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29音目 四天王ジュピター


12月の冷気と、熱を帯びた部室


校庭の木々はすっかり葉を落とし、吐く息が白く染まる季節。


しかし、メタル部の部室だけは、アンプから放たれる熱気と、五人が刻む執拗なリフによって夏の終わりのような湿度を保っていた。


「……ユウナ、そこ。三連符の頭をもう少し食い気味に」


「……うん。こう?」


「そう。雫、バスドラとの同期を意識して。……よし、通しでもう一回だ」


ユキの指示が飛ぶ。

変わらぬ放課後の光景。

だが、この日、彼女たちの預かり知らぬ場所で、日本の音楽シーンという名の巨大な水面に、巨大な岩が投げ込まれた。


激震のニュース

『ガールズバンド四天王・Fractal Lily、MM2とインディーズ契約締結』


SNSのタイムラインは、その一報で埋め尽くされた

メンバー全員が現役女子高生。

プロデューサーもまた男子高校生。

結成からわずか7ヶ月という異例のスピードで、彼女たちは「アマチュア」の皮を脱ぎ捨てた。


「時代遅れのヘヴィメタルが、この令和に逆襲を仕掛ける」


そのセンセーショナルな見出しは、瞬く間にトレンドを席巻し、純粋な音楽ファンから野次馬までを巻き込んでバズり続けた。


同じ頃、巨大な商業主義の頂点に立つ**『フィリア』**の楽屋。


メジャー1stアルバムが50万枚という驚異的なセールスを記録し、祝杯ムードに沸くスタッフを余所に、アイリは鏡越しにスマホの画面を睨んでいた。


「……インディーズ? ふん、せいぜい地下のネズミ同士で傷を舐め合ってればいいわ。私の視界に入るまで、あと何年かかるかしらね」


一方、MADも負けてはいなかった。

来年夏の大型ロックフェスへの出演が次々と内定。

本格的なガールズミクスチャーの誕生として、音楽雑誌の表紙を飾り始めていた。


今、日本のガールズバンド界隈は、かつてない躍進の時を迎えようとしていた。


一方

アゼリアのオフィス。


窓の外に広がる冬の東京を眺めながら、サキは深くため息をつき、手元のスマホをデスクに放り出した。


「……サキさん。結局、Fractal LilyはMM2に持っていかれましたね」


深刻な顔で報告する部下に、サキは冷徹な笑みを浮かべた。

その瞳の奥にある炎は、消えるどころか、より一層禍々しく燃え上がっている。


「いいわ。あの子たちがその道を選んだのなら、こちらも相応の『地獄』を用意してあげなくては」


サキはデスクに並んだ三つの資料――『SUGAR★RUSH』『VIVID BEAT』『PRISM☆DIVA』を指先で叩いた。


「四天王候補のこの三組、すべてアゼリアで引き受けるわ。私が直々にプロデュースし、ガールズバンドの大戦争を仕掛ける。……四天王という既得権益を、根底からひっくり返す構図をあの子たちに見せつけてやりましょう」



同じ頃、硬派なハードロックを追求し続ける**『JUPITER』のスタジオ。


静寂の中、ジョーのベースが重厚なリフを刻んでいた。

そこへ、マネージャーの西野**が血相を変えて飛び込んできた。


「ニュースは見ましたね!? 業界全体がリリーとMADに沸いています。……ですが、我が社も黙ってはいません」


西野が広げた企画書には、挑戦的な文字が躍っていた。


『JUPITER vs Fractal Lily ― Pure Steel Night ―』

「事務所の予算をフル投入して、一夜限りのツーマンライブを企画しました。場所は聖地『STARS ROOM』。時代に取り残されたと揶揄される『純粋なメタル』と『純粋なハードロック』……。どちらが真の鋼鉄か、白黒つけてもらいます」


「……純粋なハードロック、ね」


レイが愛機を抱え直し、不敵に口角を上げた。


「いいわ。リリーの小娘たちに、大人の、本物の『骨の軋む音』を教えてあげる」


クレナイ、ジョー、アキラもまた、冷静ながらも内に秘めた闘志を燃やし、楽器を構えた。


新星の台頭、大人の策略、そして意地と矜持の激突。



12月の凍てつく空気を切り裂くように、新たな戦いの火蓋が切って落とされた。

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