10音目 逆襲の幕開け
夕闇が校庭を包み込み、特設ステージのスポットライトが夜空を鋭く切り裂いた。
観客はすでに数百人。興味本位の生徒、困惑する保護者、そして最前列で憎悪を隠さない軽音部の面々がステージを見つめている。
「次のステージは──メタル部、Fractal Lily!!」
最初のアナウンスに対する反応は、戸惑いに満ちたものだった。
「メタル部!? そんなのあったっけ?」
「生徒会長がいるぞ、マジかよ」
「ギターの子、かわいいな」
どよめきの中、ユウナは百合先生が持ってきた「黒いフライングV」を指が疼くほど強く握りしめた。舞台袖からユキが鋭い視線を送り、短く頷く。「大丈夫だ。お前ならできる」
1曲目──“氷の女王”メタルアレンジ
凛のスティックが振り下ろされた瞬間、心臓を直接叩くような重低音が炸裂した。
ドォォォォォン!!!
「うわっ!? 音でかっ!!」
観客がのけぞる中、ユウナのギターが一気にメロスピ(メロディックスピードメタル)へと加速する。レイラのリードが白い閃光のように走り、雫のベースが地鳴りとなって足元を揺らす。
そして──琴音の声が空を切り裂いた。
「──Let it goooooo!!!」
「なにこれ……鳥肌立った!」
「声強すぎ! メタルなのに、なんて綺麗なんだ……!」
その圧倒的な「音」に、軽音部部長はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
2曲目──“海の魔女”メタルアレンジ
「さあ、わたくしの出番ですわ!」
レイラが前に出ると、超高速のタッピングが夜風に乗って乱舞した。
「ギター速すぎ!! 手が見えねぇ!」
「あのお嬢様、バケモンかよ!」
凛のドラムが暴風のように吹き荒れ、ユウナの重厚なハーモニーが重なる。
琴音の歌声は妖艶に響き、観客の意識を完全に掌握した。
3曲目──“ランプの魔人”メタルアレンジ
「……次は、私の好きな曲です」
雫のベースソロ。規律の象徴だった生徒会長が、荒ぶる低音を響かせる姿に観客が沸く。
「生徒会長……かっこよすぎるだろ……!」
「なんで今まで隠してたんだよ!」
ユキは袖で微笑む。(……雫、やっぱりお前がこのバンドの柱だ)
4曲目──“ライオンの王”メタルアレンジ
「ぶっ壊すぞオラァァァ!!」
凛の咆哮と共に、ツーバスが機関銃のように連射される。
「人間かよ!」「あのドラムの子、キラーの凛じゃないか!?」
ざわめきが確信に変わり、会場はもはやただの学校のイベントとは思えない熱気に包まれていた。
舞台袖の対話
4曲目が終わり、熱狂の渦が巻く中。
ユキは隣で腕を組む百合先生に問いかけた。
「……先生。あなた、本当は何者なんですか?」
百合は、ステージの光を鋭く反射する瞳で一瞬だけユキを見た。その目は、普段のやる気のない保健医のものではない。
「……ただの先生だよ。昼寝が好きな、ね」
「でも、音が分かりすぎる。それにあのギターは……」
百合は肩をすくめ、視線をステージへ戻した。
「気のせいだよ。ほら、見な。お前たちの音……すごいじゃないか」
5曲目──オリジナル曲「Fractal Lily」
ユキ自身もステージへ上がる。「最後は──俺たちのオリジナルだ」
静まり返る校庭。ユキはユウナの目を見た。
「行くぞ。お前の音で、世界を変えろ」
ユウナの渾身のピッキング。凛のカウント。レイラのリード。雫の重低音。琴音の魂の叫び。
すべてが混ざり合い、結晶となった「Fractal Lily」の音が、夜空を突き抜けた。
観客は拳を突き上げ、軽音部部長は膝から崩れ落ちた。
自分たちの「音楽」が、根底から覆されたことを悟ったのだ。




