表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/40

27音目 2人の魔女


聖地・SLASHの熱狂


11月頭。ツアーの最終地点、東京・渋谷『SLASH』。


「お帰り、リリー!」「待ってたぞ!」


フロアを埋め尽くす常連たちの怒号に近い歓声。

1ヶ月の遠征を経て戻ってきた彼女たちを待っていたのは、以前よりも数段ギアの上がった「戦場」だった。


照明の下、見慣れた鉄錆の匂いとコンクリートの壁が、彼女たちの帰還を祝福するように激しく振動している。



トリ前。

Fractal Lilyの演奏が始まった。

1曲目から、ユウナとレイラのアンサンブルはツアーで鍛え上げられた「殺意」を帯び、琴音のハスキーシャウトは天井を突き抜けて渋谷の夜空へと消えていく。


その喧騒の最中、フロアの最後方。


逆光の中に、場違いなほど洗練されたスーツ姿の女性が立っていた。


アゼリアのサキだ。彼女は微動だにせず、腕を組んだまま、ステージ上の5人を――特にその中心で吠える琴音を、冷徹な捕食者の目で見つめていた。


さらに、関係者席の暗がりには、別の影。


「……ふーん。少しは見られるようになったじゃない」


フィリアのアイリが、退屈そうに爪を弄りながら呟く。

しかし、その隣でギタリストのカノンは、一言も発さずユウナの運指を凝視していた。


彼女たちの「完璧な王国」を脅かす不純物。

アイドルの皮を被った選民思想の塊であるフィリアにとって、この泥臭いメタルは、最も排除すべき「ノイズ」だった。


狂乱のトリ、MADの制圧


「……よし、お前ら。SLASHのトドメ、刺しに行くぞ」


ゼットの低い声と共に、トリのMADがステージを爆砕した。


重低音の壁。

ジンの5弦ベースがフロアの肺を圧迫し、ネオのノイズが理性を焼き切る。


「飛べッ!!!」


ゼットの咆哮に応え、観客たちが次々とダイブを敢行する。

モッシュピットは巨大な渦となり、SLASHは文字通り、制御不能な熱狂の坩堝と化した。


楽屋の宣戦布告

完璧なライブが終わり、心地よい疲労感に包まれる楽屋。


そこに、ガムを噛みながら神崎が歩み寄った。


彼女はいつになく真剣な表情で、ユキの前に立った。


「……ユキ。そしてリリーの全員。改めて、ウチ(MM2)と正式にインディーズ契約を結ばない? あんたたちの『熱』は、ウチが世界に証明してやるわ」


熱い勧誘。


メンバーたちが顔を見合わせたその時、楽屋のドアが音もなく開いた。


「――話の途中に失礼。低俗な『熱量』だけで、この子たちの才能を浪費させるのはお門違いだわ」


現れたのは、サキだった。

彼女は神崎を無視し、ユキの目の前に一枚の名刺を差し出した。


「アゼリアのサキよ。うちと契約しなさい。宣伝費、メディア展開、箱の押さえ方……。弱小のMM2とは比較にならないステージを用意してあげるわ」


「……サキ。あんた、どの面下げて出てきてんのよ」


神崎がガムを吐き捨て、サキを睨みつける。


「あら、ビジネスに感情は不要よ。神崎さん」


二人の女マネージャーの間に、激しい火花が散る。


その異常な緊張感に、ユウナや琴音たちは驚きで身体を震わせ、立ち尽くすことしかできなかった。


しかし、差し出された白銀の名刺を手に取ったユキだけは、別の場所に目を向けていた。


「アゼリア……」


ユキの指が、名刺に刻まれたロゴの上で止まる。


「……かつて、**『フラクタルクイーン』**を抱えていた事務所か……」



宿命の歯車が、最悪の形で噛み合い始めた。

灼熱の冬の音がバラバラと音をたて近づいてきている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ