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24音目 対バンツアー


9月に入り、まだ残暑が残る中

Fractal Lilyの活動は劇的に加速していた。


ホームグラウンドの『SLASH』と、聖地『STARS ROOM』を往復し、研ぎ澄まされた重低音でフロアを焼き尽くす日々。


ある日の『STARS ROOM』。

ライブを終え、熱気が引かない楽屋には、既に出番を終えたMADのメンバーたちが我が物顔でソファを占拠していた。

そこへ、クチャクチャとガムを噛みながら、不敵な笑みを浮かべる女性が迷いなく踏み込んできた。


MM2のマネージャー、神崎だ。


「よぉ、最高のステージだったぜ」


神崎はポケットから一枚のカードを取り出し、ユキの目の前に差し出した。


「MM2の神崎だ。……さて、本題に入ろうか」


差し出された名刺には、尖ったロゴとともに『Senior Manager』の文字。

彼女はオーバーサイズのMA-1を脱ぎ捨てると、一枚の資料をテーブルに叩きつけた。


「MADとFractal Lily。この二枚看板で地方のライブハウス6箇所を回るブッキングツアーを提案する。……名付けて『ストリート・イグニッション』だ」


破格の条件

「……ツアー? でも、うちらにはそんな資金も車も……」


凛が困惑して問いかけると、神崎は楽しげに鼻を鳴らした。


「費用、機材車、宿泊先。全部ウチの事務所が持つ。お前らは楽器を持って乗り込むだけでいい」


「なっ……事務所に所属もしていない俺たちに、そんな経費を使えるんですか!?」


ユキが驚愕の声を上げる。

プロデューサーとして、その条件の異常さに即座に反応した。


「所長は既に承認済みだ。今の『Fractal Lily』という看板には、それだけの投資価値があるってことだよ。……どうだ、ゼット。あんたたちも異論ねぇだろ?」


ソファでふんぞり返っていたゼットがニヤリと笑う。


「面白そうじゃねぇか。こいつらを地方のドサ回りでコテンパンに叩き直してやるよ」


話し合いの末、2バンドによる武者修行ツアーが決定した。既存のブッキング枠にこの「四天王2組」をねじ込むという、強引かつ刺激的なツアーが幕を開ける。




場面は変わり、都内の高級スタジオ。


四天王の一角、JUPITERのメンバーたちは、重苦しい沈黙の中にいた。


「……フィリアのZepp公演、チケットは完売らしいわね」


リーダーのクレナイが、タブレットに映るニュースを忌々しげに見つめる。


アイドル的な人気で独走するフィリア。

そして、ストリートの熱狂を味方につけたMADとFractal Lily。硬派なハードロックを貫く自分たちが、この時代の奔流の中で「古臭いもの」として置き去りにされるのではないか――。

大人女子たちの冷静な仮面の下で、焦燥が毒のように回っていた。


そこへ、所属事務所『キュア』のマネージャー、西野が数着の派手な衣装を抱えて入ってきた。


「フィリアに対抗するには、視覚的なインパクトが必要です。これ、次回のライブ用の揃いの衣装です。今流行りの『地雷系パンク』を取り入れた、可愛いデザインにしました」


提案されたのは、彼女たちの重厚な音楽性とは真逆の、装飾過多で甘い衣装だった。


「……ふざけないで」


ギタリストのレイが、鋭い視線で西野を射抜く。


「私たちは純粋にハードロックの力だけで、この椅子を守ってきた。こんな布切れで媚びを売るくらいなら、四天王なんて返上してやるわ」


「でも、今の数字じゃフィリアには勝てないんですよ!」


西野の叫びと、メンバーの反発。


王座を守るための「変節」か、滅びを覚悟した「矜持」か。


大人たちの戦略と、表現者としてのプライド。



混沌とした欲望の渦が、華やかなガールズバンド界の裏側で、激しく火花を散らし始めていた。

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