6音目 生徒会長とお嬢様
火曜日
メタル部の部室には、いつもの轟音ではなく、嵐の前の静けさが流れていた。
「……あと一人、在校生のメンバーが必要なんだよな」
ユキの言葉に、ユウナが小さく頷く。
「レイラさん……もう一度、誘ってみませんか……?」
ユキ
「アイツ、腕は本物だ。でも……なんか抱えてる感じだったな」
琴音は不安そうに指を絡めた。
「わ、私……レイラさん、怖いですけど……でも……一緒にできたら……嬉しいです……」
「行ってみるか。」
ユキは百合を見つめる。
レイラの家は、学校から離れた高級住宅街にあった。
百合先生の計らいで住所を勝手にゲットしたのだ。
この先生は、おそらくコンプライアンスの欠片もないのだろう。
そびえ立つ白い門、手入れされた広い庭。
「お、お嬢様って……本当にお嬢様なんですね……」
ユウナの呟きに、凛も腕を組んで頷く。
「金持ちの家って、空気が違うな……」
ユキはインターホンを押した。
しばらくして現れたレイラは、制服姿ではあったが、いつもの気品を失っていた。
どこか疲弊し、影のある表情。
「……あなたたち、何の用ですの?」
ユキは真っ直ぐに言った。
「レイラ。もう一度、メタル部に来てくれ」
レイラは目を伏せ、力なく答えた。
「……無理ですわ」
ユウナが一歩前に出る。
「どうしてですか……? レイラさんのギター、すごく素敵なのに……!」
レイラは唇を強く噛んだ。
「……わたくしの家は……“音楽”を許してくれませんの」
「え……?」琴音が息を呑む中、レイラは震える声で続けた。
「父は……“音楽は遊びだ”と言いますの。“家の名に傷がつく”と……。ギターを弾くことすら、今は許されませんわ」
ユキは拳を握った。
「……そんなの、関係ねぇだろ」
レイラは激しく首を振った。
「あなたたちには分かりませんわ。わたくしは……“自由に音楽を選べる身分”ではありませんの」
その瞳には、強がりの奥に隠された本物の涙が光っていた。
その時、家の中から野太い怒鳴り声が響いた。
「レイラ! また外で無駄な時間を過ごしているのか!」
レイラの肩が目に見えて跳ねる。
父親の威圧的な影が、玄関の奥に見えた。
「……帰りなさい。あなたたちに迷惑はかけられませんわ」
閉ざされようとする扉を止め、ユキはレイラの腕を掴んだ。
「迷惑なんかじゃねぇ。お前のギターが必要なんだ」
レイラは震えながら、ついに魂を吐露した。
「……わたくし……本当は……音楽が……大好きですのに……!」
その瞬間、ユウナがレイラの手を強く握った。
「レイラさん……一緒にやりましょう! わたしたちと……!」
琴音も続く。「レイラさんのギター……すごく……すごく好きです……!」
凛は不敵に笑った。「親がなんだよ。音楽は……自分で選ぶもんだろ」
レイラの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……あなたたち……本当に……バカですわね……」
そして――。
「……でも……そんなバカが……わたくしは……大好きですわ……!」
レイラは涙を拭い、今日一番の笑顔で笑った。
「わたくし……メタル部に入りますわ!」
翌日
メタル部の部室には、ついに五人のメンバーと百合先生が揃った。
ユキが活動計画書を手に告げる。
「よし、これで――部員五人、顧問、活動計画。全部揃った」
ユウナが胸を張った。
「生徒会長に提出しましょう!」
五人は勢いよく生徒会室へ向かった。
生徒会室では、雫が冷徹に書類を整理していた。
ユキが計画書を差し出す。
「メタル部、継続の申請だ」
雫は無表情にそれを受け取り、淡々と目を通した。そして――静かに言った。
「……条件が満たされていません」
ユウナが叫ぶ。
「えっ!? 部員五人いますよ!」
雫は冷静に告げた。
「在校生五人、です。凛さんは……他校の生徒でしょう?」
凛が舌打ちをする。「チッ……」
琴音が青ざめる。
「ど、どうしよう……明日までなのに……!」
ユキは拳を握りしめた。「……クソ……!」
その時だった。
ポテチを食べていた百合先生が、不意に口を開いた。
「生徒会長」
雫が顔を上げると、百合は指を向けて断言した。
「お前、ベース弾けるだろ。お前がメタル部に入れ」
生徒会室の空気が、瞬時に凍りついた。
ユキたち五人は、同時に絶叫した。
「えええええええええええええええ!!?」
雫の眼鏡が、わずかに、けれど決定的に揺れた。




