ロストガーデンに耽美の花がたわわに実る。

庭師の幽霊たちが今も涙を流しながら乱れた木々を剪定している。

蒼穹に漂う虚無主義だけが狂った夢を見、歪んだ恐怖に眠る。

舶来の礼服を着用してマスカレードを開催しようじゃないか。

ああ、廃園よ。いつまでも瘴気を纏い給え。死の破局を包み給え!

僕たちは根なし草を鄭重に葬ろうじゃないか。奈落に咲いた雑草を。

葡萄酒でも飲みながら、この安泰を高台から永遠に眺めよう。

荒廃したダンスホールで手を取り合って、腐った舞踏を賞翫しよう。

蓄音器から流れる嘆きのクラシックを、王族貴族の死霊とともに。

さあ、垣根に無造作に転がっている薄汚れた小さな如雨露に、みなでぬかずこうじゃないか!

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