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19音目 選ばれし7つの椅子


猛暑の学校。


暴力的な日差しが校庭のアスファルトを焼き、陽炎を揺らしている。


メタル部の部室では、冷房の効きを遮断するかのような凄まじい熱量が渦巻いていた。

新曲の精度を上げるための猛練習。

ユウナの指先は弦との摩擦で赤く腫れ、凛のドラムは空気を物理的に圧縮するような重圧を放っている。


「……休憩」


ユキの声で、5人は泥のようにその場に崩れ落ちた。

ソファでは、百合先生がいつものようにジャージの背中を丸め、微動だにせず爆睡している。


沈黙を破ったのは、スマホをチェックしていた凛の鋭い声だった。


「……ゼットからだ。次のイベント、詳細が決まったらしい」


狂乱の招待状


凛が画面を読み上げる。


「『ガールズバンド四天王決定戦』。キラーの解散で空いた最後の一枠を埋めるための直接対決だ。出演は全部で7バンド。……うち6バンドは既に決定済み。案の定、四天王候補の3バンド──『SUGAR★RUSH』、『VIVID BEAT』、『PRISM☆DIVA』は確定。あとの3バンドは適当な数合わせだ。……そして、残り一枠」


凛が顔を上げ、メンバーを一人ずつ射抜くように見つめる。


「ウチらがやる気なら、明日までに返信しろ。オーナーに推薦してやる、だとさ」


勝敗は、ライブハウス関係者と観客による投票制。

基本は一人一票だが、なぜかSTARS ROOMのオーナーだけが「30票」という、勝敗を根底から覆しかねない圧倒的な議決権を握っている。


「……出るに決まってますわ。あの日味わった屈辱、このままでは終わらせられませんもの」


レイラが不敵に微笑む。ユウナ、雫、琴音も、力強く頷いた。


「……返信しとけ、凛。俺たちの居場所を、力ずくで奪いに行くぞ」


ユキの言葉と共に、5人の「YES」が即答でゼットへと送られた。


渦巻く嫉妬と期待


翌週、SNSと音楽ニュースはその話題で持ちきりとなった。

キラーという伝説の解散から空席となっていた四天王の座。

既存の四天王3バンドも注目するこの巨大イベントに、突如として並んだ「Fractal Lily」という聞き馴染みのない名前。


「……何でだ。何で、あいつらばっかり……!」


軽音部の部室で、部長はスマホの画面を割りかねない勢いで握りしめていた。

自分たちが校内の小さなステージでくすぶっている間に、あいつらは「聖地」のメインイベントに招待されている。その絶望的な差が、彼の心をどす黒い嫉妬で塗りつぶしていく。



一方で、ライブハウス『SLASH』は祝祭のような騒ぎになっていた。


「おい、見たか! リリーがあの決定戦にぶっ込まれたぞ!」

「あいつらならやってくれる。当日は全員で応援に行くぞ、野郎ども!」


「クラッシュ」のメンバーを筆頭に、メタラーたちが一致団結して彼女たちの背中を押そうと動いていた

嵐の前の静寂


メンバーたちが帰宅し、静まり返った夕暮れの部室。

ソファから起き上がった百合先生は、一人、窓の外の赤く染まった校庭を眺めていた。

その瞳には、いつもの昼行灯な面影はない。机の上に置かれた『四天王決定戦』の資料を見つめ、彼女は懐から取り出した一本の古いピックを愛おしそうに撫でる。

彼女が何を思い、何を成そうとしているのか──その背中は、過去と未来を繋ぐ巨大な影のように壁に映し出されていた。


同時刻、豪華な楽屋。


メジャーデビューを控え、今や四天王の筆頭として君臨する『フィリア』のアイリは、鏡越しに決定戦のリストを一瞥した。


「……フラクタルリリー? ふふ、せいぜい頑張ればいいんじゃない? 綺麗な思い出作りくらいにはなるでしょうし」


絶対的な強者の余裕。


アイリの唇に浮かんだ残酷なまでの微笑みは、これから始まる「戦争」が、彼女たちにとっての単なる通過点に過ぎないことを物語っていた。



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