第8話 突然の告白
(もしここで、「妹の手を舐めたい」なんて口走ったら……。その瞬間、俺の人生は終わるな……)
脳裏に浮かぶのは、容赦のない拳と蹴りの嵐。想像するだけで背筋が凍る。
(だが……助かった。あいつ、俺が何を叫んだかまでは分かってないみたいだ……。もし気づいてたら、今ごろ俺は床に沈んでる)
「お兄ちゃん?」
「あ、ああ……え、えっとな……」
呼びかけに、喉がひくりと鳴る。
(生き延びるには――ここは、嘘をつくしかねえ!)
彼は一度、深く息を吐いた。乱れきった鼓動を、どうにか押さえ込もうとする。
動揺したままでは、すべてが顔に出る。そんな状態で言葉を紡げば、嘘など一瞬で見抜かれてしまうだろう。
数秒――いや、体感ではそれ以上の時間をかけて、ようやく呼吸が整う。
そして彼は、ゆっくりと口を開いた。
「さっき……俺が何を叫んだか、だったな?」
「うん」
無垢な頷きが、逆に胸に刺さる。
「そ、それはな……。お、俺は……その……妹が……」
一度、言葉が詰まる。逃げ場は、もうない。
「お前のことが……好きだって、言ったんだよ」
――言ってしまった。
(うわあああああああああ!! やっちまったあああああ!!)
心の中で絶叫が弾ける。
(これ、嘘っていうか……ほとんど本心じゃねえかあああ!!)
頬が、みるみるうちに熱を帯びていく。自覚した瞬間、その言葉の重みと恥ずかしさが一気に押し寄せてきたのだ。
視線を逸らしたまま、彼はそれ以上何も言えなくなる。
だが――。
「……私のこと、好きって言ってくれて、嬉しいよ。お兄ちゃん」
返ってきたのは、あまりにも穏やかな声だった。
普通なら戸惑い、拒絶し、あるいは怒りを見せてもおかしくない場面。それなのに彼女は、まるでそれが自然なことのように――やわらかな笑みを浮かべていた。
その反応は、彼の予想を静かに裏切っていた。




