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5音目 顧問の先生?


月曜日の昼休み。


春の柔らかな風が、校舎の中庭を通り抜けていた。


ユキ、ユウナ、琴音、3人は、ベンチに座って弁当を広げていた。

そこに学外者の凛も堂々と混ざっていた。

凛はユキの弁当の唐揚げを口に放り込みながら言った。


「で、顧問はどうすんだよ。いねぇと廃部なんだろ?」


ユウナは箸を止め、しょんぼりと肩を落とした。

「先生って、なんだか怖い人ばかりで……」


琴音はおずおずと手を挙げる。

「わ、私……保健の百合先生なら、優しいと思います……」


凛が鼻で笑った。

「優しいだけの先生が、メタル部なんかの顧問やるかよ」

ユキは腕を組み、空を見上げた。

「……でも、他に当てはない。行ってみるか」



保健室の扉を開けると、そこには異様な光景があった。


ベッドに寝転がり、漫画を読みながらポテチを食べている一人の女性。

黒髪を無造作に結び、白衣の下はラフなTシャツ姿。

目つきは鋭いが、全身からやる気のなさが漂っている。

百合先生。保健室の主であり、学校一“やる気のない先生”として有名な人物だ。

ユウナが恐る恐る声をかける。

「あ、あの……百合先生……」


百合は漫画から目を離さず、気だるげに言った。


「んー? 風邪? 腹痛? それとも人生相談?」


ユキが前に出る。「メタル部の顧問を――」


「やだ」


即答だった。


ユウナが慌てる。「ま、まだ何も言ってないのに……!」


百合はポテチをつまみながら淡々と言った。


「顧問って面倒なのよ。書類、会議、責任……全部イヤ」


「テメェ教師だろ……」

凛の呆れた声に、百合は彼女を指差した。


「その口の悪さ、嫌いじゃないけどね」


ユキは深く息を吸い、静かに、けれど逃さぬように言った。

「条件を出してくれ。それを満たせば顧問になってくれるか?」


百合は漫画を閉じ、ユキをじっと見た。


その目は、一瞬だけ、深淵を覗くように鋭く光った。


「……部室で昼寝していいなら」


ユキは即答した。「いい」


ユウナも琴音も凛も叫んだ。

「いいの!?」

「いいんですか!?」

「マジかよ!」



百合は伸びをしながら立ち上がった。

「じゃあ、今日から顧問ね。よろしくー」


あまりの軽さに、四人は言葉を失った。


その日の放課後。

メタル部の部室には、さらに見慣れない光景が広がっていた。

百合先生がゲーム機とお菓子を山ほど持ち込み、ソファで堂々と寝転がっていた。


「いやぁ〜ここ落ち着くわぁ……部室って最高ね……」


「ほんとに寝に来てんじゃねぇか……」


凛の言葉に、ユウナは苦笑いする。

「で、でも……顧問になってくれただけでも……!」


琴音はそわそわしながら尋ねた。


「せ、先生……わ、私たち……練習してもいいですか……?」


百合は適当に手を振る。「勝手にどうぞ〜。私は寝るから〜」


そう言って、彼女は毛布を頭から被った。


だが――。

毛布の下からわずかに覗く目は、鋭くメンバーの動きを追っていた。

今日もユキはベースを構え、凛はドラムに座り、ユウナはギターを調整し、琴音はマイクを握る。


「じゃあ、“Silent Eclipse”合わせるぞ」


ユキの声で、部室の空気が一気に引き締まる。

凛がスティックを構え、ユウナが深呼吸し、琴音が喉を整える。

ユキのカウント。

「ワン、ツー、スリー、フォー!」


轟音が部室を揺らした。

凛のドラムは暴風。ユウナのギターは稲妻。琴音の声は鋭い刃。そしてユキのベースは大地のように重く響く。

音が重なり、密閉された部室の空気が震える。

その瞬間――毛布の下の百合の目が、わずかに見開かれた。


(……この子たち……)


演奏が終わると、廊下にはいつの間にか軽音部の連中が集まっていた。


「な、なんだこの音……」

「レベル高すぎだろ……」


軽音部部長は顔を引きつらせ、嫉妬に声を震わせた。

「……ふざけんなよ……なんで……なんであいつらが……!」


ユキは冷めた目で扉を閉め、静かに言った。

「……見返してやる。絶対に」


ユウナは笑顔で頷き、凛はスティックを回して笑った。


そして、百合先生は毛布の中で、誰にも気づかれぬよう微笑んだ。

(……悪くないわね)


新しい波乱の音が近づいていた。

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