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23音目 大人たちの喧騒


聖地明けの中庭


陽光が照りつける校舎の中庭。

いつもと変わらぬ蝉時雨の中、ユキとメンバーたちは、自分たちを取り巻く空気の劇的な変化に戸惑っていた。


「……見てください。公式動画の再生数、10万を超えてますわ」


レイラがスマホを掲げる。

昨夜の決定戦、血を流しながら吼えた琴音の姿と、地響きのような重低音を収めた動画がSNSで爆発的に拡散されていた。


「無名のJKバンド、四天王入り」

「メタルの逆襲」──。


昨日まで「数合わせ」と揶揄されていた彼女たちは、一夜にしてアマチュア音楽シーンの寵児へと躍り出ていた。


「ユキ先輩、すごいね……。私たち、本当に四天王になったんだ」


ユウナが、少しだけ震える指でユキのシャツの袖を掴んだ。


「ああ。だが、ここからが本当の地獄だぞ。……って、ユウナ、顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」


無自覚に顔を近づけるユキに、ユウナは耳まで真っ赤にして「な、なんでもないです!」と慌てて手を離す。


「おやおや。昨夜の激しいライブよりも、こちらの『セッション』の方が熱いようですわね?」


レイラの意地悪な冷やかしに、ユウナは「レイラさん、もう!」と膨れ面を見せた。


四天王の「現在地」


一方で、既存の四天王たちは、それぞれのスタイルでこの新星を観測していた。


● フィリア(Zepp控え室)


「ねえ、見た? この動画。メイク崩れすぎじゃない?」


メジャーデビュー目前、Zepp公演を控えたアイリが、鏡の前でリップを塗りながら鼻で笑う。


「でも、この再生数は本物よ。話題性は十分ね」


メンバーたちがキャピキャピと騒ぎながらも、自分の地位を脅かすかもしれない「何か」を冷徹に見定めていた。


● MAD(練習スタジオ)


「ハッ、10万再生? ぬりぃな。ウチらが次の対バンで、その10倍の『熱』を叩き込んでやるよ」


ゼットは汗を拭いながら、さらに凶悪なリフを要求する。

新しいライバルの出現は、彼女たちの闘争心に火をつける最高のリキッドとなっていた。



● JUPITER(都内バー)


「……技術はまだ粗い。でも、あのフロントマン(琴音)の『圧』は、かつての誰かを彷彿とさせるわね」


リーダーのクレナイが、グラスを傾けながらクールに分析する。大人女子の余裕と、確かな審美眼。彼女たちは新星を歓迎しつつも、その実力の底を冷静に見極めていた。


敗者たちの再起

決定戦で敗れた『SUGAR★RUSH』、『VIVID BEAT』、『PRISM☆DIVA』もまた、死んではいなかった。


「四天王の座は譲ったけど、インディーズ契約は私たちが先よ」

「メジャーに行くのは、最後に笑っているバンドだ」


屈辱をバネに、彼女たちはそれぞれの背後にある資本やコネクションをフル活用し、次なるステップへの準備を加速させていた。


蠢くスカウトたちの影


都心の一等地。MADが所属する新進気鋭のインディーズレーベル『MM2』のオフィスでは、敏腕マネージャーの神崎が、所長に一枚の資料を叩きつけていた。


「所長、Fractal Lilyです。この鮮度は今しかありません。MADのバーターとしてでも、今のうちに囲い込むべきです」


同時刻。かつて伝説の『フラクタルクイーン』を抱えていた業界最大手『アゼリア』のオフィス。


重鎮マネージャーのサキは、窓の外を眺めながら静かに呟いた。


「……あの子たちには、あの『クイーン』の影を感じる。今の時代に、あんな剥き出しの音を出す子がまだいたなんてね」


大人たちの計算と、少女たちの純粋な熱情。



運命の歯車は、本人たちの預かり知らぬところで、巨大なビジネスの渦へと巻き込まれようとしていた。

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