11音目 動き出す世界
ステージを降りた瞬間、緊張の糸が切れた6人はその場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……! す、すごかった……!」
「わ、わたし……まだ手が震えてます……!」
泣き笑いのユウナと、安堵で涙ぐむ琴音。
凛は「アドレナリン出すぎて死ぬかと思った!」と笑い飛ばし、レイラは誇らしげに胸を張る。
百合先生はいつもの気だるい顔で「80点ってとこか」と突き放すが、最後に少しだけ口角を上げて言った。
「……いい音だったよ」
その一言が、何よりも重く、彼女たちの胸に響いた。
SNSの小さな爆発
控室に戻ると、ユキのスマホが何度も震えた。
画面には、学生たちがスマホで撮った粗いライブ動画がSNSで拡散され始めている。
“学校のイベントにプロ並みのメタルバンドいたw”
“生徒会長がベース弾いてて草”
“このピンク髪のギター、テクすぎ”
「えっ……えっ!? わたしたち、バズってます……!」
ユウナが驚きの声を上げる。
動画の再生数は数時間で数千を超え、地元の音楽好きや他校の生徒たちの間で急速に広まっていた。
百合先生はスマホを眺め、小さくため息をついた。
(……見つかっちまったか。この子たちの音が)
その波紋は、静かに、けれど確実に広がっていく。
都内のライブハウス。
動画を偶然見かけた四天王『ジュピター』のメンバーが、「高校生でこのレベルか」と微かに目を細める。
一方で、凛のスマホには不穏なメッセージが届いていた。
「凛、見たぞ。話がある」
差出人は、キラーの元リーダー。
「……めんどくせぇな」
吐き捨てる凛だが、その瞳には無視できない動揺が走っていた。
憎悪の炎
軽音部の部室では、部長が机を蹴り飛ばしていた。
「なんなんだよアイツら! メタルなんて時代遅れの癖に目立ちやがって!!」
部員たちが目をそらす中、彼の嫉妬は「憎悪」へと変質していく。
「絶対に潰す……あいつらの場所なんて、俺が消してやる」
帰り道。
校舎裏の静かな場所で、ユキとユウナは二人きりになった。
「ユキ先輩……今日のライブ、すごく楽しかったです……!」
「……お前のギターがあったからだよ。ありがとう、お前がいてくれてよかった」
「っ……!」
ユウナの顔が夕陽よりも赤く染まる。二人の距離は、ほんの数センチだけ、確実に縮まっていた。
一方、レイラのスマホにも、冷徹な通知が届く。
「あなた、学校で演奏したのね。すぐに帰りなさい」
母親からの言葉。
レイラは「また面倒なことになりそうですわね」と自嘲気味に呟いた。
先生の背中
校庭の隅で、百合先生が一人で空を見上げていた。
「先生……本当に、ただの保健の先生なんですか?」
この質問を百合は心で反芻していた。
Fractal Lily。
本格的な夏の到来を伝える風が吹き、伝説の初ライブを終えた彼女たちの物語は、ここから本当の試練を迎える。




