表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/40

33音目 黄金の包囲網


新学期の微熱と、静かな昼休み 


1月、冬休みが明け、新学期が始まった。


校舎の中庭にあるベンチでは、学外者の凛を除くメンバーたちが集まり、冬の柔らかな日差しの中で昼食を摂っていた。


「……ユウナ。その、卵焼き、食べるか?」

「……あっ、うん。ありがとう、ユキくん」


どこかよそよそしく、ぎこちない手つきで箸を動かす二人。

3日の初詣以来、二人の間には薄氷を踏むような、しかしどこか甘い空気が漂っている。


「あらあら。お二人さん、随分と『奥ゆかしい』距離感ですこと」


レイラが優雅に紅茶を啜りながら、扇子の陰でニヤニヤと笑みを浮かべる。


「本当ねぇ。青春してるわねぇ。先生、見てるだけで胸焼けしそうよ」


隣で学食のカレーを掻き込む百合先生の下世話な視線に、ユキは居心地悪そうに視線を泳がせた。

その時、ユキのポケットでスマートフォンが激しく震えた。マネージャーの神崎からだ。


「……はい、神崎さん。……えっ?」


電話越しの神崎の声は、かつてないほど切迫していた。


「ユキ、今すぐ音楽ニュースを見なさい。……やられたわ」


ユキが震える指でブラウザを開くと、そこにはスマートフォンの画面を焼き切らんばかりの派手な見出しが並んでいた。


『大ガールズバンド時代の到来! 大手アゼリア、3バンド同時インディーズ契約発表』


アゼリアのサキがついに動いたのだ。


SUGAR★RUSH、VIVID BEAT、PRISM☆DIVA。


かつて四天王候補としてリリーに煮湯を飲まされた3バンドが、アゼリアの巨大資本を背に、正式なインディーズ契約を締結。


「現在の四天王を全員引きずり下ろす。この三組こそが、次世代の真の覇者だ」


記事の末尾には、サキによる傲慢なまでの宣戦布告が堂々と記されていた。


「……何よ、このクオリティ」


雫が声を震わせる。

ニュースと同時に公開された3バンドのプロモーションビデオ(PV)は、インディーズの枠を完全に逸脱していた。


メジャー一線級のクリエイターを起用したハイクオリティな映像。洗練された新しいバンドロゴ。SNSを意識したキャッチーな仕掛け。


アゼリアは、資本の力で「人気を約束された未来」を強引に作り上げていた。


興奮冷めやらぬ翌日、アゼリアはさらなる爆弾を投下した。


2月、ガールズバンドの聖地にて開催される3バンド合同のスリーマン対バン企画。


タイトルは、『異種格闘技戦・大ガールズバンド時代!!』。


さらに同日、3バンド一斉のインディーズアルバム発売も告知された。


「……数時間で30万再生突破……?」


琴音が画面を見つめたまま呆然とする。PVの再生数は、リリーが地道に積み上げてきた数字を、数時間で軽々と抜き去っていた。

その期待値は、もはや絶対王者フィリアに次ぐ勢いへと膨れ上がっている。



都内のスタジオ。ニュース映像を睨みつけながら、MADのゼットが不敵に笑い、スティックを指先で回した。


「……面白ぇじゃねぇか。アゼリアの魔女が、本気でガールズバンド界を買い叩きに来たってわけだ」


「夏フェスの前に、片付けるべき敵が増えたわね」


ユーカやネオも、闘争本能を剥き出しにして楽器を構え直す。

ガールズバンドならではの華やかさと、ストリートの荒っぽさが混ざり合う熱い空気がスタジオを満たした。


一方、JUPITERのスタジオでも、冷徹なまでの闘志が静かに燃え上がっていた。


「……資本力でねじ伏せるのがサキのやり方。だが、最後に残るのは本物の『音』だけよ」


ジョーがベースの弦を叩き、レイがピックを握りしめる。


「受けて立つわよ、大ガールズバンド時代。……偽物の輝きを、私たちの歪みで焼き切ってあげる」


アゼリアが放った黄金の包囲網。


かつてない荒波が、リリーたちの「鋼鉄の航路」を飲み込もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ