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13音目 ライブハウスへ


夏本番。


メタル部の部室には、以前にも増して重苦しく、鋭い音が充満していた。


ユキは五線譜と睨み合い、狂ったようにペンを走らせる。


「……ここは4分の7拍子から、一気に4分の4の倍テンに繋ぐ。音楽祭の時みたいな『聴きやすさ』はいらない。SLASHに来るマニアック連中の鼓膜を、変則リズムでねじ切るんだ」


ユウナが新しいフレーズに指を踊らせる。


「ユキ先輩、ここのソロ……すごく難しいですけど、燃えます……!」


「ああ。レイラとの掛け合いは倍に延ばした。お前たちのエゴを全部ぶつけろ」


レイラは不敵に微笑み、ホライゾンのネックを撫でる。

「わたくしの速弾きに、ついてこられますこと?」


凛はドラムセットの要塞でスティックを回し、雫は黙々と、心臓を抉るような重低音の運指を繰り返す。琴音はハスキーな声からの高音シャウトを研ぎ澄ますように、喉を震わせていた。

その傍ら、百合先生はソファで毛布に包まり、微動だにせず眠り続けている。

部室を揺らす轟音も、彼女にとっては最高の子守唄に過ぎないようだった。



決戦の地、SLASH

2週間後。リハを終えたFractal Lilyはついにライブハウス「SLASHスラッシュ」のステージ裏に立っていた。


フロアには、革ジャンに身を包んだ屈強な男たちや、目の肥えたメタルマニアたちがひしめき合っている。


「おい、次は女子高生だってよ。学祭の延長か?」


「SLASHも落ちたもんだな。あんなガキに何ができるんだ」


客席からは隠そうともしない嘲笑と、冷ややかな視線が突き刺さる。


対バンの演奏は熾烈を極めた。


一組目のデス・スラッシュバンドが、地獄の底から響くような咆哮でフロアを煽り、二組目のメロスピ・メタルバンドが、狂気じみた変拍子で観客を圧倒していく。


「……レベルが、学校とは違いすぎる」


琴音が小さく震えた。


しかし、ユキがその背中を叩く。


「気にするな。お前たちの音は、こいつらより尖ってる」


覚醒の旋律


トリ前。アナウンスと共に5人がステージに上がると、フロアからは「帰れ」と言わんばかりの冷笑が漏れた。

だが、凛のカウントが響いた瞬間、空気が凍りついた。

一曲目から、ユキが仕込んだ難解な変拍子の嵐。


「……なんだ、このリズム!? 合わせられねぇ!」


最前列のベテラン客が目を見開いた。

ユウナとレイラのギターソロが、互いの限界を超えるように火花を散らす。2分を超えて続く長尺の掛け合い。


それはもはや演奏ではなく、音による「殺し合い」だった。

嘲笑していた観客たちが、一人、また一人と拳を突き上げ始める。

袖で見ていた「クラッシュ」のメンバーも、言葉を失っていた。

長髪のスラッシャーが、ポツリと漏らす。


「……女子高生だなんて、誰が言った。あいつら、紛れもなく『メタル』じゃねぇか」


最後の一音が消えた時、SLASHには音楽祭の時以上の、地鳴りのような咆哮が響き渡った。


認めた証

トリを務めた「クラッシュ」の演奏もまた、圧巻だった。

熟練のテクニックと暴力的な音圧で、Fractal Lilyが沸かせた熱をさらに上の次元へと引き上げていく。

5人は袖で、その「本物」の音をその目に焼き付けていた。

終演後。汗だくのメンバーたちの前に、SLASHの店長が歩み寄ってきた。


「……認めざるを得ねえな。お前ら、今日からSLASHの正式な出演バンドだ。次の対バンにも呼ぶ。……クラッシュ、お前らも異論ねぇだろ?」


クラッシュのリーダーが、ユキに向かって手を差し出した。


「……悪かったな。お前らの音、魂に響いたぜ。次もステージで勝負だ」


ユキはその手を力強く握り返した。戦場での、初めての「戦友」ができた瞬間だった。


顧問の嘆き

帰り道。興奮冷めやらぬ5人の後ろで、百合先生が財布の中身を覗き込み、深く、深い溜息をついた。

今日の出演費用は結局、彼女が自腹を切ってしまったのだ。

ライブ出演にかかるチケットノルマ、機材の搬入費、メンテナンス代……。


「……あーあ。なんとかして部費を校長からたんまり貰わないとなあ……なんとか騙せねーかなあ……」



夜道に響く先生の悲痛な、それでいて不穏な呻き声。


それを聞き流しながら、Fractal Lilyの物語は、次のライブ、そして「スターズルーム」の四天王候補たちが待つ舞台へと、加速していく。



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