38音目 3年後の世界
ワッケンの大地を震撼させたあの衝撃から、三年の月日が流れた。
かつて日本中を熱狂させた「ガールズバンド四天王」という言葉は、今や音楽史の一頁として風化しつつある。
しかし、その熱量は形を変え、確実に今の音楽シーンの土壌となっていた。
絶対王者フィリアや、アゼリアが放った3バンドの人気は落ち着きを見せたものの、今なおリリースするたびにオリコンチャートへ顔を出す、安定した実力派として君臨し続けている。
一方、ストリートの猛獣だったMADは、ワーナーミュージック・ジャパンから衝撃のメジャーデビュー。
今や夏フェスの常連にして、日本のラウドロック界を象徴する「顔」へと登り詰めた。
そして、あの日世界に見つかったJUPITERとFractal Lily。
二つのバンドは海外の大手レコード会社と異例の直接契約を締結。
世界ツアーで地球を何周も巡り、今や国境を超えて熱狂を呼び起こす「世界のモンスター」へと成長を遂げていた。
都内某所。喧騒を離れた地下のバー。
カウンターには、かつて火花を散らしたインディーズ事務所の西野と神崎が、静かにグラスを傾けていた。
「……あの子たち、今度は北米ツアーだってな」
西野が少し寂しげに、しかし誇らしげに呟く。
「ああ。もう、私たちの手の届かないところまで行ってしまったわね」
神崎が琥珀色の液体を揺らしながら応える。
かつて、泥臭く、必死に、お互いを潰し合う勢いで競い合ったあの日々。
大人たちの策略や、少女たちの意地が激突したあの狂乱が、今の彼女たちの翼になった。
二人は、かつての「戦友」として、懐かしそうに目を細めて語り合った。
聖地からの招待状
場面は変わり、夕暮れ時のFractal Lilyのスタジオ。
楽器の手入れをしていたユキのスマートフォンが、けたたましく震えた。発信元はビクター。
「……はい、ユキです。……えっ、フィリアから?」
電話の内容は、あまりにも唐突で、そしてあまりにも熱い「お誘い」だった。
来春 4月1日。
『ガールズバンド四天王・同窓会』。
会場:STARS ROOM。
出演:
フィリア
JUPITER
MAD
Fractal Lily
この4バンドが同じステージに揃うのは、実はこれが初めてのことだった。
かつて「四天王」と呼ばれながらも、それぞれが別々の頂を目指した4組。
「同窓会」などという穏やかな名目ではあるが、全員が「自分が最強である」ことを証明しようとする、バチバチの戦闘モードでの異種格闘技戦になることは明白だった。
「……スターズルームだって?」
凛が呆れたように声を上げる。
「あそこ、聖地とは言え……ただの小箱だぜ?」
今や世界を飛び回るJUPITERとリリー。
巨大なスタジアムを埋め尽くすMAD。
チャートの常連であるフィリア。
この4バンドが揃って出演するなど、物理的にも、興行規模としても、およそ「現実的」ではない。
数万人規模の会場を即完させる怪物たちが、あえて、始まりの場所である「狭いライブハウス」に集結する。
かつて自分たちの伝説が産声を上げたあの暗い地下室で、再び何かが起きようとしていた。
かつてない激動の予感を孕みながら、物語は「約束の春」へと向かっていく。




