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20音目 決戦前夜


『STARS ROOM』の王座を巡る戦いを前に、四天王候補の3バンドは、それぞれ異なる殺気を放っていた。



● SUGAR★RUSH

「ねえ、明日、誰を一番最初に『壊そうか』?」

モモが飴を転がしながら、ステージ衣装のフリルをなでる。可愛らしいポップスの裏側に、聴く者の精神を侵食するような毒を仕込み、彼女たちは「中毒死」させる準備を整えていた。


● VIVID BEAT

青いディスプレイの光に照らされたルイは、無機質な表情で多弦ギターの調整を終える。「感情は不要。完璧な同期シンクロこそが、観客の脳を支配する最短距離だ」

彼らは一ミリの狂いもない演算によって、フロアを冷徹な熱狂へと叩き込もうとしていた。


● PRISM☆DIVA

「おい、明日は全部ぶっ壊すぞ。綺麗に弾こうなんて思うな!」


ランの咆哮が狭い練習スタジオに響く。技術も理論も踏みにじり、ただ剥き出しの「衝動」だけで聖地を焼き尽くす。

彼女たちの瞳には、四天王への渇望だけが宿っていた。



一方、前評判は残酷だった。SNSの期待値ランキング、7バンド中、最下位。


「Fractal Lily? 誰だよ」「どうせ数合わせのJKだろ」


そんな冷ややかな書き込みを、ユキは無言で画面を閉じることで受け流した。


メタル部の「秘密兵器」

部室では、最後の詰めが行われていた。今回のセットリストは5曲。


「……勝負に出るぞ。最初の2曲は、あのディズニーのメタルアレンジを解禁する」


ユキの言葉に、メンバーの顔が引き締まる。

メタルのアウェイ感を払拭するため、誰もが知るキャッチーな旋律を、暴力的な重低音でコーティングして観客の心を強制的に掴む作戦だ。


そして残りの3曲は、地獄の特訓で作り上げた全曲新曲。


ゴリゴリの重戦車のようなリフ、一瞬の隙もない速弾き、そして何より「観客が体を揺らさずにはいられない」フックの効いた展開。


「……っ、このソロ、速すぎて指が千切れそうですわ!」


あの自信家のレイラでさえ、歯を食いしばってホライゾンのネックを叩く。

琴音は鏡の前で、喉が潰れるほどの勢いで「拳を上げろ!」と煽りの練習を繰り返していた。


束の間の甘い時間


「ユキ先輩……。明日、私、精一杯頑張りますから。終わったら……褒めてくれますか?」


休憩中、ユウナが上目遣いでユキの袖を控えめに引いた。

火照った頬と、期待に満ちた潤んだ瞳。ユキがドギマギしながら「ああ、もちろん……最高のステージにしよう」と答えると、ユウナは花が咲いたような笑顔を見せた。


「おーい、そこ! 砂糖吐きそうな空気作るんじゃねぇよ。本番前に集中力が削がれるだろ?」


凛がニヤニヤしながら二人を冷やかし、部室に束の間の笑いが漏れる。


その足元では、百合先生が


「……んふふ……高級ステーキ……経費……落ちた……」と、


欲望に忠実すぎる寝言を漏らし、緊張感を絶妙に削いでいた。


だが、その和やかな空気を、廊下の暗がりに潜む濁った視線が汚していた。


軽音部部長。彼は何やらスマホを操作しながら、不気味な笑みを浮かべていた。


「……明日、お前たちの『完璧なステージ』がどうなるか、楽しみにしてろよ……」


その指先が、何か不穏な仕掛けを完了させたかのように動いた。



四天王の眼差し


決戦当日。

四天王筆頭の『フィリア』は、同日に別会場でのワンマンライブを控えており、余裕の不参戦を決めていた。

しかし、ライブハウスの最後方、VIP席には大物たちの影があった。


「……あのリリーとかいうガキ共、どこまで化けるか見届けさせてもらうぜ」


MADのゼットが、重厚な低音の笑い声を漏らす。

その隣には、JUPITERのギタリスト・レイもいた。


「……あのギタリストの娘、いい眼をしてた。ただのコピーで終わるか、本物の『王』になるか。見せてもらうわ」


一枠の椅子を懸けた、残酷で美しい戦争。


客電が落ち、暗転した『STARS ROOM』に、地響きのようなSEが流れ始める。



Fractal Lilyの、運命のステージが幕を開けた。

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