表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/40

39音目 ガールズバンド四天王


狂乱のチケット争奪戦


「四天王同窓会」の開催が各バンドの公式サイトで同時解禁された瞬間、インターネットは文字通り爆発した。


世界を股に掛けるJUPITERとFractal Lily、

ラウドロック界の頂点を走るMAD、

そして絶対王者のフィリア。

この4組が揃うというニュースは、日本のみならず世界中の音楽メディアを駆け巡り、SNSのトレンドは4バンドの名で埋め尽くされた。


しかし、発表と同時に世界中が絶望に叩き落とされる。

会場は、かつて彼女たちが産声を上げた聖地『STARS ROOM』。


キャパシティはわずか500人。


「正気か!? 50万人の間違いじゃないのか!?」


海外のファンが悲鳴を上げ、転売サイトでは早くも1枚10万円を超える価格が提示される異常事態となった。

テレビのワイドショーでも「キャパ問題」が特集され、当日の音漏れを期待する数千人のファンが近隣に押し寄せることへの懸念が連日報じられた。



この無謀な企画の裏には、一つの理由があった。

長年、数々の伝説を見守ってきた『STARS ROOM』が、建物の老朽化により移転・解体されることが決まっていたのだ。

今回のライブは、フィリアから聖地への最後のお礼参り――。


だが、それはあくまで綺麗な建前。彼女たちの真の目的は、この狭い箱に「最強」を閉じ込め、誰が真の頂点かを分からせる、剥き出しの大戦争であった。


喧騒を余所に、4バンドはそれぞれ「最強の8曲」を選定していた。


フィリア: 商業的なヒット曲をあえて削り、初期の攻撃的なナンバーを最新のトレンドでセルフカバー、王者としてのプライドを見せつけるセトリ。


MAD: ワーナーからリリースしたメジャー曲を軸に、一瞬たりとも観客に息をつかせない、フロアを破壊するためのノンストップ・ラウド・メドレー。


JUPITER: ワッケンを経てさらに深みを増した、地を這うような重低音と、レイの泣きのギターを限界まで引き出す「本物のハードロック」8選。


Fractal Lily: ユキが書き上げた、結成当時の青さと現在の超絶技巧を融合させた、最も「鋭利」で殺傷能力の高い鋼鉄のセットリスト。



前夜、聖地の「再会」



ライブ前日。当日の混乱を避けるため、リハーサルは異例の前日開催となった。


久々に足を踏み入れた地下室。カビとタバコとアンプの熱が混ざり合った、あの独特の匂い。


「あら、リリーの皆さん。随分と『世界』の香りがするようになったわね」


フィリアのアイリが、皮肉げながらもどこか懐かしそうな笑みを浮かべて現れる。


「そっちこそ。オリコンの常連さんは、こんな地下室の空気、身体に毒なんじゃないか?」


ユキが不敵に返し、スタジオは一瞬にして「同窓会」の和やかな、それでいてピリついた空気に包まれた。


成長した彼女たちは、かつてのような子供じみた罵り合いはしない。

しかし、リハーサルが始まった瞬間、その場にいた全員の目が変わった。


MADのユーカが叩き出す重戦車のようなドラムに、JUPITERのクレナイが鋭い視線を送る。

JUPITERのリハでは、リリーのユウナとレイラが、レイの指の動きを食い入るように見つめ、その「音の厚み」を脳に刻み込んでいた。


言葉は要らなかった。アンプから放たれる一音一音が、3年間の歩みを語っていた。


チェックを終えた彼女たちは、互いの仕上がりを認め合いながらも、明日のステージで相手を「処刑」するための牙を、静かに、そして深く研ぎ澄ませていた。


そして、運命の当日


4月1日。



桜が舞い散る渋谷の街に、世界中から集まった「選ばれし500人」と、チケットを持たぬ数千人の群衆が詰めかけた。





聖地、最後の幕が上がろうとしている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ