表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/40

12音目 四天王候補


音楽祭の翌朝。


登校したユキたちの耳に飛び込んできたのは、自分たちのバンド名を呼ぶ無数の熱狂だった。


「昨日のライブ見た!? Fractal Lily、マジでやばかったよな!」

「琴音ちゃんの歌、最後の方とか鳥肌立ちっぱなしだったわ」

「ユウナちゃんのギター、あれもうプロだろ……」

「生徒会長があんなにベース弾けるとか、反則すぎて惚れるわ」



「ひ、ひぃ……! み、見られてます……四方八方から見られてます……!」


ユウナが顔を真っ赤にして縮こまれば、


琴音も「わ、わたしも……もう無理です……!」と震えている。

一方でレイラは「当然の結果ですわね」と優雅に髪をかき上げ、

雫は「……落ち着いて。今日からは普通の学校生活よ」と冷静に嗜めた。


廊下であくびをしていた百合先生が、通りすがりに気だるげに告げる。


「はいはい、スター気取りはほどほどにね~。私は保健室で寝るから」


「先生」


呼び止めるユキの視線は、浮き足立つ周囲とは対照的に、冷たく、先を見据えていた。



夕方


「……みんな。昨日のライブで少しは名前が売れたけど、このままじゃ何も変わらない」


放課後の部室。ユキが切り出した言葉に、ユウナが「えっ……?」と首を傾げる。


「俺たちが本気でバンドをやるなら――“現場”に行くしかない」


「現場って……ライブハウスか?」


凛の問いに、ユキは短く頷いた。


「そうだ。メタルの聖地じゃない。メタルの戦場――『SLASHスラッシュ』に売り込みに行く」


「スラッシュ……? あの、いかにも汗臭そうな場所ですの?」


レイラが眉をひそめれば、

凛が「お前、あそこをただのライブハウスだと思ってんのか。ガチのメタルバンドしかステージに立てねぇ、地獄みたいな場所だぞ」と凄んだ。


「……でも、必要なことだと思う」


と雫が同意し、


琴音は「ひぃ……! こ、怖いです……!」と半泣きになる。

「怖いなら、強くなればいい。俺たちは“音”で勝負するんだ」

ソファで寝転んでいた百合先生が、天井を見つめたまま呟いた。


「まあ……スラッシュねー」



「先生、行ったことあるんですか?」


ユキの問いに、百合は視線を逸らして笑った。


「さあね。私はただの保健の先生だから」


その含みのある言い方は、もはや隠す気がないほどに“ただの先生”ではなかった。


漆黒の戦場『SLASH』

翌日、学校帰りの制服姿で、彼女たちはライブハウス『SLASH』の前に立っていた。

古びたビルの地下。コンクリートの壁には、どす黒いインクで刷られたメタルバンドのフライヤーが隙間なくびっしりと貼られている。


「ひぃ……! こ、ここ……空気が重いです……!」


怯えるユウナの背中を、凛が叩く。


「大丈夫だ。私がいる」


「わたくし……場違いな気がしますわ……」と漏らすレイラに、


「……覚悟を決めましょう」と雫が応えた。


中に入ると、重厚なカウンターの奥に、筋肉質の巨漢が座っていた。スラッシュの店長だ。


「ん? 高校生か? ここはガキの遊び場じゃねぇぞ」


ユキは一歩も引かずに言い放った。


「出演したいです。音、聴いてもらえませんか」


店長は太い眉を上げ、値踏みするように一行を見た。「……ほう。言うじゃねぇか」


試される音


誰もいないホールのステージで、Fractal Lilyは1曲だけ、全力の演奏を披露した。


静まり返ったフロアに、最後の残響が消えていく。


店長は腕を組み、しばらく沈黙を保っていた。


「……悪くねぇ。いや、むしろ……」


店長はニヤリと笑った。


「お前ら、面白ぇな。出してやるよ。ただし――メンズの中に混ざって修行しろ」


「上等だ」と凛が応じ、


ユウナが「が、頑張ります……!」と拳を握る。


「わたくしのギターで魅せて差し上げますわ」と不敵なレイラ。


「ひぃぃ……!」と震える琴音に、


雫が「……よろしくお願いします」と頭を下げた。


店長は声を低くして釘を刺す。


「ただし、覚悟しとけ。ここは“ガールズバンドの聖地”じゃねぇ。メタルの戦場だ。甘い気持ちで来るなよ」


「……望むところです」


ユキの答えに重なるように、重い扉が開いた。


最初の外敵

リハーサルを終えたメンズバンド『クラッシュ』のメンバーが入ってくる。

長髪のスラッシャー、デスボイスを操る巨漢、冷徹そうなテクニカル系ギタリスト。彼らは制服姿の少女たちを見て、鼻で笑った。


「女子高生? 悪いこと言わねぇ、今のうちに帰ったほうがいいぞ」

「メタル、舐めんなよ。ここはパパやママが助けてくれる場所じゃねぇんだ」

「ライブ中に泣いて帰るなよ?」


凛が「……やんのか?」と身構えるが、

ユキが誠実かつ冷徹にそれを制した。


「凛、落ち着け」


店長が間に入る。

「おいおい、喧嘩すんな。でも――対バンで勝てば認められる。それがスラッシュのルールだ」


ユキはクラッシュの面々を真っ直ぐに見据えた。


「……やってやるよ」




一方、

かつてキラーが立ち、今も“ガールズバンドの聖地”として君臨する華やかなライブハウス『スターズルーム』。


そこでは、次の「四天王」の座を狙う有力な3バンドが、不気味な動きを見せ始めていた。


● SUGAR★RUSH(ポップロック・四天王候補)

キャッチーなメロディと圧倒的な大衆性を武器にする彼女たちは、控室でスマホを囲んでいた。


「何これー。学校の音楽祭にメタルだって〜」


無邪気な笑顔の裏で、その瞳は新参者の実力を冷徹に見極めようとしている。



● VIVID BEAT(テクノ系・四天王候補)

緻密に計算されたシンセ音とシーケンスを操る、冷淡なまでの完璧主義集団。


「……この子たち、面白いわね。音楽祭の勢いのまま、ライブハウスに来るからしら?」


デジタルで制御された彼女たちの美学にとって、メタルの泥臭さは相容れないノイズでしかない。



● PRISM☆DIVA(パンク・四天王候補)

反骨精神と剥き出しの衝動を叩きつける、スターズルームで最も攻撃的なバンド。


「キラーの元ドラマーか……。大人しく消えてりゃいいものを、また面倒な火種を持ち込みやがって」


凛の過去を知る彼女たちは、 Fractal Lily の存在を「秩序を乱す毒」として忌み嫌っていた。


それぞれがジャンルの垣根を超えた思惑を抱え、メタル部を「無視できないライバル」として認識し始めていた。



学校という盾を失ったメタル部、Fractal Lilyは、ついに本物の戦場へと足を踏み入れる事になる。


夏の太陽が音をたてて燃え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ